恋バナ。
放課後、ウチはいつものようにミツキとコーヒーショップでお茶をしていた。
いつものようにとはいえ、とても久しぶりな気がする。
ミツキはいつもお気に入りのタピオカミルクティーで口を喜ばせている。
ウチはというとアイスココアと決めている。
ここのアイスココアはトッピングなしでもホイップクリームがたくさんかけられているのだ。
ウチは一口吸い出すと狭いストローの中から口いっぱいに甘くて少しだけ苦い風味がウチを楽しませる。
「「はあ~~~。」」
ウチとミツキは同時に一呼吸を着いた。
そして二人で顔を見あわせては笑っていた。
「なんかひさしぶりだね~。」
「ミツキが風邪なんか引くからでしょ?」
「どうも。お騒がせしました。」
ミツキはしおらしくテーブルに手をついて謝罪した。
でもその声のトーンと表情はからかいに満ちたものである。
「風邪もそうだけど。3年に上がってから妙に付き合い悪いわよね。」
「そう?たまたまじゃない?」
ミツキはストローを咥える。
「たまたまねぇ。」
ウチもアイスココアに口をつけながらミツキの顔を眺める。
「3年生になってから何か心境の変化でもあったんじゃないの?」
「ん~。べつに~。」
ミツキは心当たりが無さそうに返答をする。
「例えば。今井とか。」
今井という単語を聞いた途端にミツキはミルクティーを噴き出した。
「りょ、良太は関係ないわよ。」
汚れた口まわりをペーパーで拭きとりながら否定した。
あれ?
いやからかっておいてなんですが、正直ミツキはもっと今井というか恋愛においてドライな印象だったのだけれど。
意外な動揺っぷりを見せたミツキにウチはすっかり気分を良くしたのだった。
「あれあれ~。もしかして付き合いだしたの?今井と?」
「ないない。全然ないから。」
「じゃあ、告られたとか?」
「それはもう幾度となく。」
「かわいそ~。なんで了承してあげないのよ。嫌いじゃないんでしょ?」
ミツキはふてくされた顔でストローを吸い上げる。
その顔は赤い。
「……だって。良太の告白って。なんか。テキトーなんだもん。」
「それは前も聞いたけどさ。」
なんでも卒なくこなすコミュニケーションお化けのミツキがいつになくじれったい表情をみせる。
「面倒くさいわね。ミツキも。」
「よっしーが単純すぎるだけ。」
「それ褒めてんの?」
「これを褒められてる思えるよっしーがやっぱり羨ましいわ。」
やっぱ褒めてないんじゃんとウチはミツキに当たった。
「それにしても今井も意外と根性あるわよね。これで何回目?告白。」
ミツキは手のひらを見つめ、指を折りだす。
「ん~。4回?」
「たった2カ月でそれはすごいわ。」
「多ければいいってもんじゃないの。もっとこう、心というか。その。」
ミツキがもじもじするのも珍しい。
「今井だって。一生懸命告白してるんじゃないの?等身大の告白ってやつでさ。ほらあいつ飾らないというか、嘘つけないっぽいじゃん。」
「ミツキはカッコつけてほしいの!その、ロマンチックなのが……いいの。」
大声から始まり、徐々に声が小さくなっていく。
めんどくせ~。
ミツキめんどくせ~。
「今井にカッコよさを求めちゃだめじゃない?ほらあいつにはあいつの良さが。」
「良太は顔はいいの!だからカッコつけてほしいの。」
え?まじ?
ウチは自分の耳を疑った。
「今井が?」
「うん。」
「かっこいい?」
「うん。」
二人の沈黙に耐えかねて、ミツキはまたもストローをすする。
「もしかしてと思ってたけど、ミツキ、まさか。今井の事……。」
「ない!」
ミツキの真っ赤な顔を見て信憑性が増す。
「いや、別にからかってるわけじゃ……。」
「ない!」
「ミツキ?」
「ないから!」
こちらの言葉に耳を傾ける気のないミツキにウチは困惑する。
「じゃあ今井がカッコよく告白してくれたら?」
「な!……くはない。」
ミツキのとがった口がそのままタピオカを吸い上げる。
「今井だって無限に告白してくれるわけじゃないのよ?」
ウチは頬杖をついて呆れた声をミツキにぶつける。
「そんなのわかってるけど……。」
以前ふてくされた顔でいるミツキを少しだけ煽ってみる。
「確かに?今井は最近オシャレに目覚め始めてるし、今井が他の女子を好きになるとは思えないけど。」
「なによ。」
「他の子はどうかな~。いいって思う女子は意外といるかもしれないよ?受け身で優しい今井が果たしてそれを断るかな~。」
ミツキは手元のタピオカを見つめるとしばらく何も言わなかった。
「そうね。」
やば、ちょっとからかいすぎたか?
「いや、ミツキ?冗談よ?今井がミツキ以外の女になびくわけ……。」
ミツキは首を横に振る。
「この二カ月ね?良太を見ていても彼のことはほとんどわからないままだけど、そこだけは自信をもってわかるの。良太はね、すっごく優しいの。」
「いや、あのね?優しいからって誰でもいいってわけじゃないし。ほら、あいつ鈍いしさ。きっと女の子のアプローチなんてろくに気づかないで愛想尽かれるのがオチよ。」
「良太はね。鈍いからこそいつも周りに気を使ってるの。」
ミツキはウチの顔をじっと見つめた。
「よっしー?あなたの事も心配してたよ?良太。」
ウチの目が一瞬泳ぐ。
ミツキから目を少しだけ逸らしてしまった。
すぐに戻して真意を問う。
「え?ウチの何を?」
ミツキはウチから目を逸らさない。
そしてウチの鼻のガーゼに手を伸ばして、優しく触れた。
「鼻……大丈夫?」
もしかしてバレてる?!
「まだニキビがね。ちょーしつこくて。」
ミツキは首を横に振る。
「良太からみんな聞いたの。大丈夫?」
やっぱりバレてる!!
「気づいてたの?」
「うん。」
「いつから?」
「昨日。大丈夫。良太は気づいてない……と思う。」
あの変貌っぷりから気づけるのか。
さすがというか、なんというか。
「やっぱ、ミツキはウチの親友だわ。」
ウチは鼻のガーゼを取り、ミツキに笑って見せた。
するとミツキの表情が固まった。
「ミツキ?」
「ごめん。想像してたよりひどかったわ。」
「でしょー。めちゃくそ痛かったんだから。」
「鼻は?大丈夫なの?」
「大丈夫。大丈夫。打撲だけで骨にはなんの異常もなかったから跡も残らないって。」
ミツキの表情は依然として強張ったままだ。
「ねえ。警察いこ?犯人も捕まって。あとはよっしー待ちらしいよ?」
あいつ捕まったんだ。
あ~。
スマホで撮ってたからさすがに逃げきれなかったか。
「ウチはいいよ。『美智子』のことバレたくないし。」
「でも、犯罪者だよ?このまま出しちゃいけないと思うの。」
その言葉が少しだけ胸に刺さった。
「ミツキは……。ウチの心配はしてくれないんだね。」
呟き終えた後、ウチは手で口を押さえた。




