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黒の魔術師   作者: 野村里志
第五章 人殺しの論理
31/44

エピローグ5






 これまで多くの人を殺めてきた。



 多種多様な人間がいたが、殺した相手は全て人を殺めたことのある人間であった。



 故に負い目などなく、そこに苦しめられることは少なかった。



 しかし一度だけ、その例外がいた。



 そしてその報いはいつか受けなければいけないと思ってもいた。



 ずるずると時が過ぎ、初めて人をその手にかけてから、既に六度の春を迎えた。



 そして七度目の春。ようやくその時が来た。



 シンはそう思った。







「その遺体をこちらに渡していただこう」


 シンがデスペアを背負い馬車の所まで帰ると、魔術師の集団が待ち構えていた。風や土を通して探知すると目の前にいる集団の他に、身を隠し周りを取り囲んでる魔術師達がいた。


「何か勘違いをされています。私はブランセルの上級魔術師でサラと申します。こちらにその証明のバッジがあります。そして彼は私が受けた極秘任務を手伝うために契約を交わした魔術師です」


 サラは誤解されていると考え魔術師達に説明する。しかしその説明を受けて尚、魔術師達はその杖を下ろそうとはしなかった。


「なっ……」

「残念ながらそういう話ではないのです」


 サラは置かれている状況が把握できずにうろたえている。一方でシンは驚くほど冷静であった。


「わかった。この死体はあんた達に預けよう」


 「シンッ!」と言うサラの声を無視してシンは魔術師達の前にデスペアの遺体を丁寧に横たわらせた。


「それで?俺は連行する手筈か?」

「…………」


 魔術師は何も言わず縄を取り出す。魔術師協会によって作られている魔術付与がなされている縄であり、魔術によって破壊することが困難な代物である。


「ちょっと、どういうこと!?」


 サラは状況を飲み込めずにいた。しかし目の前で今にもシンまでもが連行されていきそうになることは止めねばならないとも感じた。


「待ってください!」


サラは鞄からスクロールを取り出し、魔術師達に見えるように掲げる。


「この書状を見てください!私は、大賢老直々に指示を受けて動いています」


 サラはこれで大丈夫であるとはっきりした口調で告げる。


「残念ですが……」


 魔術師達の長らしき人間が告げる。


「私たちも大賢老の指示で動いています。それに……あなたの指示も知らされた上でのことです」

「なっ……!?」


 サラはその言葉にさらに合点がいかず、ただ黙ってしまう。


「では行きましょうか」

「ああ」


 シンは黙って手を縛られ、魔術師達に連れて行かれる。サラは急な展開にぐちゃぐちゃな頭の中でシンが連行されるのは防がなきゃいけないと感じた。


「待って!シン!あなた、いいの?こんな不公平な捕まり方して!」

「いいんだよ。別にこいつらだって俺に無理しようなんて思ってないだろ?仮にもきっちり契約通り三人引き渡したんだから」

「でも……」

「大丈夫だって信用しろ。お前はブランセルに帰って昇進でもして、たんまりもらった給金用意して待ってろ」


 そう言いながらシンは魔術師達の護送用の馬車に入れられる。サラはそれを黙って見ているしかなかった。







「……で、刑の執行はいつだ?」


 馬車の中、シンは唐突に尋ねる。魔術師達はそれぞれ驚きを隠せない様子で黙り込んでいる。


「……それは答えかねます」


 隣に座っている魔術師の長は不意にされた質問にとまどいながらも答える。


「三日後だ。違うか?」

「……っ!?」


 魔術師達がおどろいた顔をする。シンはその顔を見てしてやったりと少し満足した顔で外の景色に目をやった。遠くにはまだサラが見える。


(あいつ……不安そうな顔しやがって)


 シンは小さく口角を上げて視線を馬車の中に戻す。


 もとより魔術師達はシンを釈放するつもりで来てなどいなかった。処刑するため、そのために使わされたのである。


 そしてシンもそれを知っていた。確証を得たのは隙を見て魔術師の手に触れたことで、記憶を覗いたからではあるが、()()()()()()()()()()()()()()()()


(サラにもう一度会うことがあるだろうか。無いなら無いで挨拶もなしに行くのはまずいような気もするが……)


 しかしシンはそれ以上考えることをやめた。これ以上考えれば未練が残る。サラへの申し訳なさも。彼女は優しく、まっすぐだ。それ故に、()()()()()()()()()()()、同情してしまうに違いない。



 やっとだ。やっと……






 旅が終わる





 シンはどこか満足げに、そしてどこか寂しそうに、馬車に揺られていた。








読んでいただきありがとうございます。

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