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絶叫

「えー……本当に行くの?」


 詩音は嫌そうに立ち止まる。


「これが目的で来たんでしょうが。行く行く」


 美海は詩音の手を掴んで強引に中へと引っ張っていった。ときどき美海はびっくりするような力を出す。主に腕力方面で。

 僕も二人についていく。


「やっぱりやめようよー、お化け屋敷とか怖いよー」


 詩音の悲鳴は無視された。




 今日は美海と詩音と僕、佐々木夜の三人で小崎町の隣の大戸ノ町にある遊園地に遊びにきた。詩音曰く、花やしきみたいなサイズ……だそうだけど、僕は花やしきを知らない。遊園地らしい。

 そこに夏の間だけお化け屋敷が設置される。そのお化け屋敷に美海がスタスタと入っていき、詩音も抵抗したものの美海にがっちり腕を捕まれて引きずり込まれていった。その様子がすでにホラーだ。


 お化け屋敷の中は薄暗く、足下とお化けのいるところだけほんのり照らされている。美海はお化けが出てくると


「出た!」


 と、なぜかはしゃぎ、詩音はギャアと絶叫する。それをひたすら繰り返して無事に出口までいけた。


「無事じゃないし!」


 お化け屋敷を出た途端、詩音が怒りだした。


「五体満足だよ」


「無事のハードルが低い!」


「じゃあもう一回行こう」


「じゃあ、じゃないよ!」


 怒る詩音と、お化け屋敷が楽しかったらしい美海でちっとも会話が成り立ってない。おもしろいけど、そろそろ次の人が出てくるから移動したい。


「ねえ、あのコースター乗ろうよ」


「行こう行こう」


「あれなら小さいから怖くないかなあ」


 テンションの高い美海がニコニコとコースターに向かい、詩音は警戒しつつも美海についていく。

 ごめん詩音。あれ、けっこうスピードが出る上に急カーブが多いのと地下にもコースがつながってて、かなり長いんだ。心の中で謝りながら僕も二人を追った。

 声に出さないのは、もちろん詩音を驚かせるためである。




「死を覚悟したよね」


「そんな大げさな」


「いや、ほんと。花やしきなめてた」


「花やしきじゃないよ」


 休憩スペースのテーブルに顎を乗せて、死んだ魚みたいな顔の詩音を横目に、僕と美海はハンバーガーを食べている。この遊園地に売っているハンバーガーは大きくて、中のハンバーグが分厚くて大好きなんだ。でもここでしか食べられないからとても楽しみにしてた。

 詩音は白い顔でつぶやきながらジュースをすすっている。気持ち悪くて食べる気にはならないけど、喉が痛いので飲み物だけ……ということだそうだ。あれだけ叫べばね。

 詩音は最初の下りから、最後止まるところまでほぼ叫び通しだった。美海と詩音が並んで一番後ろの席、僕はその前に一人で座った。その並びにしたのは美海だ。


『一番後ろが一番楽しいよね』


 ということだ。詩音も、


「前より後ろの方が怖くないかな……」


 と、頷いて美海に並ぶ。それが美海の罠だとも知らずに。




「この後どうしよっか。もう一回お化け屋敷行く?」


「美海はバカなの? 冗談じゃないけど」


「じゃあ私一人で行ってくるね。夜、詩音任せた」


「はいはい」


 美海は一人でさっさと行ってしまった。

 詩音はぐったりした顔のまま、美海を見送っている。


「夜、美海を一人で行かせてよかったの?」


「いいんだよ。美海は一人でお化け屋敷行くの好きだから邪魔しないほうがいい」


「?」


「……一人で爆笑しながら回るのが楽しいんだってさ」


「意味わかんない」


「僕にもわかんない。美海が楽しいならいいんだよ」


 そう言って笑うと、詩音も笑った。


「そろそろお腹空いちゃった」


「今ならお店も空いてるからなんか買っておいでよ。おすすめはハンバーガー」


「さっき二人が食べてた大きいの? じゃあそれにしよ」


 詩音は立ち上がって近くのハンバーガーのお店に向かう。少ししてハンバーガーやポテトを抱えた詩音が戻ってきて、すぐ後に満面の笑みの美海も帰ってくる。


「詩音が食べ終わったらコースターまた行く?」


「行かないよ! 食べたもの出ちゃう」


「じゃあコーヒーカップ。全力で回す」


「メリーゴーランドとかさあ、穏やかなのがいいよう」


 げんなりした顔の詩音と、あれもこれも乗りたいという美海。こんな休みの日が、もう少し続くといいな。

 僕は二人を眺めて幸せな気持ちになる。

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