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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第4章 吉川美帆はガラスの靴を脱ぐ。
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臆病もの。

「はい。これで被害届は以上になりますが……。ホントに告訴しなくてもいいのかい?」

ウチは警察署の事務室のようなところで被害届の手続きを行った。

「内容的には告訴状でも十分なんだけどなあ。」

刑事さんがウチの記入した被害届に目を通して頭を掻く。

「別に……処罰を望んでいるわけではないので。」

今頃、ウチは松本とランドの予定だったのに。

ウチはなんでこんなところにいるのだろう。

「警察の私が言うのもなんですけどね?被害届自体にはそんなに効力はないんですよ?いえね?誠心誠意調査はしますけれど。法的にね?」

「だから、さっきから言ってるけど厳罰とか謝罪とかいらないんだって。」

「確かに最近そういう人も多いけどね。被疑者の男性もね?ここだけの話全然反省の色が見えないし。」

「それはそちらにお任せします。」

ウチはスマホを取り出してラインを開いた。

ラインの画面は松本の返信で止まっている。

『そかー。急用じゃ仕方ないな。俺の方は気にすんな。』

ホンっト、なんでこんなとこにいるんだろ。

ウチは頭を下げた。

「いやいや、君がいいのならそれでいいんだ。悪いね。あとは私たちの仕事だから。おじさんたちに任せて。」

中年の刑事さんはそういうと椅子から立ち上がった。

刑事さんは事務室の扉を開くとウチに退出を促した。

「今日はご足労いただきありがとうございました。」

ウチは刑事さんに軽く会釈をすると促されるままに部屋を出た。

事務室を出るともう一度スマホの確認をする。

時間はすでに11時を回っていた。

高校生の私は身分証明書なんて持ち歩いていないし、判子もなかったため一度アパートに戻ったりもした。

ウチが事件当日、『京極美智子』を語ってしまったがために今日登場した『吉川美帆』は警察のみなさんをひどく混乱させたようだった。

ウチはスマホを額に当て、その場にしゃがみこんだ。

「はあ~。ランド~。」

深いため息とともに不満が漏れる。

心のつかえが取れると後悔だけが強烈に残る。

面倒そうだとか、もう日常に戻りたいとかで逃げ回っていた三日間。

実際今日やってみると拍子抜けするほど簡単だった。

せめて今日まで引っ張らなければ、ランドとの両立も可能だったのであろう。

自分の怠惰が結局は事を面倒にした気がしてならない。

トラブルを避けようとするあまり好機も逃すとは。

時間はまだある。

11時だってまだ午前だ。

少しでも松本と遊びたい。

というかランドに行きたい。

人生初のランドに!

ウチはスマホを急いでタップし出した。

『急用が意外と早く終わったから今から』

そこでウチの指は止まる。

それ以上先は打つことはできなかった。

松本に恋をしてから、ひどく不自由に感じる。

心が自分のものじゃないようだ。

ウチってこんなに臆病だったんだ。

練山の提案に散々ケチをつけまくってきたけれど今更になってようやく気付いた。

こと松本に関していえばウチは練山の提案以外でアクションを起こせたことは一度もなかった。

アクションはたくさん起こしてきた。

距離だってものすごく縮まった。

でもそれは友達としての距離。

その関係を練山は壊してくれていたんだ。

練山がいないとそれができないほど、ウチは臆病だった。

そしてもうひとつ気付いたこと。

ウチが今日をとても楽しみにしていたということ。

ウチはスマホをしまった。

「はあ……。帰ろっ……。」

警察署の廊下を歩きだす。

その足は自宅へと向かう。

「あっ!君!ちょっと!君!」

君としか呼ばれないのはもしかしてウチのこと?

ウチは後ろを振り返ると、朝の交番のお兄さんが早足でウチに近づてきた。

「よかった。まだいてくれて。」

「あの。なにか。」

「いや。君の事を探してた学生くんにね。お礼を伝えてほしいって頼まれてね。」

「あの子が?」

「はは。君みたいな女の子があの大きな高校生を『あの子』呼ばわりするのは違和感があるね。」

「ウチの方が年上ですから。」

「本当に『あの子』に教えなくてもいいの?君のこと。」

ウチは青ざめて顔を隠す。

「やめてください。『京極美智子』はもういないので。」

あのキャラは一日も早く過去にしたい。

「一日も早く過去にしたいので。」

思っていることがそのまま口に出てしまった。

「はは。君の黒歴史がなくても、被害を受けた方々はみんな同じことをいうよ。みんな一日も早く日常に戻りたいんだ。」

お巡りさんは胸ポケットからメモ帳のようなものを取り出した。

「だから、君のしたことはとても勇気のいることで。ひとつの事件を解決しただけじゃくてね?これから起こるかもしれなかったトラブルを君は未然に防いでくれたわけで。」

「ウチ、そんな大それたものじゃないですよ。こんなに遅くなったのだって自分可愛さで。」

「少なくとも『あの子』はそう思ってないみたいだよ?」

あの子が?

「『ご無事で安心しました』と『あなたみたいな勇気ある人間に僕もなりたい』だってさ。」

「それって。」

「『あの子』からの伝言。確かに伝えたよ。」

お巡りさんはウチに向かって綺麗な敬礼をした。

「たくさんのご協力、感謝します。」

ウチが……勇気ある人間……。


「だから。なんでその流れでここにくるんですか。」

土曜日の真昼間、ウチは生徒指導室にいた。

もちろん委員活動中の練山も。

「いいじゃん。別に。」

「その流れでどうしてデートの取り付けができなんですかね。吉川先輩は。」

「うるひゃい!」

ウチは机に突っ伏したまま練山を罵った。

「ぜったいもう一度誘う。ぜったいランド行く。そして。」

「告白するんですね?」

「告白はぁ……しない。」

「チキンですか?」

「うるさい!」

次は顔をあげてはっきり罵った。

「ウチはデートに誘うだけでも精いっぱいなの。」

「じゃあ早く誘ってください。」

「今やるわよ。ほんっとうるさいわね。」

ウチはスマホを取り出す。

そしてラインを開いたところで硬直する。

「吉川せんぱーい。」

「やるわよ!やればいいんでしょ?やれば!」

恐る恐る指を動かす。

『今日の埋め合わせだけどよかったら来週の土日ランド行かない?』

文面はこれでいい。

あとは送信するだけ。

この三角形をタップするだけでいいんだ。

ウチはゆっくりと送信画面に人差し指を近づけた。

その時、突然スマホが通知音が鳴る。

「ひゃあ!」

ウチは思わずスマホを放り投げる。

「はあ。どんだけチキンなんですか。」

「いいいいいいいいいい加減なさい。練山。びびびびびびってなんかないから。」

ウチは震える手でスマホを拾った。

『来週の日曜日空いてるんだけどやっぱりランド行こうぜ』

送り主は松本だった。

ウチは高々と拳を掲げた。


「よかったですね。先輩。」

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