凡人現る。
異世界転移というものは、本の中だけの話だと思っていた。
4月、晴れて新入社員!!になった私、東雲りつは張り切っていた。
新人研修も終えて、私は意気揚々とパンプスを鳴らしつつ会社へ向かった。
張り切る私に、会社の先輩が・・、
「東雲くーん、倉庫からバインダー欲しいから3つ持ってきて〜」
「はい!」
張り切って倉庫へ入って、バインダー3つを持って扉を開けたら
目の前が異世界だった・・。
馬車が目の前を横切って走っている・・・・・?
急いで、後ろを振りむくと・・倉庫は倉庫だけど、私の知っている倉庫じゃない!?物が乱雑に置かれた薄暗い部屋だった。・・・怖い。とりあえず出よう・・。
そろっと外へ出て周囲を見渡すと石造りの街並みだ。
「ヨーロッパ・・・みたいだな」
長いスカートを履いている女性が、扉から出てきた私をぎょっとした顔で見ている。私もびっくりです。私を見る人が上から下まで見て、怪訝な顔をしている・・。
パンツスーツも、短い髪も可笑しいのだろうか・・。
いや、可笑しいか・・異世界みたいだし・・。
黄緑のバインダー3つ持ってる女なんて可笑しいだけか。
これ、どうしたらいいんだろう・・。
突然放り出されたこの世界で、私は硬直しそうになる。
「貴方、面白い格好してるわね」
不意に、女性の声がして、後ろを振り返る。
銀色の長い髪を一つ結った、灰色の瞳をした・・綺麗な女性が私を見ている。
「貴方、女性・・?」
「一応・・・」
「一応って!髪が短いから男性かと思ったわ!どこから来たの?ここら辺は治安は良いけど、あまりその格好をしていると注目を集めすぎちゃうわよ」
「・・・多分、私・・家がなくなりました・・」
「え?!!」
ついでに言えば、ここの世界の住人ではないと思います。
「あと・・、仕事もなくなって・・」
「はぁ?!」
もっといえば、せっかくの仕事もなくなった・・。
せっかく沢山働いて、稼いで・・プロジェクター買って家で映画とか、アニメ観ようって思ってたのに・・その夢も潰えた・・。何もかも・・消えた・・。
泣きそうだ・・。
ダメだ・・、こんな所で泣いてもお姉さんが困ってしまう・・。
グッと堪えようとするけれど・・、どうしたらいいんだ。こんな世界でたった一人・・。
「・・・貴方、名前は?」
「りつです・・・。しののめ・りつです・・」
なんとか鼻をすすって、涙を堪えると綺麗な銀髪をさらっと流した美人のお姉さんがすっと手を差し出す。
「私はミスク。りつ、これも何かの縁ね。うちにいらっしゃい・・、住む場所くらい提供してあげるわ」
私は目を丸くしてミスクさんを見る。
だって、いきなりこんな格好の私に優しくしちゃって良いの?!
ミスクさんは、にっこり笑って・・
「私ね、魔力を持っているの。善人と悪人の見分けがつくのよ?だから、貴方は大丈夫って思ったの」
「・・・でも、いきなり私を拾って・・お家の方とか大丈夫なんですか?」
「ああ、それは大丈夫!もう良い大人だしね。そんな干渉する家でもないから。ほら、いらっしゃい!」
「え、ええ・・・」
そういって、ミスクさんは私の手をグイッと引っ張っていく。
美人さんなのに、強い。
そして、魔力・・って言ったよね?
ここって魔法がある世界なの??
私のパンプスが石畳を歩くたびに、カツカツと鳴るので道ゆく人が私達を不思議そうに見る。うう・・、恥ずかしい。気にせず手を引っ張っていくミスクさんに話しかける。
「ミスクさん、魔力があるって言ってましたけど・・、ここって魔法とか使える人がいるんですか?」
「そうね、半々くらいかしら。貴方は魔力を持っているようね」
「え?!!そうなんですか?」
魔力なんてものに、とんと縁のない世界に生きていたので驚くと・・
ミスクさんはにっこり笑う。
「そう!だから、きっと大丈夫よ」
そう言われて、初めてなんだか不思議と安心できた私だった・・。




