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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第5章 追憶の先生。
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雨の日ジンクス。

前回のあらすじ。

僕は体育館倉庫で先生と二人っきりでどっきどき。

でも先生はお菓子ぼりぼり食べてばっかりでトホホなのでした。

雨が屋根を打つ。

激しい音が倉庫に響いている。

今日はかなり時間をとられてしまった。

いい加減バイトに向かわなくては。

「はぁ。」

僕はため息とともにこめかみの後ろを押さえる。

あれ?

僕今バイトに行くの面倒とか思ってた?

昨日まで勤労の楽しさに首ったけだったのに。

今はやけに身体が重い。

「君、具合悪いの?」

先生が僕の顔を覗きこむ。

「いえ。そんなことはないんですけど。ただ、苦手なんですよね。雨が。」

雨が降ると気が滅入る。

髪は湿気で決まらないし、頭は痛いし、第一濡れるのが嫌なのだ。

「嫌い?雨が?」

「はい。好きな人なんていないでしょう。」

雨の日は良くないことが起こるというジンクスが僕にはある。

父さんが出ていったあの日も、母さんが帰ってこなかったあの日も全部雨だった。

「私は好きだけどなー。雨。」

「え?」

先生が雨音響かせる屋根を見上げる。

「雨っていうよりも雨音っていうのかな。バタバタ鳴るこの音を聞いてるとね?すっごい落ち着くの。守られてる感じ?」

先生は目を閉じ、深く息をする。

雨音に耳を澄ませて心を落ち着かせているようだ。

それはあの日コーヒーショップで見た光景だった。

そうだ。

そしてこの後。

「どうして泣いてたんですか?」

しまった。

つい思ったことをそのまま言葉に出してしまった。

デリケートな部分に踏み込んでしまったということを自覚した。

「女性に涙の理由を聞くのは殿方失格よ?」

先生は子どもの僕をからかう。

「まだ殿にはなれないガキなので。」

あの時も、今も。

先生が懸命に心を落ち着かせているように見えたから。

ふふっと先生は小さくほほ笑む。

小馬鹿にされたという方が正しいのかもしれない。

「本当にガキなのかな?君。」

「先生?」

先生は体育座りを崩し僕に詰め寄る。

「ちょ?え?」

「君はまだ知らないのかな?男の子は一瞬で大人になっちゃうってこ・と」

先生はさらに僕に詰め寄る。

「美智子から聞いてるよ?あの子毎日君の話ばーっかりするんだもん。」

僕は腰を抜かしたじろぐが先生の身体はもう僕の上に収まっていた。

「偉いんだねー。君。大人に頼らず、泣きごとひとつ漏らさず妹を一人で面倒みてるんだって?偉い偉い。」

先生は僕の頭を撫でる。

「君は良い子なんだねー。本当に良い子。ずっと良い子でいるのって疲れて大変だったでしょ?」

恥ずかしくて目の前の女性の顔が直視できない。

嬉しくてうまく声を出すことができない。

久しぶりに褒められたから。

「今でも立派にできてるガキの君が一体どんな大人になるのか、先生楽しみだなー。」

頭を撫でた手のひらが僕の耳を這って首筋をなぞる。

「ずっと良い子だったんだからちょっとくらいイイ思いしないとね。吉川くん?」

「あの?先生?これは流石にまずいって。」

「なあに?知りたいんでしょ?涙の理由。」

さっきから間抜けな声しか出せない自分が情けない。

「え?いや。え?これってどういう。」

「そうだなー。君が大人になったらわかってくれるかもなーって。」

その言葉はすこしだけ僕の胸に刺さった。

「え?」

さっきから顔中に集まっていた血の気は一気に頭に昇った。

子ども扱いされたことではない。

子どもにはわからないと切り離されたのがショックだった。

その時、倉庫の扉が勢いよく開かれた。

「吉川きょう~へ~い!」

扉を開いたのはもちろん美智子である。

しかし美智子の目に飛び込んできた光景は先生に覆いかぶされている僕の姿だった。

「美智子?」

「京平と……お姉ちゃん?」

「やっほー。」

美智子の顔は驚きを通り越して無表情になっている。

放心状態の妹に先生は比較的軽めの挨拶を投げる。

「美智子?これは違うんだ。」

彼女は自分の胸元に手を突っ込み何かを探す動作をする。

「美智子?とりあえず落ち着こ?」

美智子は静かに胸の中からホイッスルを取り出す。

「待って!それだけはやめて!」

僕の願いは聞き届けられず美智子はけたたましい笛の音を響かせた。

僕は先生を押しのけ窓から飛び出した。

着地と同時に地面の揺れを感じる。

「地震?」

僕は周りを見渡すと、四方から風紀の腕章をつけた生徒が駆け寄ってくる姿が見て取れた。

脳裏にさっき塵も残らなかったヤンキーがよぎる。

消される。

僕は全力で走り、茂みに隠していた自転車にまたがると校門目がけてペダルを漕いだ。

雨なんて気にする余裕がないが、同じく雨をものともせず駆け寄ってくる無数の風紀委員に恐怖すら感じた。

「やっぱり雨は嫌いだー!」

頬を濡らしたのは雨のせいか、はたまた涙のせいか、もう自分にはわからなかった。

全力で自転車を漕ぎ、雄たけびをあげながら僕は校門を通過してバイトへ向かった。

雨の日ジンクスは僕の中で確信に変わった日だった。

そして僕は今日初めて見つけた扉を知らぬ間に少しだけ開いてしまっていたのかもしれない。

その扉は閉め忘れたままで。


10年たった今でも半開きのままなわけで。


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