福引き。
「福引き?」
私は弟の大樹と買い物に来ていた。
「はいぃ。3000円以上お買い上げで一回福引きを回すことができますよぉ。」
商店街のおじさんが揉み手で答える。
商品の一覧を観ると旅行にテレビにギフトセットだった。
末端賞が箱ティッシュがもらえるようだ。
全くの外れでもポケットティッシュがもらえる。
ということは。
「実質はずれなし。」
私は小さくガッツポーズをお腹の横でつくった。
福引きのおじさんにレシートを手渡した。
「おねがいします。」
「はい。一回回して。」
私は福引きのレバーに手を掛けようとした時、手を止めた。
「大樹、回しなさい。」
大樹はボーっとした顔で私を見上げる。
「いいの?姉ちゃん。」
「いいわ。さっさと回しちゃいなさい。」
大樹は私の顔の次に私の手を見た。
「姉ちゃんの右手はそうはいってないみたいだけど。」
私は左手で右手を抑える。
されど右手は未だ空をまさぐっていた。
「気にしないで。」
それでも私の顔はいつもの大人なお姉さんを決めている。
「お姉ちゃんは別にガラガラを回したいわけなんかじゃないから。」
「全然決まってないよ。姉ちゃん。」
大樹はガラガラのレバーを握る。
「じゃあ僕本当に回しちゃうからね。」
「あぁ。」
私は落胆の声を漏らす。
そして大樹はレバーを回した。
小さなたくさんの摩擦音が箱の中で共鳴し大きな音となる。
その大きな音からたった一つの玉が飛び出る。
赤ならテレビ、銀ならギフトセット、金なら……。
玉を確認したおじさんがベルを高く掲げる。
金なら……旅行!
夕暮れの商店街にベルの音が鳴り響いた。
「おめでとうございまーす。4等でーす。」
玉の色は黄色だった。
「4等はライダーヒーローショーのご招待券でーす。」
「わーい。ライダーだー。」
大樹が両腕をあげて喜ぶ。
反面私は肩を落とした。
色が紛らわしい。
それが先週の話だった。
1週間明けた日曜日、私たちは早朝から隣の県まで来ていた。
どうして一商店街の福引きが隣の県のヒーローショーが紛れているんだろう。
電車に揺られながら隣で大樹はめずらしく眠そうにしていない。
朝に弱いはずの大樹はよほど楽しみだったようだ。
「初めてだね。劇場型のヒーローショー。」
「うん。」
大樹はぶっきらぼうに答える。
足はぱたぱたさせている。
「いつもショッピングモールのホールとかだもんね。劇場だよ?劇場。」
「うん。そうだね。」
大樹は無愛想に答える。
足はぱたぱたさせている。
「大樹?楽しみ?」
「う~ん。普通?」
大樹は無表情で答える。
足はぱたぱたさせている。
どうやら普通に楽しみなようだ。
劇場に着くとちょうど会場していて、入場整理が始まっている。
係員さんにチケットを渡す。
半券を受け取ると係員さんはお面を私たちに並べて見せる。
「こちらサービスになっています。お好きなのをどーぞ。」
それは各色がそろったライダーのお面と少しばかりの怪人のお面だった。
「大樹はどれに……。」
「ブラック。」
即答ですか。
劇場内に入り、半券に記された席を目指す。
大樹はライダーブラックを額につけて、私の手を引く。
手を引かれる私は額に怪人デリートのお面をつけている。
物販がかなり混んでて、結局時間がギリギリになってしまった。
席の合間を進みながら周りを進む。
遅かったこともあり、ほとんどの席が埋まっている。
大樹か、それより小さいかくらいの子どもがたくさん来ている。
さすがに大きな会場だけあって舞台も大きい。
乗り気じゃなかった私も少しアガッてくるものがある。
「姉ちゃん。ここ?」
私は半券の番号と見比べると大樹に頷いて見せる。
すると場内に大きなブザー音が鳴り響く。
そして場内の明かりが消えた。
私と大樹は急いで席に座った。
着席まもなくお決まりのプロローグの読みあげが始まる。
『欲望。それは人の数だけある。願望。それは妬みの数だけある。希望。それはライダーの数だけある。』
そしてオープニングのイントロが大音量で始まる。
これは……アガる!
不覚にもテンションが上がってしまう自分がいた。
少し口角があがり、手を小さく握った。
イントロとともに舞台に明かりがつく。
大樹の楽しそうな顔も明かりで浮かび上がった。
そして各色のライダーが勢いよく飛び出してきた。
子どもたちがお気に入りのライダーを叫ぶ。
「レッドー!」
「ブラックー!」
「ブルー!」
大樹は恥ずかしそうに口の横に手を添える。
「……ぶ、ブラックー!」
大樹も控えめに声を出していた。
大樹が楽しそうでなにより。
色々な色のライダーが同士討ちの殺陣を始める。
子どもたちの歓声が一段と大きくなる。
みなお気に入りのライダーがいるのだ。
レッドにブラック、そして……。
「ブルー!ブルー!」
私の隣の人は周りにも負けない程の声援を送る。
あまりの熱気に私は隣を盗み見る。
「ブルー!ブルー!」
そこには額にブルーのお面をつけて真っ赤に血相を変えて叫ぶ成人男性がいた。
「ブルー!ブールー!」
それは、その人はどこからどう見ても私の知ってる人だった。
「京平さん?」
「ブー!ぶぇっ!」
京平さんの血相はレッドからブルーへと切り替わっていった。




