某アイドルファンの場合
『あなたが落としたのはこの金のチケットですか? それとも銀のチケットですか?』
「は?」
俺は目の前の子供向け童話全集とかに出てきそうなのになぜかエロい女神様の登場に顔をしかめた。
『もちろん、どちらでもない可能性もありますね。その場合はこのプラチナチケットを……』
プラチナ、だと?
「具体的にそのプラチナチケットっていうのはどういうものなんですかね」
『え? ええと……』
「何か特典があるってことでしょう? ちなみに俺のチケットはみ〜にゃんとの握手券がついてツーショット写真が撮れてサインまで貰えるファンクラブ限定のみ〜にゃん誕生日記念で抽選3名にしか当たらない、超プレミアチケットなんですが、さらにそれ以上のことをしてもらえるってことですか?」
『い、いえ、それは……』
「違うんですか? 違うんですね? ていうか期待させないでくださいよ。俺は余計なことしてるほど暇じゃないんです。み〜にゃんに相応しい男になるため、ジムで自分を鍛えていい成績を取ってじい様の跡継ぎに選ばれてこの国のトップに立たなきゃいけないんです。遊んでる暇も死んでる暇もないんですよ。さっさと元の場所に戻してください」
『あ、ご、ごめんなさい』
「2度と呼ばないでくださいね。あと、五体満足、後遺症なしで戻してくださいよ」
『は、はい、すみませんでした……』
女神が頭を下げるのを確認すると俺の体が薄くなっていくのを感じる。不思議な感覚だ。
多分学校の授業中に戻されるのだろう。
もしもあの女神に唯々諾々と従っていたら、俺は死んだことになって異世界へ行っていたのだろうとわかる。だからこそ、あの女神も強くは出られなかったのだ。
俺は死んでなどいなかったのだから。
み〜にゃんのいない世界へ行くなどごめんこうむる。
一瞬意識が途切れて、そして次には教室の自分の机に座っていた。
黒板の前では数学の担当教師が教科書片手に話している。
友人などいない、家族も含めて人間の愛情などかけらも信じられない。他人など貪るだけの肉でしかないのが現実のこの世界で。
み〜にゃん。
彼女だけが輝いている。
俺は彼女のいる世界に帰ってきた。彼女がいるからこの世界は美しい。彼女がいない世界などゴミだ。
女神の敗因はたった一つ。
プラチナチケットの特典をみ〜にゃんにしなかった。ただそれだけなのだ。
『うう……説得できれば連れて行ってよいと許可をもらっていたのに……」
もうすぐ扉が閉じてしまう。
世界を癒し、人々を救う才を持つ聖女。
世界を救い、人々を導く才を持つ勇者。
前者は若くして死ぬ運命だった。
そのため、比較的容易に許可が下りた。
後者はこの世界に必要な人間だったため、本人がいいと言えば、と許可が出た。
だがどちらも失敗した。
あとはたった1人。
彼女の世界へ魂を転生させるのに同意してくれたのは、日本の神々だけだった。
その中から、候補はたった3人。もう次でダメなら後がない。
『選択の余地など与えない、手段も選ばない、それでいくしかありません』
女神の瞳がギラリと光った。