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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第4章 吉川美帆はガラスの靴を脱ぐ。
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ハサミ。

僕は頭を掻く。

不作法に伸びた髪が指に絡まる。

美容院なんて何年振りだろうか。

僕、吉川京平は美容院ほとんど来たことがない。

高校生のころに少しだけ、美容院に来ていたくらいだ。

あの頃は色気づいたし、好きな女性に振り向いて欲しくて必死だったっけ。

僕は駅前にある横文字が並んだオシャレな美容院に入った。

「いらっしゃいませ~。……げっ。」

そこにいた美容師さんはあからさまに嫌な顔をした。

「よう。……久しぶり。」

僕はポケットに片手を突っ込んだまま、軽く手を挙げた。

「何しに来たのよ。」

「いや、その。髪……切ってもらおうかなって。」

美容師さんは腕組みをする。

「ウチ、要予約なんですけど。」

「あ。じゃあ待たせてもらってもいいかな?」

僕は待合室を指さす。

美容師さんは顔を片手で覆う。

「ああ。いい、いい。今日はもう予約入ってないから。こっち来て座って。」

「あっそう?よかった。晩飯の用意しなきゃだから助かったわ。」

僕は案内されるままに椅子に腰かけた。

「お願いしまーす。」

その後少し間があった。

サービスが始まらないのだ。

「美智子?」

僕は美容師さんに呼びかけた。

「な~んか、年を取ったというか、なんというか。くたびれたわね京平。」

「それは美智子もだろ?お互い様だよ。」

「女子に年の話すんな。」

美智子は僕の頭をはたく。

「女子なんて年じゃねえだろ。」

「女子はいくつになっても女子なんです!」

「じゃあ僕は男子か?」

「それはきっついですな。」

二人の間に再び間が生まれる。

そして二人同時に噴き出した。

二人の10年が一度に縮まるように。

そこはあの視聴覚室となんら変わらなかった。

「どうする?白髪も染めとく?」

「いや、まだそんな目立ってないしいいわ。」

「少ない白髪の方が目立つよ~。」

「まじ?じゃあお願いしようかな。」

「毎度あり~。」

美智子は霧吹きを僕の頭に当て始めた。

「それにしてもなんで来たのよ。なんかあった?」

「ん?ああ。ちょっと懐かしいことがあってな。お前のことを思い出したから、元気かなぁって。」

「ほうほう。京平はわざわざ私に会いにきてくれたと。私に。」

「そうだよ。」

僕が素直に答えたからなのか、逆に美智子がたじろぐ。

「あんた、女っ気がなさ過ぎて私なんかを口説きに来たわけじゃないでしょうね。」

美智子は自分の身体を隠す。

「はは。まあ女っ気がないのはガチだけどな。」

「どうせあんたの事だから今でも美帆ちゃんに全部費やしてんでしょ?」

「ん~。まあな。」

「ほんっと変わんないのね。」

美智子は少しだけ嫌味を込めたような言葉を吐いた。

「それで?何で京平は私を思い出してくれたんですかぁ?」

鏡越しに僕の顔の横に美智子の顔が迫っているのがわかる。

その人を小馬鹿にした顔は全く昔と変わっていない。

たとえ、彼女の容姿がどんなに変わっていようと。

「美帆がな。昨日、お前の制服を着て帰ってきたもんでな。」

「え?なんで私の?」

美智子はその顔は驚愕の表情に変わる。

当然である。

「あいつ、素行が悪くてさ。制服もまともにきれてないの。だから風紀委員に強制的に着せられたみたいだよ?」

「まさか、私の制服がそんな禊扱いになってたなんて。」

美智子は恥ずかしさにうずくまる。

「お前、風紀が制服来て歩いてるような女だったもんな。」

「仕方ないでしょ。姉が同じ学校で教師してるんだから妹の私が変なこと出来ないじゃない。」

「それを人に強制するから浮いてたんだぞ。お前。」

「人に強制しない風紀って何よ。」

まあその通りだ。

「でもなぁ。僕のバイトは大目に見て欲しかったなぁ。」

「あの時はバイト禁止だったから仕方ないじゃない。」

そう、僕はこれといって風紀を乱すタイプではなかったのだが、ただ一点。

バイトの件でこいつにいつも追いまわされた記憶がある。

「あれでウチの生活がだいぶきつかったんだぞ。」

「だからあれは謝ったじゃない!」

美智子は不満を露わにする。

「まあ、でも。僕がバイトを続けられたのは美智子のおかげだし。感謝はしてるよ。」

今となってはバイトの許可があの学校で降りるようになったのは何を隠そうこの美智子様のおかげなのだ。

「間違ったルールは変えないといけないからね。先に破るのはご法度よ。」

やっぱり、こいつはなにも変わってない。

僕は彼女のハサミを見て少し笑った。

「なによ。」

「いや、なんでも?」

「気持ち悪いわね。」

美智子が僕を軽蔑した目でみる。

「ところでなんで美帆ちゃんが着てきたのが私のだってわかったのよ。」

「ああ?ああ。だってお前なんにでも自分の名前書いてたろ。」

「え?!」

美智子はバツの悪そうな顔を見せた。

その手に持つハサミにももちろん彼女の名前が記されていた。

「なによ!文句あるの?」

「別に?俺は良い癖だと思うぜ?なくしたら大変だもんなぁ。」

「やっぱりバカにしてるじゃない!」

美智子は俺の頭を再びはたいた。

僕はおかしくて笑った。

懐かしくて笑った。


「じゃあカットしていくわね。」

僕の髪にハサミが入っていく。

心地よいカット音が耳に届く。

少しだけの振動が髪に伝わる。

「懐かしいな。」

「そうね。」

「覚えてるか?視聴覚室の……。」

「忘れるわけないじゃない。」

僕の髪に櫛が入る。

「あれが私の初めてのカットだったんだから……。」

この風景はどれほどあの頃と重なるのだろうか。

つい最近のように感じるのに。

だいぶ年をとってしまった気がする。


「去年ね、結婚したの。お姉ちゃん。」

どれほど時がたっても、少し胸が痛んだ。

「そっか。」

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