婚約破棄はなんちゃって 〜微エロい婚約者と令嬢ステラの卒パの夜の異世界旅行〜
婚約破棄を宣言するのに適したパーティが今夜、開かれます。
最終学年の生徒は皆、卒業記念パーティ、通称「卒パ」への出席が義務付けられています。
婚約者……そう呼べるのはあと数時間だけでしょうけれど、彼もわたくしも、それぞれ参加しなければなりません。
予兆はあったのです。
学園内ですれ違う際、目を合わせないように、きっと細心の注意を払われておりました。
クラスは違えど同じ学年。日に5回は交わしていたアイコンタクトが0回になれば、それが故意であることは容易に想像がつくというもの。
わたくしからの手紙によるお茶の誘いは、直近では3回続けて、多忙と田んぼとダンボ(金曜ロードショー)を理由に断られております。
今夜の卒パについて、エスコートの約束はありませんでした。
ドレスも装身具も花も、待てど暮らせどしらそ、何も届くことはなく。
エスコート無く、泣く泣くエスカップ飲んで胸糞悪くてエスケープ……夜会会場にエスカップが置いてあるかは怪しいところですが、冗句でも言っていないとやってられない気分にもなります。
考えた言葉を口に出したところ、虚無感に襲われたことは言うまでもありません。
侍女が用意した布面積の少ないスケスケ肌着?を身につけ、婚約者から過去に贈られたお気に入りのドレスに袖を通しました。胸元がややきつく感じるものの、流石は当家の侍女。熟練の技で背中のボタンをどうにか留めてくれました。
「いいですか、お嬢様。時計の短針が12、長針が12を指す前には必ずお戻りください。さもなければ、ボタンが弾け飛んでしまうことになるでしょう」
要は朝帰りはするな、と五寸釘を刺しているのでしょう。背中のボタンが1つ、また1つと、わたくしよりも長く太い美しい指で丁寧に外されて……は夢のまた夢、荒々しい手付きでドレスを引きちぎるが如く勢いよく肌をさらけ出され美味しく頂かれ……と婚姻前に朝帰りなどした日には、人柱たる侍女に血塗られたテディベアが磔になっていること請け合いです。ガイシャは二十代後半の女性、職業は当家の侍女。見たところ死因は五寸釘が心臓を貫いた為と思われますが、事件事故の両面から捜査を進めますので、詳細は検視結果を待ってから……というのは冗談で、侍女も、婚約者から10歳のバースデーにプレゼントされたテディベアも、いたって無傷。ブラックユーモアは気持ちのいいものではなく、スッキリするどころか逆に気が滅入ってしまいます。
「日付が変わらないうちには帰宅しますわ」
さてと、胸のパツパツ感は否めないまま、有能な侍女の手によりドレスアップしたわたくしはいざ、卒パへ。
馬車でドナドナ運ばれた会場に、居ました居ました、婚約者。
華奢なご令嬢を小脇に抱えております。
わたくしは悪役令嬢ポジションですわね。
ぱちり、婚約者と目が合うのはいつぶりかしら。
「あぁステラ、ちょうど良いところに。こちらのご令嬢は気分が優れないようだから、俺が今から救護室に連れて行く」
何と、今カノに向かって、堂々とベッドin(予定)宣言。救護室といえばベッド、ベッドといえばin。「先生は今から出張で留守にするのだけれど、君に彼女のことを任せてもよいかしら」「はい、先生」そうして保健室から先生が出て行き、先生の後ろ姿が見えなくなったところで男子生徒は入り口の戸をガチャリ、鍵を掛け、ベッドに横になったご令嬢の上に覆い被さり、そして……!!
「だからステラも付き添ってくれ」
「え?何故ですの?」
「男女二人ではあらぬ噂を立てられる可能性があるだろう? だからステラも一緒においで」
まさかの複数プレイ(予定)宣言。そうして、婚約者、今カノ、カノ予定者の計3人は卒パ会場を離れ、ピンクの風そよ吹く救護室へ。
ガラガラガラ、お邪魔します。
「あら、体調不良の子かしら?」
「はい、先生」
「連れて来てくれて有り難うだけれど、せめて横抱きにしてあげましょうね」
「先生、俺は愛する人以外を両手で抱けないのです。アルコール消毒液をお借りしても?」
このご令嬢はきっと本当にただの体調不良者で、カノ予定者は恐らく別の子だったのでしょう。
婚約者は小脇に抱えていたご令嬢を手前のベッドに雑に下ろし、令嬢に布団をそろりと掛けてあげる優しさを見せました。
シャシャッ、とベッドを囲うように設置された天井のレールから吊られた遮光カーテンを引き、ご令嬢は完全に視界の外へ。これにて1件落着。
婚約者はわたくしのすぐそばまで戻って来ると、消毒液を手のひらにたっぷりと出し、指のマタや爪の周り、手の甲までしっかりと擦り合わせます。
「時に先生、空いている奥のベッドを自分達がお借りしても差し支えありませんか?」
「差し支え大有りよ。休んでいる子がいるし、先生もいるのだから、当然駄目よ」
婚約者はチッと舌打ちし、わたくしの手を引いて救護室を出るのでした。
先程の流れは……もし先生が許可していたとしたら……シャシャッ、とベッドを囲う遮光カーテンが婚約者の手によって一瞬で引かれ、カーテンの中の空間にはベッド、わたくし、婚約者……まさかの、in !?「後ろを向いてステラ、ボタンを外してあげるから。胸が苦しいだろう? 少し待っていてね、すぐに開放してあげるから、俺の……ステラの温かで柔らかな胸の膨らみ」というのは妄想の域を出ませんが、このような流れが今後も続くようであれば、わたくしは侍女との約束を違えることになるやもしれません。目が覚めたら見知らぬ天井とどじょう掬い饅頭の茶菓子が。
「どうする? ステラは会場に戻りたい? それとも俺とエスケープする?」
エスケープの前にはエスカップで小休憩を、ですがどじょう掬い饅頭とエスカップの組み合わせは何とも言いがたく……やはり饅頭はお抹茶で頂きたいですわ。
「卒業する生徒の卒パへの参加は強制ですもの。わたくしは会場に戻りますわ」
ということで、エスケープの誘いは遠慮し、エスコートを受けながらの再入場。
エスカップエスカップ、わたくしのお胸はABCの、Cカップ。流石は異世界恋愛という夢の舞台、まだこれから社交界という荒波と異性の手によりもみもみ揉まれて発展途上の未来溢れる豊満ボディに。
「やっとステラと一緒にいられるな。どうする? 踊るかい?」
「わたくしはエスカップを飲まなくては」
「ハスカップジャムサンドなら向こうにあったよ」
北海道。
「それを頂きますわ」
北海道北海道北海道。
「では飲み物はガラナでよいがらな?」
ナイアガラナイアガラ……ではなく、ガラナガラナ。
「ええ、よろしくてよ」
ハスカップジャムサンドとガラナを美味しくいただきながら、婚約者と久し振りの対話です。
「え、急に目が合わなくなった? それは生徒会で卒パの準備に追われていたのと、卒パの後にステラの全てを頂くという夢いっぱい、やましい妄想を何度もしてしまったからで、ステラを見ると一糸まとわぬ君の愛らしくイヤらしい姿が繰り返し思い出されてしまうからで」
婚約者の目には今も、裸のわたくしが見えている模様。
「では、婚約破棄はなさいませんの?」
「婚約破棄? まさか、ステラを美味しく頂くのをどれほど楽しみに、今日という日を入念に準備してきたことか」
「ですが、エスコートの約束も、あの……プレゼントなども、何も無くて」
「生徒会役員だからエスコートは無理だと、伝わっているものと思っていたよ。俺の説明不足だったね。プレゼントはナイトドレスをちゃんと贈ったけれど、行き違ったかな?」
スケスケ肌着はスケベな婚約者からの贈り物だったようです。
日付が変わる前には帰らねばならないことを伝えると、あっという間にテイクアウト体制に。
またまた馬車にてドナドナドナドナ、婚約者邸へとドナドナドナドナ。
「卒パでの生徒会のお仕事はよろしかったのですか?」
「後のことは後輩の仕事だ。俺には俺の、ステラ……君と大至急すべきこと、取り掛からねばならないことがある」
「なにぶん初めてですし、時間をゆっくり掛けていただきたいですわ」
「もちろん、時計の針が許すまで、丁寧に優しくすると誓うよ」
この後、時計の針が許すまでの数時間、時間目一杯、暗い夜空を月明かりがぼんやりと照らし、わたくしと婚約者は「なろう」異世界からムーンなライト輝く異世界へと舞台を変え、婚約者の部屋のベッド上で婚前ながらもイチャイチャと、お互いの愛を深めたのでした。