厨二真っ最中、某オタク少年の場合
『あなたが落としたのは金のチケットですか? それとも銀のチケット?』
優しげな泉の女神がオレの目の前で微笑んでいる。
そう、ここは正直に答えるところ。
「いいえ、どちらでもありません、オレが落としたのは……」
『まあ、なんて正直な人間なのでしょう。』
女神は心の底から感動したように両手を胸に当てた。金と銀のチケットとともに。
ふふふ、そうだろうそうだろう。そして正直者のオレは全ての幸運を手にする、というわけだ。
若干、女神の言葉が食い気味だったことは気になるが、まあささいなことだろう。
『そんな素晴らしいあなたには、異世界転生特典「俺tueee金のチケット」と、「チートスキル銀のチケット」、そして「勇者ハーレムプラチナチケット」を差し上げましょう。この3つがあれば、あなたはこことは別の世界に転生後、異世界で英雄となって素晴らしい人生を送ることができます』
よしキタッ、異世界転生!!
トラックにぶつかったときにもしかしてって思ったんだよな。いやあ生きてて良かった。いやこの場合死んでて、か? ヤバいなこのブラックジョーク。どっかの倫理規定に引っかかりそうだ(笑)。
まあとりあえず好青年なとこ見せとくか。
「ありがとうございます、オレ頑張ります!」
すると女神様は優しく微笑んだ。
『では英雄として旅立つ前にひとつ』
なんだろう、もしかしてこの女神様もハーレムキャラかな。
『あなたが転生する世界には多くの神々がいて、それぞれ宗教があります。一夫一妻制の宗教もあれば、そんなことは気にしない神もいます。転生先の国はどちらでもない国の予定です。ハーレムチケットを使用するのなら、どの神であれ一夫一妻制の神の巫女や聖女には手を出さないようにしてください。それさえ守れば問題は起きません』
えっ……
「ハーレムはダメなんですか?」
『宗教によっては』
「もし守らなかったらどうなりますか? その、知らなかった、なんてこともあるでしょうし」
『相手がそれまでの宗教を捨ててあなたについていく覚悟であれば大丈夫です。ただ、相手を騙したり裏切ったりするようであれば、神罰があるでしょう』
「神罰、というと」
オレはごくりと唾をのむ。
『その相手との縁がなくなります』
縁が、なくなる。
「それだけ?」
「ええ、それだけです」
なんだよ、それだけかよ。
オレは安心して思わず笑ってしまった。
「要するに、騙したり裏切ったりしなきゃいいんですよね」
『ええ。ただそれだけです』
なら、説得すればいいのだ。宗教を変えてくれ、と。ただそれだけのことなのだから。オレについてきてくれるなら一夫多妻を受け入れてもらう。簡単なことだ。
「あ、それと、一夫多妻制の国に生まれることってできますか?」
『できますが、異母兄弟が多いといろいろ大変ですよ? それに、転生先は旅の仲間と幼馴染になれて、神託がきちんと届く場所を選んでいるのですが……』
なるほど。なら仕方ない。仕方ないかな? うーーん、まあ仕方ない気がする。イヤってほどじゃないし。
優秀な異母兄弟とか暗殺対象にしかならないだろうしな。
「わかりました。予定通りで大丈夫です。他に何か注意したほうがいいことってありますか?」
『いいえ、特には何も。赤ん坊からの転生になるので、力の使い方やレベルの上げ方は最初から学び直しになりますが、あなたには才能があります。努力は必ず報われます。頑張ってくださいね』
「はい!」
どうやらこの女神様はハーレム要員ではなかったらしい。
残念に思いながら、オレは笑顔で敬礼をした。
体がどんどん薄くなっていくのがわかる。
ああ、オレは生まれ変わるのか……。
『あなたがゆくのはあちらの扉です。どうかわたしたちの世界を救ってください。あなたによき英雄ライフを……』
女神の声が遠ざかっていく。扉の向こうの光に、オレは包まれていった……。