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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第5章 追憶の先生。
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誰が好き?

僕はバーガーショップに腰を掛ける。

目の前にはハンバーガーセットが一人前。

そしておもちゃ付きのキッズセットが2人前である。

「面白かったね!おじさん!」

「お兄さんな?」

僕は目の前に座る大樹くんと同じオレンジジュースを同じタイミングですすった。

「姉ちゃん。おもちゃ開けてもいい?」

「だぁめ。家に帰ってからに……。」

安原さんの言葉は僕がおもちゃを開ける音で遮られた。

「あ。ごめん。」

そういう風にしつけるところもあるのか。

僕自身あまり気にしていなかったため、美帆にそういったことを言ったことはなかったなあ。

『そろそろキッズセット買うのやめなよ。』

むしろ美帆はキッズセットを欲しがったこともあまりなかったな。

「あ!おじさんのおもちゃライダーブラックだ!」

大樹くんが僕の手に持つ袋の中身を僕より先に言い当てた。

「あ、ホントだ。」

僕のキッズセットに着いてきたおもちゃはブラックの二等身人形だった。

大樹くんが姉の顔をちらちらみながらそわそわしている。

それに気づいた安原さんはため息をついた。

「今回だけよ。」

「わあい。」

「お姉ちゃん、紙ナプキンとってくるから。」

「うん。」

席を立つ姉に眼もくれず、大樹くんはおもちゃの袋に手を掛けた。

大樹くんはおもちゃの袋を綺麗に開ける。

ビニールの薄いところに指を突っ込み無理やり破ききった僕とはまるで違った。

大樹くんが袋の中から二等身の人形を引っ張りだした。

「……イエローだ。」

「なんだ。イエロー嫌いか?」

あまりテンションの上がらなかった大樹くんの様子を少しばかり気に掛ける。

「ううん。イエローも好き。」

好きだけれどきっと一番じゃないのだろう。

僕は手元のブラックに視線を落とす。

「……やるよ。ブラックが一番好きなんだろ?」

ブラックのおもちゃを大樹くんの目の前に差し出した。

「だめだよ。ブラックはおじさんが。」

「ばーか。大人なめんな。おじさんはこのおもちゃが始まってから毎日キッズセット食べてんの。レッド以外コンプリート済みだっつーの。」

大樹くんは目を光らせる。

「じゃあ。いいの?」

「もちろん。」

「やったー!おじさんありがとう!」

大樹くんはブラックの人形を抱き寄せた。

大樹くんは子どものように喜ぶ。

いや、まだまだ子どもなんだけども。

「あら。大樹もらったの?」

「うん。」

紙ナプキンを取りに行っていた安原さんが席に戻ってきた。

「ありがとうございます。京平さん。」

いえいえと僕は軽く手を振った。

安原さんは席に腰かけると自分のドリンクに口をつけた。

「おじさんは誰が好きなの?」

「ぶふぉ?!」

なぜか安原さんジュースを噴き出す。

「げふぉっ。ごほっ!」

「安原さん?大丈夫?」

ひどくむせる安原さんに紙ナプキンを差し出した。

「……ありがとう……ございます。」

安原さんは顔を赤くして口を拭く。

よほどひどくむせたのだろう。

顔がとても辛そうである。

「姉ちゃん何してんの?いつも落ち着いて飲みなさいって自分で言ってんじゃん。」

大樹くんの問いへの安原さんの答えは無言の鋭い眼光だった。

「ねえねえ。おじさんは誰が一番好きなのー?」

「ええ?迷っちゃうなあ。」

大樹くんの質問に僕は年がらもなく真剣に考える。

こういうことで適当に答えたくはない。

大樹くんのこの真剣な眼差しをはぐらかしたくはない。

そして、なぜか安原さんも鋭い視線を僕に向ける。

ならば僕も真剣に答えなければなるまい。

「やっぱり、僕はレッドだな。」

「おじさん、王道ですなー。」

「ちっ。」

大樹くん的には好ましい解答だったみたいだけど、安原さん的にはいただけない解答だったようだ。

なかなか通だな安原さん。

「レッドはやっぱり一番かっこいいよね。熱いし、強いし。」

「そうそう。主人公ならではの葛藤みたいな?そういう迷いが一切ない。自分の正義を貫く姿勢が一番しびれるんだよね。」

「覚醒したレッドの前に全部のライダーが束になっても勝てないくらい強いしね。」

「他のライダーが社会と正義の狭間で苦しんでいるのを払拭するくらい問答無用の正義がカッコよすぎる。」

「それでいて覚醒したレッドの前では誰も変身できなくなるっていうね。」

「正義は押し付けない、貫くものだ。くう~。最高だぜレッド。」

「盛りあがっているところ悪いけど二人の会話、まったく噛みあってないわよ?」

安原さんが呆れ気味に口を挟む。

「でも今日、ブルー応援してませんでした?京平さん。」

大樹くんは僕の方に好奇の顔を見せる。

「え?おじさん。ブルー好きじゃなかったのに?」

僕は少しだけ照れくさくて、頭を掻いた。

「あんまり興味なかったんだけどね。ゴールデンウィークに三人でライダーごっこやってからかな。ブルーも悪くないかもって思い始めたんだ。」

「どんなところが?」

大樹くんではなく安原さんが踏み込んできた。

「ブルーってさ。自分の事を嫌いなのに全員と仲良くしようとするじゃん?そういうところが全然感情移入できなかったんだけどねー。」

僕はオレンジジュースを一口吸い上げる。

「あ~。そういうところかぁって感じ?」

「なにそれー!」

僕の告白を大樹くんは笑った。


「今日はご馳走様でした。」

安原さんは深々とお辞儀する。

「いえいえ。これくらい。」

本当は少し痛い出費だった。

「ほら、大樹も。」

「ありがとう。おじさん。」

「お兄さんな。」

イタヅラっぽい笑顔の大樹はそれがわざとであることを僕は悟った。

でも前よりは遠慮のない笑顔じゃないか。

僕の方までつられて笑ってしまうほどに。

「あのぅ……もしよかったら……また。」

「姉ちゃん、トイレ。」

「え?あ。じゃ、じゃあ。」

大樹くんに手を引かれ、戸惑いながら僕に手を振った。

「ばいばい。おじさん。」

「ばいばい。大樹くん、安原さん。」

二人は僕に背中を向けてトイレへと向かっていく。

その背中は少しずつ、小さくなって。

「あの!もしよかったら僕の車で送ろうか?」

「はい!」

そう答えたのは安原さんだった。


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