ナガレボシ Falstelo
ほの青きみ空の光
野に顫ふ夕べとなれば、
街の児がさやぎもやみて
新星のほのめくみぎり。
――北原白秋
失恋して泣いていた夜。
流れ星がたくさん降っているよとSNSで教えてもらったので、近くの浜に出てみた。
ほかにも人の影が見える。あちらこちらで控えめな歓声があがる。
たしかに見ものな風景で、次々に小さな光が空に生まれては飛び去っていく。
力がぬけたような気分でぼんやり眺めているうちに、星の一つがわたしの方にむかって落ちてきた。
あっ、と思った次の瞬間には、星はわたしの右目のなかに入ってしまっていた。
痛くはない。顔を左右に振ると、ころころと軽い音が鳴る。左の目で右目をそっとのぞきこむと、硝子の器に似た丸くうつろな物のなかに、氷か水晶を思わせる欠片がころがっていた。
氷ならそのうち融けるかもしれないけれど、もし水晶だったらずっとこのままだ。それに、目の奥にはあのひとの姿をだいじに収めてある。氷が融けたら融けたで汚れてしまうだろう。
なんとかして取れないかと右目のなかに腕を伸ばす。筋がひきつりそうなほど伸ばして、ふるえる指先がやっと目的の塊に触れた。すると取り出すどころかわたしの方がその塊のなかに吸いこまれてしまった。驚く暇もなくわたしはさらに奥へと、強い力で引かれて飛ぶ。
気がつくと、わたしは夜空を飛んでいた。
下は見おぼえのある海辺で、そちらにむかって落ちていくところだ。
浜に一人の女の子が立っていて、わたしを見あげている。あぶない、と思った時には、わたしはその子の目に飛びこみころがってしまっていた。
すぐに出てあげようと思うのだけれど、体がなんだか固まっていて、動けない。丸い硝子の器に似た目のなかで、自分が入ってきた方向を苦労して見やると、女の子がわたしにむかって懸命に手を伸ばしているところだった。
その指先がわたしに触れた時、女の子がわたしの目のなかに吸いこまれて……。
Fino
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