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黒の魔術師   作者: 野村里志
第二章 黒き正義
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黒き正義



「逃げ足の速い奴だ」


デリフィードは小さく呟く。


レナードは戦いが始まるやいなやすぐさま魔導弾を放った。そしてそれにより巻き上げられた砂塵によってすぐさまデリフィードの視界から消えていた。


レナードはこの土地の出身であり、辺りの地形については自分よりも数段理解している。デリフィードは追っていく事があまり得策でない事も自覚はしていた。


しかし自らの正義に誓い、デリフィードに一時撤退の選択肢はなかった。


「やはり追ってくるか。それもかなり正確だ。完全に撒くのは難しそうだ」

「ちょっと!何で逃げるのよ」


レナードはサラと平地を疾走する。サラは突然の戦闘にまだ気持ちが追いついていなかった。陽は傾きはじめ、辺りは徐々に暗くこそなっていたが、障害物はなく見晴らしも良かった。


「ねえ」


 サラが息をきらしながら問いかける。


「あの人はどうして急に襲ってきたのかしら?しかも貴方を黒の魔術師と知っていたし」

「さあな。大方さっき言っていた『正義のため』じゃないか。詳しいことはわからないが」

「だったら逃げないで話してみましょうよ。何か誤解かもしれないし、こっちも黒い痣を取り消すための行動をとっているわけだし分かり合えるかも…。私行ってみる」


 そういうサラをレナードは一度近くの丘の裏に引き込む。


「バカかてめえは。人質に取られたらどうする?お前を殺さない保証は?お前が勝てる保証は?」


そう言われてサラは少し言葉に詰まる。


「でも正義に準ずるとも言ってるし、そういう人なら無関係な人に危害は加えないかも」

「いいや加えるね。すくなくとも追い込まれたら必ずお前を狙う」

「何でそう言い切れるのよ!」


レナードの押し切るような言い方にサラは少し腹を立てる。しかしレナードの真剣な表情にそれ以上の言葉は出なかった。


「根拠ならある」


レナードはそういって続ける。


「この世で正義って言葉ほど耳あたりが良くて胡散臭い言葉はない。好き好んで正義とか正しさを語る連中ほど信用できないものはない」


「師匠の受け売りだがな」と続けながらレナードは周囲の地形を窺う。


「いいか作戦は単純かつ明快だ。俺が隙を作る、その瞬間にお前はナイフを首に当てるなりして相手を無力化してくれ。俺は向こうの草むらから襲撃するから、お前はそこの岩陰に隠れて機を伺え分かったな?」


レナードの勢いに押される形でサラははこくんと頷く。それを確認したレナードは少し離れた草むらに身を隠した。


すこししてデリフィードがやってくる。レナードが隠れている側まで来ると足を止めた。


「近いな」


そう言うと鞘に収めていたサーベルを抜き始める。レナードが仕掛けたのはほぼ同時であった。


「ガキン」と言う金属音と共にレナードが持っていたナイフが弾き飛ばされる。続く横一閃を寸前のところで加速し躱す。しかし頰には切り込みが入り血が垂れていた。


「ほう。今のを躱すか。さすがだな少年」

「俺としては今の一撃で決められなかったのは痛いな」


レナードはそう言うとすぐさま魔導弾を連射する。しかしデリフィードはその悉くをサーベルで叩き落としていく。


「くそ、一体どうやったらこれだけの魔導弾を叩き落とせるって言うんだよ!」

「己を磨くことを知らぬ悪漢には分かるまい。特に弱者を虐げあまつさえ殺すような輩にはな」


「ふん」と一息吐き一瞬にしてデリフィードはレナードとの距離を縮める。


(不味い!)


「終わりだ悪党」


デリフィードはその丸太のような太い足でレナードに蹴りを入れる。しかしデリフィードの足にはいつも感じるはずの骨を砕く感触は得られていない。


「なるほど、そのローブは魔術付与(エンチャント)されたものであるか」

「ああ刃物に鈍器になんでもござれだ」

「しかしまったくの無傷ではないようだな」


 レナードはあれた呼吸を戻そうと大きく呼吸をしようとする。しかし受けた衝撃はダメージこそ減らしたものの確実にレナードの体に衝撃を与えていた。


「ならばさらに強化して打ち破るとしよう」


 デリフィードは自らにさらなる強化魔法をかける。


(まずい!)


 レナードはとっさにそう判断して荒れる呼吸もそのままに飛び込む。しかしその攻撃もむなしくあっさりいなされ再度攻撃を食らう。


「ウグッ!」


レナードはダメージに耐えかねてナイフを落としその場でうずくまってしまう。


「さらばだ小僧」


デリフィードはゆっくりとレナードの落としたナイフを蹴り飛ばし、サーベルを振り上げる。


(ああもう、これは私の依頼でも何でもないのに!)


デリフィードがその刃を振り下ろそうとする瞬間、加速術式によってサラが後ろから飛びかかる。


(でも助けられた恩は返さないとね)


その思いがサラを突き動かす。


「これで貸し借りなしよ!」


サラは言われた通り首を狙い、ナイフを振るう。その時はすでに無我夢中で「やらなければやられる」という一心であった。それは既に脅しというより致命の一撃であった。


そしてサラの手には確かな感触が残った。


サラはその光景を呆然とした様子で見ていた。今自分は「黒の魔術師」とはいえ殺めたのだと。いままで犯罪に手を染めたものを捕まえてきた事は数あれど、この手にかけたのははじめてだった。


「そうか貴様も同様であったか。少女よ」

「サラ!避けろ!」


 そんな興奮に頭がいっぱいであったサラはその後動き出した男に気づくこともなかった。その太い足から繰り出された回し蹴りをその華奢な体でもろに食らうことになった。



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