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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第5章 追憶の先生。
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聞かせて。

後部座席から大樹くんの寝息が聞こえる。

「子どものころって車乗るとすぐ眠くなったよね。」

「わかります。」

助手席に座っているのは安原さんだ。

美帆と違ってスマホをいじっているわけでも眠るわけでもない。

「安心感というか。心地いいんですよね。車って。」

行儀よく座ってただ目の前を見つめて安原さんは呟く。

「安原さんも寝ててもいいよ?あと一時間はかかるし。」

安原さんは首を横に振る。

困ったな。

僕もどちらかといえば人見知りするたちで、相手が女子高生ともなれば尚更だ。

何を話していいのかがわからない。

こういう時って無言でもいいのか?

無言でいいのかもしれない。

おじさんの僕が無理して話題を探して会話を続けようとしていること自体滑稽ではないか。

その答えに行きついた途端、僕は深い安堵に行きついた。

今となっては後ろの大樹くんの寝息すら心地いいではないか。

大樹くんの臀部の下に敷かれているのジュニアシートはついさっき急に買ったものだ。

今日の僕の財布の紐はやけにゆるい。

出費が痛すぎて悲鳴をあげそうである。

「今日は本当にありがとうございます。」

沈黙を破ったのは安原さんのお礼の言葉だった。

「お礼はもう十分もらったよ。安原さん。」

「全然足りてません。」

その声は真剣で横目にちらりとのぞくと彼女の顔もまた真剣だった。

「たかがお昼と送迎だけでそんなに威張るつもりないよ?僕」

「……それだけじゃないです。」

安原さんは両手を合わせ、そっと唇に当てる。

「それだけじゃないんですよ?」

この子はホントに律義な子だ。

彼女は大きな恩を僕に感じている。

でもそれは君が思っているほど僕の手柄じゃないんだ。

「頑張ったのは君だよ。僕が何もしなくても、何を言わなくても。安原さんは見つけられたと思う。」

安原さんはまたも首を振る。

「全部は……きっと見つけられませんでした。」

この子は本当に謙遜の強い子だ。

刹那、隣で小さく息を吐く音が聞こえた。

「あの。」

「音楽でもかけようか。」

しまった。

言葉がかぶってしまった。

会話が詰りすぎて、僕が逃げてしまった。

「ごめん。何?」

「いいえ。なんでも。」

安原さんは僕から顔を背け窓の外を眺める。

ご機嫌を損なわせてしまっただろうか。

それもここまでだ。

音楽さえかけてしまえば沈黙も苦ではない。

彼女も無理に話題を探してくれていただけのかもしれない。

僕の車には美帆の好きな曲ばかりが入っているのできっと安原さんもお気に入りのアーティストがいるに違いない。

「安原さん?何か聞きたいのない?美帆のでよければ……。」

「京平さんの話が聞きたいです。」

安原さんの顔は依然、窓の外を眺めていた。

その顔はゆっくりとこちらに振り向く。

「京平さんの昔話。」

「ひどいなぁ。昔なんていうほど年をとったつもりはないんだけど。」

「学生くらいの話でいいですよ?」

「苦労話しかないよ?」

「恋の話でお願いします。」

「それを妹の友達に話すのはかなりの羞恥プレイじゃないか?」

「この間は話してくれたのに。」

僕は首をかしげる。

彼女に恋バナなんてした覚えがない。

「ごめん。なんの話だっけ。」

「先生に恋したって話です。」

その話かあ!

どうして僕はそんな話をしてしまったのだろう。

迂闊すぎるだろう京平。

「そんなことより。」

「は~や~く~。」

安原さんはこちらに耳を貸さず足をぱらつかせた。

観念するしかないか。

「そんな面白いものじゃないよ?」

「それは私が決めます。」

強くなったね君。

「友達のお姉さんだったんだ。京極先生っていう非常勤の先生で、滅多に授業を受けたことはなかったんだ。」

「京極?最近聞いた名前ですね。」

やば。

美帆に飛び火するところだった。

「ここらじゃ多い名字だしね。」

「そうでしょうか?」

「とにかく。僕は彼女に恋をしたの?」

「なんでですか?」

ずいぶんと突っ込んで聞いてくるなこの子。

まるで尋問されている気分だ。

なにか悪い事したのかな僕。

「どんなところが好きだったんですか?」

「あの頃は僕、さらにバイトを増やして死に物狂いで働いてた時期でね。僕、当時いっぱいバイトしててコーヒーショップでもバイトしてたんだけどそこによく来ていたんだ。先生が。」

「一目ぼれですか?」

「ちょっと違うかな。僕は先生の彼女を先に知っていたし、あ、学校の人だっくらいの感想しか持ってなかったと思う。」

「じゃあどうして?」

安原さんは太ももの上で両手を握る。

「学校の先生のプライベートを覗き見したみたいで確かにドキドキはした。先生じゃなくて知っている大人の女性っていうのかな。そんな感じに見えて。」

「やっぱり。一目ぼれじゃないですか。」

「だからそんなんじゃないって。」

僕は安原さんのからかいに笑って返す。

一目ぼれなんてそんな甘酸っぱいものじゃなかった。

「いつもみたいにバイト中に先生を眺めていたらね。」

「お客さんをマジマジと観るのはどうなんですか。」

「今思うとホントに反省しかないよ。あの時見なければよかって今でもたまに後悔している。」

安原さんは僕を見上げた。

「先生が壁に顔を向けて、泣いてたんだ。」

これは呪いだ。



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