初デート。
美月が出てこなくなってからもう1カ月になる。
授業を起きているのが精いっぱいだったり、あの母親の相手をするのに頭を痛めたり。
ハラッチの弟くんが家でしたり、よっしーと喧嘩したり。
自分や自分の周りのことでいっぱいいっぱいになっている間にあっという間に一カ月が過ぎてしまった。
こんなに美月がでてこなかったことはかつて一度もない。
一体何があったんだろう。
「じゃあミツキー。ばいばーい。」
「ばいばーい。」
よっしーがウチに手を振って挨拶をしてくれる。
ミツキも彼女に向かって手を振り返す。
昨日は少し微妙な雰囲気になってしまったけれど、お互いどちらが悪いという話じゃない。
ミツキが謝る話でもないし、彼女が謝る話でもない。
ミツキが謝ると暗によっしーにも謝れという流れができてしまう。
だからこそどちらも謝らないというのがミツキなりの処世術なのだ。
もちろん自分に非があるときは謝ったりもするけれど。
「ミツキ?」
そこでやっと自分が声をかけられていることに気がついた。
「あっごめん。」
声の方向に振る向くとそこには良太が立っていた。
「考え事?」
ミツキは首を横に振る。
「ちょっとボーっとしてただけ。どうしたの?なにか用があったんじゃない?」
「ああ、それなんだけどさ。」
良太は人差し指で頬を掻く。
「日曜日の午前とかさ。何か予定ある?」
これは待ちに待ったアレだ。
ミツキは足を組み、机に肘をつく。
「なかったら?」
良太は少しもじもじしながら、意を決した顔で言葉を発した。
「いいっ、一緒に映画を見に行かない……かなーなーんて?」
煮え切らない良太からの初デートのお誘いだった。
あーもう、ほんとに可愛いな良太は。
「喜んで。」
ミツキは笑顔で返事をした。
日曜日の朝、ショッピングモールの中のコーヒーショップで待ち合わせをした。
またもミツキの方が早くついてしまった。
前回はノーカンとしても、初デートは彼氏が先に来てほしかったりした。
「誰が彼氏よ!!」
思わず一人ツッコミをしてしまい、勝手に赤くなる。
遅刻ではないにしても、やっぱり男の子の方に早くきていてほしい。
待たされたくないわけじゃない。
ただ……。
楽しみにしてたのはミツキだけなのかなって……。
「ああ!めんどくさい!」
またも独り言を発してしまいタピオカミルクティーを飲みながら赤くなる。
いつからミツキはこんなにめんどくさい女になったんだろ。
最初から?
ミツキは良太にたくさんの注文をつけてきた。
注文の多い面倒な女。
良太は本当によく付き合ってくれている。
今は注文をつけるのが怖いくらいに。
彼の事が気になっている。
ミツキは少しだけ自分の服装を確認する。
良太が来る前にもう一度直して置こうかしら。
「ごめん。待った?」
びっくりして肩をすくめると隣には良太がアイスコーヒーとタピオカミルクティーを持っていた。
この質問に対するミツキの答えはたった一つだ。
「ううん。今来たとこ。」
ミツキはほとんど飲み干してしまったタピオカミルクティーを空吸いした。
待ち合わせ時間までまだ30分はあった。
「ごめんね。待たせちゃったよね。これ飲んで?」
良太はミツキにタピオカミルクティーを差し出してくれた。
「ありがとう。」
ミツキは差し出されたタピオカに口をつけた。
そのまま視線を彼に移す。
さりげないワックス。
柑橘系の香りがするワックス。
綺麗にアイロンの掛けられたYシャツとチノパン。
小汚なかった春先の彼はもう見る影もない。
「今日のシュシュ。綺麗だね。」
ミツキが褒めようとした矢先に先に褒められてしまった。
「ありがとう。」
「いつも下ろしてるから、髪を結ってるのが新鮮に感じるね。」
「ありがとう。」
なによ。
さっきからありがとうしか言ってないじゃない。
「それで?今日はなんお映画を見るの?」
照れくさすぎて話題を変えたつもりがいきなり本題に入ってしまった。
もっと他愛もない話がしたかったのに。
「あ~。この映画なんだけど。」
絶対アニメだ。
もう彼の趣味は嫌という程理解している。
そして美月の影響で絶対ミツキの事をオタクだと勘違いしている。
ここから上映までオタク話に付き合わされるに違いない。
ミツキのバカー。
良太はスマホの画面を見せた。
「これなんだけど、良いかな?」
画面に映し出されたのは邦画の『津軽の嫁』という作品だった。
「さすがに、初デートでアニメは避けようかなって。」
良太が初めてミツキに気を使ってくれた。
ミツキを意識してくれた。
美月ではなく、ミツキを。
自然と口角が上がった。
「って、これ。アニメ原作の実写映画じゃない。」
「バレた?」
バレるに決まってるじゃない。
美月がアニメはほとんど網羅しているのだから。
「いや、ホントはこっちのアメコミと迷ったんだけど。やっぱりこっち」
「いいえ。」
「え?」
良太はきょとんとした顔をこちらに向ける。
せっかく彼が考えてくれたデートプランですもの。
初デートプランですもの。
今日はそのままを堪能してみたい。
アニメの好きな美月とアニメに興味のないミツキの両方の情報に困惑しながらも考え抜いた彼の最適解。
堪能させてもらおうじゃない!
「ミツキもそれ見たかったんだー。」




