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黒の魔術師   作者: 野村里志
第一章 始まり
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出会い

二作目です。下書きは終わっているので投稿は早めです。




はるか昔、世界を二分する大きな戦いが起こった。


西の魔術師はその力を持って東の大地を焼き払い、東の魔術師はその技をもって西の平原を海の底に沈めてしまった。大地は裂け森は焼かれ、数え切れない命が日々消えていった。


大戦は共倒れに終わり両者が力尽き戦いが終わる頃には双方の大将と幾ばくの魔術師を残すのみとなった。


東の魔術師は二度とこのような戦禍が起きぬよう自らの書を焼き、命を絶った。西の魔術師は自らに呪いをかけて以降の子孫が魔術を用い人を殺めた場合にその体に黒い紋章が浮かび上がるようにした。呪いが起動すればその命は3日ともたぬように施され、西では魔術が人を助ける為の術として用いられた。



それから数百年が経ち、東西での交流が生まれた。いがみ合っていた歴史は新たな局面を向かいだし、互いの垣根は取り払われ、双方の理解が進んでいた。


しかしその一方で一つの弊害が生まれていた。東西で交わり子をなした結果、呪いは歪に、不完全に継承される事となったのである。


人を殺めた魔術師は死ぬことなくただ黒い紋章をその体に宿すこととなり、ただ黒き痣を持つにとどまった。



そしてその黒き痣をもつ者は人々に迫害されながら生きていた。








 ある晴れた日のことである。西にある小さな村からさらに森の奥へ半日ほど歩いていくと一軒の小屋があった。その小屋のまわりの空間はまるで削られたかのように、さながら木々が避けているかのように開けており、その小屋には光が差していた。深い森にありながら差し込まれる光に照らされたその古びた小屋は明るさとは対照的にどこか不気味であった。


そしてその日その小屋に珍しい来客が訪れていた。


(ここに……黒の魔術師が………)


 朱色のフード付きのローブを羽織る少女は背丈も小さく、まるで童話に出てくる主人公のような出で立ちであった。


「失礼するわ」


コンコンというノックとともに許可もなく少女は入室した。




 小屋の中で一番に目に入ったのは椅子に腰掛けている男の姿であった。奥にいる男の顔は暗くてよくみえないが身長と姿勢から二十代か三十代であるように見えた。


「あれ、今日は客人の予定はなかったはずだが」


 男はなにやら温かい飲み物を飲みながら入ってきた少女に告げる。部屋にはほとんどといっていいほど物はなく、部屋の中央に少し大きめのテーブルと二つの椅子があるだけであった。


「もしかして迷子?かな?しかしこの森に迷い込むとは結界がどこかこわれているのかも……いずれにせよ君みたいな子の来るところではないな」

「別に迷子じゃないわよ」


 少女は「迷子」という言葉に自分が幼く見られているように感じ、やや不機嫌な態度で返答する。もっとも自分が幼く見られてしまうのはいつものことでもあり自分の慎ましい背丈と体型にふと気を向けてしまう。


(…ちょっとは成長してるんだから)


 男は少女のそんな考えを知ってか知らずか、その慎ましい体躯を見ながら小さくふっと笑った。


「うるさいわね!これからよ、これから!」


「まあでも私もまだまだみたいだな。こんな子供に結界を破られて居場所がばれてしまうのだから」


男は自嘲気味に笑いながらカップの中の液体を飲み干す。そしてカップの脇に置いてある小瓶を自らのローブのポケットに入れた。


その際、ローブから見えたその右手には黒い痣が浮き上がっていた。


「で、お前は一体どちら様だ?それともあれか、俺に恋した村娘か?」

「違うわよ!」


少女は語気を強めて言う。


「私はサラ。魔術都市ブランセルの上級魔術師よ。大犯罪人レナード・レスト、あなたに大賢老直々の書状を持ってきたわ。拒否権はないわ。受け取りなさい」





「それで一体どうやってここに来れたっていうんだ?」来客の少女に慣れない手つきで茶をふるまいながら聞く。

「そもそもこの場所は来ることも困難な上、場所を知っている人も少ない。何より俺お手製の魔術結界が張られているっていうのに」

「魔術都市の魔術師を舐めないでよね。これぐらい簡単にできるわよ」


少女はそう強気に話す。


しかし「あちっ」という小さな声を漏らしながら、ふーふーと冷ましながらお茶を飲んでいる様子は、その言葉から信ぴょう性を奪うには十分だった。


「はいはい、わかったわかった」と言いながら少女の持ってきていた書状を受け取る。魔術紋章も魔術印も間違いなく本物であった。


 内容は大きく分けて二つであった。一に三人の黒の魔術師をなるべく肉体に欠損がない状態で連れてくること。生死は問わない。二にそれを達成した場合「黒の痣」を消すことを確約すること。この二つである。


「宛名が書いてないぞ。それに黒の痣を消す?そんなことが可能なのか?」


 男が問いかける


「大賢老はその魔術を編み出して先日の魔術学会で発表したわ。実際に実演もしてもう学会はパニックよ。犯罪者たちが大手を振って歩いてしまうってね。もっとも大賢老にしかできないみたいだし、何より大賢老が『黒の魔術師』たちに手を貸すことはあり得ない。それに使ったとしてもすぐばれてしまうから一旦の落ち着きは見せているけれどもね」

「すぐばれる?」

「大がかりの魔術だからよ。そもそも古くから残る古の呪いはそう簡単に外せないわ」


 少女はそう言って、「これで分かったかしら」と言わんばかりに胸を張る。そうした虚勢はますます少女らしさを増させている。


「それであんたは何だって『黒の魔術師』である俺にそんな事を頼もうって言うんだい?」

「私じゃないわ大賢老様の指示だから来たのよ」


 不服そうにコーヒーを啜る少女は齢15にも満たないように見えた。


「しかしこんな少女が上級魔術師ねぇ、とてもじゃないけど信じられないね」


男はそう言いながら渡された依頼状を返した。


「悪いがお断りだ。黒の痣が消せる方法なんてあったらとっくに解明されてるし、たとえ消せたとしてもこの痣は消さないでおくよ。それに俺にはどうだっていいことだ」


「しっしっ」と帰るように促すと男はもう一度椅子に腰かけた。男にとってそのような依頼はもはや何の意味ももってはいなかった。


そして「第一君の素性もにわかに信じられないね」と続けようとする。しかし男は次の言葉を発するのはやめた。


男の首元にはナイフが突きつけられていた。


「これで信じられるかしら、おにーさん」


 ニコッと可愛らしくも可愛らしくない笑顔を見せつける。男は気付くまもなく少女が詰めていたことにその実力が上級魔術師のものであることを認めざるを得なかった。


「あなた本当はこの家の家主じゃないでしょ?本物のレナードさんはどこへ?」

「その前にナイフを「質問に答えて!」」


首元にナイフが食い込み血が少しずつ垂れていた。


「わかった、わかったよ。言うから。だからそのナイフ下ろして」


そう言うとようやくナイフを離し一歩引いた。男は混乱気味に少女の方をみる。どこまで正確に理解しているかはわからなかったがある程度正直に話すほかないように感じられた。


「俺はたしかにあんたの探しているレナードでない。だが一方でレナードでもある」


そう言うと男は自分の顔を両手でなでる。すると大人びた顔が徐々に変わっていきより若い、と言うよりは幼い顔立ちへと変わっていく。


「俺は師匠のレナード•レストの跡を継いだ弟子だ。そういう意味ではレナードではない。尤もいまはその名を継いで俺がレナード・レストを名乗っているから、違うとも言いきれないがな。何にせよ魔術が完璧でない分師匠の顔より幼さが残ってたか。見破られるとはまだまだだな」


その男は男というより未だ少年であった。しかし少女にとってそんなことは問題ではなかった。


「何がまだまだよ!ふざけないでちょうだい!だったら最初からそう言いなさいよ。無駄に身構えちゃったじゃない。第一それじゃあ本物はどこにいるのよ!」

「うるさい、うるさい。分かったから静かにしてくれ」

 

 サラは一通り怒鳴り終わると深呼吸をしてレナードを見る。幼い出で立ちに、感じ取れる未熟な魔力。その若さにしては優秀な魔術師ではあるがそれでも自身にはとても及ばないようであった。


「まあ何にせよ誤解は解けただろ。俺は師匠の後を継いだものであって別に師匠のような大魔術師でもない」


そんな風にいう少年にはさっきとはうってかわって年相応の様子が見てとれた。体もさっきとは異なり血の気もよく程よく筋肉のついた同い歳位の少年である。先程とかわらず同じなものはその黒い痣くらいなものであった。


(黒い痣?)


サラはもう一度少年の右腕を見る。そこには紛れも無い人殺しの証である黒い痣が浮かび上がっている。そしてその痣は姿を変える前よりもより禍々しく存在していた。


「貴方どうしてそれが…」と言いかける前に少女は一つのことを思い出す。黒い痣はかつての祖先が魔法による傷つけ合いに悲観し各々が遺伝子に組み込んだ遺伝魔法で、自らの魔術経脈に直接癒着する。そのため姿形を変えようが自ら魔術の道を捨て魔術経脈を焼くでもしない限り消すことはできない。


「どうして…あなたにその黒い痣があるの。偽物でないことぐらい分かるわ。あなた…」


サラの言葉に合点がいき遮るように少年は話す。


「ああ、これね。単純な話だよ」


 レナードは続ける。


「黒の魔術師は師匠ではない。俺の方なんだ」


そう言ってレナードは年相応に、それでいて少しぎこちなく笑って見せた。










宜しくお願いします

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