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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第5章 追憶の先生。
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逃走。

「吉川!きょ~へ~い!」

今日も僕はクラスメイトの風紀委員に追われている。

放課後、完全に目をつけられた僕をいつも美智子に追いまわされる。

いつも自転車を乗るタイミングで捕まってしまうので僕は校内で美智子を巻いてからバイトに向かうのだった。

「まちなさ~い!」

「だからなんで僕ばっかり~!」

僕は涙目になりながら今日も廊下を走る。

「あんたがバイト隠してるからでしょ~!」

「バイトなんてしてないよ~!」

階段を昇っても降りても美智子はしつこく着いてくる。

「ほら!ケータイ!あいつケータイ学校に持ってきてるよ!」

「有事の時必要!」

柔軟!

「ほら!見てあそこ!廊下でエロ本読んでるよ!」

「個人の趣味趣向!」

寛大!

「あいつガム吐いたよ!今!流石にダメでしょ!」

美智子は僕を追いかけながら胸の中から笛を取り出しけたたましく吹き散らかす。

「な


「あ?なんだ?なんだおめーら!どこから!やめろ!離せ!うわああああああああああああ!」

笛の音とともに大量の風紀委員が現れ、ガムを吐いたヤンキーを囲むと彼の断末魔だけが聞こえた。

彼らが去った後にヤンキーの姿は塵ひとつなくなっていた。

「消えた~?!」

「まちなさ~い!」

「風紀委員怖すぎだろ~!」

僕は恐怖から逃走のスピードをさらに上げた。


「はぁ!はあ!はぁ!」

僕が逃げ込んだのは体育館倉庫だった。

もちろん鍵はしてあるのだが、窓の鍵が1つ壊れていて外側から入れるようになっている。

僕は窓から飛びこむとすぐに窓を閉める。

「吉川~!きょ~へ~い!」

すぐ近くを美智子が駆け抜ける声が聞こえる。

口を押さえ、なんとか乱れた呼吸を隠した。

「吉川?吉川?きょ~へ~い!」

いつまでそこにいるんだよ。

頼むから早く行ってくれ。

もうバイトに行かないと……。

その時僕の右手に何かが触れたのに気付いた。

感触の方を見降ろすとそれはお菓子の箱だった。

「お菓子?」

右手の先を見上げるとそこには先生、『京極の姉』が体育座りをしていた。

僕のすぐ隣に。

「せ!?」

驚愕のあまり声をあげそうになった時、僕の唇は先生の人差し指によって塞がれた。

「しー。」

右手で僕の唇を、左手は自分の唇を塞ぐ。

「吉川~!きょ~へ~い!」

すぐ近くで聞こえる美智子の声を耳にし、僕は先生に向かって頷いた。

僕だって女子に耐性がある方ではないのに、その上大人の女の人にこんな薄暗い部屋で、こんな近くで唇をなぞられた日にはきっと眠ることはできないだろう。

今、僕が呼吸を乱しているのは美智子のせいなのか先生のせいなのか、僕にはわからなかい。

先生はジャケットを跳び箱の上にかけていて、ワイシャツ姿になっている。

ワイシャツの固い布地を押し上げている胸部の膨らみに黒目が向かおうとするのを前頭葉が必死に阻止する。

意識を胸から逸らせるんだ。

僕は胸に行かないように視線を上に向けた。

あ。

先生と目が合ってしまった。

高い鼻。

大きな目。

長い髪を後ろで束ねている。

化粧の粉っぽい匂い。

先生を観察するたびに心臓の鼓動が大きくなっていく。

心臓がこんなに苦しいのに不思議だ。

なぜかずっとこのままでいてほしいと懇願している僕がいる。

僕を探す美智子の声がずっとそこにいてほしいとさえ願ってしまう。

唇に触れるこの指先をずっと感じていたい。

母さんや妹、仕事の事ばかり考えていた僕は見たこともない扉を見つけてしまった。

その扉は薄い涙の色をしていた。

ぽつり、ぽつりと雨が降り出す。

また雨だ。

午後から頭に違和感があったからそんな気はしていた。

突然降り出した雨は瞬く間に強くなった。

「どこだ~!吉川~!きょ~へ~い!」

雨をものともしない美智子の声は僕を探しどんどん遠くへ行ってしまった。

先生の指先が離れる。

「はぁ!はぁ!」

何時間も呼吸を止められたかのように僕は息を吐いた。

先生の指先から解放された唇を僕は手で覆う。

その唇からはほんのりコンソメの匂いがした。

「ごめんね?ついちゃったでしょ、お菓子」

先生は自分の指を舐めながら問う。

「先生?こんなところで何を?」

僕は質問を質問で返した。

「え?ん~と。サボり……かな?」

先生はどこからともなくまたスナック菓子を取り出す。

「サボりですか?先生がいいんですか?」

「いいのいいの。すぐに職員室に戻らないで生徒と触れあいなさいとか意味わかんないこと押し付けられてるんだから。時間潰しよ、時間つぶし。」

先生はスナック菓子の袋を開ける。

「でもそれって教師としては必要なんじゃ……。」

「そういうの一番聞きたくなんですけどー。」

先生はお菓子を頬張りながら拗ねる。

いつも凛とした姿で歩く先生のイメージがこの間から崩壊を続けている。

「第一、担任でも副担任でもない非常勤の私にはハードル高すぎるのよ。」

「子ども……苦手なんですか?」

先生は僕に笑いかける。

「苦手?いいえ、嫌いよ。」

怖っ。

「第一子ども好きだったら普通に正規の教師になってるつうの。」

先生はお菓子を口に詰め続ける。

倉庫をよく見てみたらどうやらこれで3つ目のようだ。

「食べすぎじゃないですか?一人で食べる量じゃないですよ。」

すると僕の口の中にうすしおの乾燥した風味が広がる。

「じゃあ、これで共犯だね。」

先生の人差し指がまた僕の唇に触れた。

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