地獄とは
リハビリがてら書いたので上手くできているかわからない…
「知ってます?今私たちが生きている世界は、地獄なんですよ」
そう言った彼女の顔は夕日の逆光でよく見えなかったが、笑っているような気がした。
そんな彼女に僕はどうしてそう思うのか、と問う。
「だってそうじゃない、この世界には辛い事、不自由な事が多すぎる」
彼女は言った、この世界に住む人は全て地獄に落とされた住人でると同時に、罰を与える鬼であると。
天国で罪を犯したもののみがこの世に生まれると。
互いが互いに罰を与え合い、みんな生きているのだと。
「きっとみんな、もといた天国に帰るために誰かに罰を与える仕事をして、罰を与えられて苦しんで、罪を償っていくんです」
ビルの屋上の縁に飛び乗って平均台を歩くように両手を広げバランスを取りながら危なげに歩く彼女の手首には、無数の切り傷がチラリと見えた。
きっと彼女の言う地獄の罰を嫌になる程受けてきたのだろう。
「親が子供を産むのも、自分だけが地獄にいる事が許せなくて、誰かをこの世界に引きずり込みたいから、そこに愛なんてない、地獄に愛なんて存在しない、あるのは天国への憧れ、そこの住人への嫉妬だけ」
そこでようやく彼女の顔が見えた、目は黒く濁っていて、あまり寝れていないのだろうか、隈がひどく、それでも顔だけは笑っていた。
「だからわたしは今からこの地獄を卒業するんです」
彼女は立ち止まり、ビルの下に広がる地獄を眺めた。
「ここから飛び降りたら、わたしは天国へ戻れる、神様に許されたから」
許された、とは?と僕が聞くと彼女は顔だけ振り返り、嬉しそうに語った。
「今わたしがここから飛び降りることを止める人は居ないでしょ?と言うことは天国に帰る事が許されたんですよ!やっと…やっと!」
僕が止めるかもしれないよ?
「貴方は止めないですよ、貴方もこの地獄を抜けたいからここに来たんでしょう?辛くて苦しいこの世界から逃げたい、そう思ったからここに来たんでしょ?」
まあ、その通りなんだけどね。
ついさっき知り合ったばかりの彼女を止める理由も無い。
「じゃあ、わたしは先に行きます、向こうで会えたら仲良くしましょうね」
彼女はバイバイと言って手を振った。
僕の気のせいなのかもしれないが、その手は微かに震えていたように見えた。
「ふぅー…」
彼女は深呼吸をして、強く目を瞑り一歩足を踏み出し、体が重力へ引っ張られ始め、徐々に前は倒れていく。
君はすごいね、僕は弱虫だからきっと結局この世界から逃げることはできなかったと思う。
それに僕は人が消える光景を目の前で見るなんて、まっぴらごめんだ…!
気がつくと、僕は走って彼女の手を握っていた。
絶対に離さないように、強く。
「どうして…邪魔、するんですか?余計なことをしないでください!」
彼女は瞳に大粒の涙を溜めて、僕の方を見ていた。
僕は…!地獄の住人だからね!君が抜け駆けして天国に行く事が許せなかったんだよ!
「なんですか…それ」
僕は彼女を屋上へ引き上げる。
彼女は俯いたまま涙を流し、動かない。
「わたしは…まだ許されないんですか?」
もしかしたら、神様は許していたかもしれない…でも僕は鬼だからね、これは僕からの罰だ。
「貴方からの罰?」
逃げるな、生きろ。
「っ!」
まあ逃げようとしていたぼくが言える事じゃ無いんだけどね。
「ほんとに…そうですよ」
僕に釣られて彼女は小さく笑い、涙を拭う。
僕の名前は水谷、君の名前は?
「わたしはーー」
こうして、僕達がこの世界からの逃亡は未遂に終わり、また明日から彼女の言ったように地獄のような日常が始まる。
でもいつか、神様に許される日まで、僕達は生きていく。