その魔法少女、バケモノにつき(短編化)
小鳥遊祈里は中学二年生。物心つかないうちに両親を亡くして親戚の家に引き取られた祈里だったが、愛情たっぷりに育てられ元気良くすくすくと育った。
ある日、学校の祈里のクラスに転校生の少女がやってきた。だが転校生は不愛想で、クラスから孤立してしまう。転校生自身もそれでいいという様子だったが、祈里はそんな転校生のことが気になり、しきりに構っていた。だが転校生は「迷惑だ」と言って祈里を突っぱねてしまう。
自宅の茶の間。テレビの日常的ニュースとして「モンスター」と「魔法少女」の戦いが報じられる。数十年前、前触れもなく各地に突然現れた「ゲート」と呼ばれる靄。それを通って異世界からモンスターが現れたとき、世界は混乱の渦に叩き落された。幻想物語の生物になぞらえて「ゴブリン級」「オーク級」などと呼ばれたそれらのモンスターは、一体が人間の軍隊数十人に匹敵する力を持つ。それらが群れとなって前触れもなく「ゲート」から現れる世界が訪れたとき、人々は絶望した。
だがそんなとき、一部の少女たちの中に特別な力に覚醒する者が現れ始める。「変身」をすることによってモンスターをも遥かに凌駕する力を発揮する少女たち。彼女らは「魔法少女」と呼ばれるようになった。
ある日の授業中、学校の校庭に「ゲート」が現れる。転校生の少女が舌打ちをして、三階にある教室の窓から飛び降りた。転校生は空中で「変身」を遂げ、ゲートから現れるモンスターの前に降り立つ。彼女は魔法少女であり、価値観が違う一般中学生とはどうせ仲良くできないからと壁を作っていたのだ。
戦いを始める転校生。だがとりわけ強力なモンスターが一体いて苦戦する。やがて強力な一撃を受けて崩れ落ち、トドメの一撃を受けそうになる。
祈里が教室の窓から飛び降りる。できるような気がした。「変身」に成功し、着地する祈里。すぐさま転校生の前まで走り、彼女に振り下ろされようとしていたトドメの一撃を受け止める。転校生の魔法少女をたやすく吹き飛ばした一撃を、祈里はしっかりと受け止めた。驚く転校生。祈里はモンスターを一撃で吹き飛ばす。
唖然とする転校生。「な、なんで……」そう口にする転校生の少女に、祈里は笑顔で言う。「だって、友達でしょ」転校生の少女は、「いや、そこじゃねぇよ。……そこもだけど」と照れて頬を赤らめた。
祈里は魔法少女を束ねる組織へと案内され、そこでモンスターの生態に関する説明を受ける。モンスターの目的は不明だが、殺戮や繁殖行為を行う傾向があるという。繁殖にはこの世界の母体を使うというホラーな説明を聞いて、祈里はうわぁと顔を引きつらせる。
祈里は期待の大型新人魔法少女として快進撃を始める。魔力測定では規格外の数字を叩き出し、魔法少女同士の交流試合でも並みいる魔法少女をなぎ倒して優勝をもぎ取る。「ば、バケモノ……」対戦相手が言うと、祈里は笑顔でVサインを見せた。
だが対戦相手のリーダー(ライバル魔法少女)は悔しげに爪を噛む。「あんな強さは絶対におかしい。何か秘密があるはずよ。絶対にあばいてやるわ」
祈里を尾行したり、魔法少女組織に忍び込んで資料を漁ったりするライバル魔法少女。その最中、彼女は本当に祈里の正体に関する恐ろしい秘密を知ってしまう。魔法少女組織の秘密のファイルには、過去にモンスターに敗北して繁殖母体にされた一人の魔法少女の記録。普通の母体であればモンスターの子供が生まれてくるが、魔法少女を母体にしたその例では人間の姿をした赤ん坊が生まれてきた。その赤ん坊は祈里と名付けられ育てられた。
ライバル魔法少女は、ほかの魔法少女たちと仲良くしている祈里の前で言う。「そいつはモンスターの子──正真正銘のバケモノよ!」事情を説明されると、周囲の魔法少女たちは不気味がって祈里から離れていく。祈里を擁護したのは転校生だけ。祈里はやがて、泣きそうな笑顔で言う。「うん、それは私、バケモノだね」その日から祈里は姿を消した。
転校生が祈里を探すが見つからない。そんな中、「ドラゴン級」と呼ばれるかつてなく強大なモンスターが現れる。魔法少女たちが束になっても敵わない。瀕死の魔法少女たちが炎で一斉に焼かれようとしたとき、現れた一人の魔法少女がドラゴン級の頭部を蹴り飛ばした。倒れるドラゴン級。祈里は言う。「バケモノと呼びたい人は呼べばいい! でも私は、私の友達のために戦う!」
単身でドラゴン級と互角の戦いをする祈里。ボロボロになりながら戦う祈里の姿を見て、転校生が加勢に入る。さらにほかの魔法少女たちと、ライバル魔法少女も。「ごめんなさい! バケモノは私たちだった!」「「「ごめんなさい、祈里ちゃん!」」」「うん。それじゃあ仲直り」魔法少女たちは力を合わせて、ドラゴン級を打ち倒した。
魔法少女たちの戦いの日常。モンスターから人々を守る祈里は、笑顔だった。