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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第5章 追憶の先生。
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映画館。

「ミツキって、ポップコーン食べる派?」

良太のが映画館の売店のポップを指さす。

「うん。映画館のやつはバター掛けてくれるから大好き。」

「よかったぁ。俺もここのポップコーン好きだからミツキが食べない派だったらどうしようかと思ってたよ。」

「そういうの合わせてくれるんだ。」

良太は照れたように笑う。

「え?いや、その。ポップコーン食べない派ってそういう租借音が嫌みたいだから。ミツキがNGなら普通に我慢でしょ。」

ミツキは少しだけしたり顔をしてみる。

「じゃあ、ドリンク買って開場を待とっか。」

「その前に俺パンフレット買いに行ってもいい?」

良太はグッズコーナーを指さす。

「良太もパンフレット買うんだ。」

「うん。なんていうか観た記念ていうのかな。」

「男ってホントコレクター気質ね。」

良太はパンフレットを手にとる。

「読み返したりはあんまりしないんだけど、買い逃したりするとすっごい引きずるんだよね。」

ミツキに笑顔で彼が問う。

「ミツキは買わないの?」

ミツキはパンフレットを買ったことはない。

けれど美月は観た作品が気に入れば帰りに買っていた。

ミツキ自身、パンフレットにあまり需要を感じてはいない。

「ミツキはいいかな?」

「そうなの?確かミツキはパンフ買ってるって言ってなかったけ?」

それは恐らく美月の方だ。

「あくまで映画が良ければ買ってるってだけよ。毎回じゃないわ。」

嘘ではない。

美月はオタク気質というか、物事を掘り下げるのが好きみたいでインタビューとか裏設定を目的に買っている。

ミツキは違ってそんなに深く考えない。

サラーと生きるのが好き。

ミツキの人生はフィーリングが命。

「そっか。俺この作品の原作読んでるからわかるけどたぶんすっごいいいと思うよ。うん。」

良太は鼻息を荒げる。

ミツキも『津軽の嫁』はアニメを観た記憶はある。

厳密には美月が観た記憶だけれど。

確かに悪くはなかったけれど、なんというか。

「すぐに原作とか言い出すの。オタクっぽいよ。」

良太の顔にヒビが走る。

「だってオタクだし。オタクはオタクらしく生きるし。」

彼なりに今日のデートの目標があったのだろう。

きっと『オタク臭さ』を脱臭したデートにしたかったに違いない。

でも今日はその彼の味にもまれるのも悪くないかもしれない。

「実際のところ良太はどうなのよ。」

「どうって?」

ミツキは映画のパンフレットを手にとり指さして良太に見せる。

「ずばり。実写化について。」

「うぐ。それはオタクの間では割りとタブーな話題だよ?」

「いいじゃん。教えてよぉ。」

良太は自分の手に取ったパンフを見つめる。

「俺は実写化をアリナシで語ること自体に意味はないと思う。ジャンルとしてくくるんじゃなくて作品として見比べるべきで、だから好きな作品も残念だった作品もあるかな。」

「へぇ。」

ちょっとわかるかも。

アニメにあまり興味のないミツキからしたら再現度とか言われてもあまりピンとこなかったりするし。

なんだ、結構普通にオタク出来んじゃん。

ミツキは良太をまたひとつ見直した気がする。

「ただ。」

良太は暗い顔で語りだした。

「実写化のビジュアルには思うところが多々ある。なんで極度に原作に寄せるのか。衣装から髪の色まで。実写では実写しか表現できない世界観があるのに。途端にコスプレ大会になってしまうのは俺的にはナシ。」

「アリナシじゃないじゃなかったんかい。」

いつもの良太だった。


パンフを一つもって売店に並ぶ。

「ドリンクは何にしよっかなー。」

店頭の頭上に広がるメニューを指さし考える。

「タピオカもミルクティーもないもんね。」

ちょっとだけむくれてみる。

「いつもそれだけじゃないですー。」

ミツキはメニューに指さす。

「ミツキはアイスティーしよーっと。」

「じゃあ俺は「コーラ」」

良太はミツキの顔を覗いた。

「でしょ?」

実に簡単すぎるクイズだったけれど良太は意外に驚いていた。

ミツキは得意げに顔をあげ進んだ列分歩いた。

「良太はホントにコーラが好きだねぇ。」

「お待ちのお客様、こちらへどうぞー。」

売店のお姉さんが軽く手を挙げてアナウンスした。

「大変お待たせしました。ご注文をどうぞ。」

「ポップコーンを塩バターでLサイズ。あとコーラとアイスティーお願いします。」

「ありがとうございます。ドリンクのサイズはいかがになさいますか?」

ミツキはポカーンとしている良太を振り向く。

「レギュラーで大丈夫?」

「え?ああうん。」

「レギュラーでお願いします。」

「かしこまりました。代金の方をお先に失礼します。ポップコーンの塩バターLサイズが1つ、コーラのレギュラーが1つ、アイスティーのレギュラーが1つ。以上でよろしかったでしょうか?」

「はーい。」

「以上3点で1300円になります。」

店員さんが小さな器は手前に差し出した。

ミツキが手に持っていた財布からお札を出そうとすると後ろから手が伸びた。

そして器の上には2枚のお札が乗っていた。

「これでお願いします。」

「え?いいのに。」

良太は若干のキョドリを見せながらはにかんだ。

「女の子に奢ってみるって。一回やってみたかったんだ。」

その嫌みのない笑顔が少しだけミツキの鼓動を早くした。

「ドキドキするね。」

「ごちそうさまです。」

ミツキは良太に深くお辞儀をした。

良太はお釣りを受け取り財布にしまおうとした。

「あ」

その時彼は自分の左手に持っていたパンフに気がついたようだった。

店員さんは笑顔で手を差し出す。

「そちらの商品、お預かりしましょうか?」

「お願いします。」

店員さんがレジを通す。

「1000円になります。」

良太は財布を取り出す。

しかし今回はミツキの方が早かった。

「え、あの。」

とまどう良太にミツキは呟く。

「ミツキも奢ってみたかったの。男子に。」

奢るって……すっごい照れくさい。

「ドキドキするね。」

良太は深く頭を下げた。

「ごちそうさまです。」


ここからがデートの真骨頂。

映画本編が始まったわけだが、ここからは映画の感想しか浮かんでこない。

ミツキは終始涙が止まらなかった。

ミツキの記憶に刻まれているアニメとは違った感動があった。

そもそもミツキにとってアニメやマンガは美月の記憶に残っている程度で、生で作品を堪能したのははじめてかもしれない。

おそるべし漫画原作。

すぐ隣からは良太の鼻をすする音が聞こえていた。

良太も気にいっているにちがいない。

さっきまでの批評が可愛く思えた。


帰り……パンフレット買おっと。

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