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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第4章 吉川美帆はガラスの靴を脱ぐ。
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学ランの男。

ウチは今日、2回男子に抱きしめられた。

一回目はほんの一時間前の教室で。

夕暮れに染まる机に腰かけている、大好きな男子に抱きしめられた。

そして今、ウチは二回目を経験している。

それは同じく夕暮れに染められた細い路地裏。

電信柱の影で大柄の学ラン男子高生に抱き寄せられる形で立ちつくす。

190cmはあるのではなかろうか。

長髪の髪から切れ長な目がこちらを見ている。

「ケガ……ありませんか?」

「……はい。」

そうだ。

ウチ、男の子を投げ飛ばしたんだった。

足元で尻もちをついている女の子が、その胸に男の子を受け止めている。

ウチは学ランを押しのけ、男の子を抱き起こす。

「大丈夫?怪我はない?」

「?おねえちゃん誰?」

男の子は何が起きたのか理解していないようだった。

「バカ!あんた今車に轢かれかけたのよ!」

女の子が怒鳴る。

「うぇ!?マジ!」

「先生もいつも言ってるじゃない!飛び出すなって!」

女の子のお説教は続く。

でもよかった。

ケガは無さそうだ。

ほっと胸を撫でおろすと、ウチらを轢きかけた車が少し離れたところで止まる。

少し間を置いて、車からパーカーとスウェット着た男性が降りる。

そして乱暴な音を立てて車の扉を閉めた。

物言いたげな雰囲気でウチらに詰めよってきた。

「あぶねえだろ!死にてぇのかばかやろう!」

男は剣幕に恫喝してきた。

痴話げんかをしていた小学生が言葉を止める。

その怒りの矛先は飛び出した小学生にではなく、ウチに向けられていた。

よかった。

男の子の手を引っ張って、本当によかった。

この男は本当に男の子に気づいていなかったのだから。

自分の行動に胸をなでおろしていると、男の声で我に帰る。

「おい!来てんのか!くそ野郎!」

「あぁ。」

ウチが言葉を返そうとした時、ウチの視界は一面の大きな背中に遮られた。

男とウチの間に学ランが割って入ったのだ。

「その前に、先に何か言うことがあるんじゃないですか?」

「あ?」

「ケガはないかとか、怖い思いをさせてすみませんとか、そういうのが先じゃないんですか?」

男はさらに詰め寄ってくる。

「女に良いカッコ見せたくて必死なのはいいけどな?てめぇは関係ねえだろ?引っ込んでろ!」

30後半くらいだろうか。

良い大人なのだろうが、学ランが大きすぎる為小柄に見えてしまう。

しかし、威勢というか威圧感は一切隠さない。

「恥ずかしい大人だ、あなたは。謝罪ができない大人は醜いですよ?」

男は学ランに掴みかかる。

「んだとゴラァ!もっぺん言ってみろやぁ!」

「恥ずかしい大人だ、あなたは。謝罪ができない大人は醜いですよ?」

「俺がどうして謝んねえといけねんだよ!」

熱くなる男に対し、学ランは一切感情に機微が感じられない。

「いちいち叫ばないでください。普通にお話できないんですか?」

「いいから答えろやぁ!」

どうやら男の音量調節は壊れているようだった。

「……こんな狭い路地で、塀だらけの見通しの悪い路地で飛ばしすぎですよ?」

「ここは30キロ制限だこら!30キロで走って何が悪いんだよ!」

「30キロ制限は30キロ以内で走りなさいという意味で30キロで走りなさいって意味ではないですよ?」

男は吠える。

「おめえは免許持ってねえから知らないかもしんないけどな。30キロのとこは30キロで走んだよ。な?言葉遊びしてんじゃねえよ?ガキが。」

「歩行者の近くを通る時は約1.5M離れるか徐行するって道路交通法で決まってるんですが?免許持ってるんですか?あなた。」

男は言葉を言葉に詰まる。

「3か月以下の懲役または5万以下の罰金ですよ?」

この学ラン……身体がでかいのに、威圧感を出さない。

意外と論破タイプの人間だ。

男はついに何も言葉を返せなくなった。

すると男は胸倉を掴む両手の内、右の手を引く。

「ごちゃごちゃごちゃごちゃ……。」

男はその右手を学ランの顔に向けて振りあげた。

「うるせぇんだよぉ!」

鈍い音が路地裏に響く。

いや、脳内いっぱいに響く。

最初は音、そして次に衝撃。

最後に痛み。

人に殴られたのなんて初めてだ。

殴った男は驚いている。

学ランも驚いている。

もちろん、ウチも驚いている。

殴ると分かった瞬間、手のひらで止めようと思って瞬発的に前に割りこんだのだけれど。

男のパンチが意外下から、そして大回りに打ちこんできたためウチの顔面、鼻っ柱にヒットした。

顎が暖かいと思ったら、おびただしい血が鼻から流れていた。

「きゃーー!」

近くで見ていた女の子が悲鳴をあげる。

殴った当人は動揺し、胸倉から手を話す。

それを確認するとすぐにウチの肩を学ランが抱く。

「大丈夫ですか?分かりますか?」

ウチは黙って頷く。

痛すぎてうまくしゃべられない。

「ゆっくり、座って?」

学ランはウチの肩を抱いたまま、ゆっくりと座らせた。

彼は自分のハンカチでウチの鼻を押さえる。

「大丈夫、下をむいてください。」

痛い。

痛い痛い痛い。

すっごい痛い!

だんだんすっごい痛くなってきた。

痛みって後からくるんだ。

学ランは男を睨んだ。

「ひっ……。」

「暴行罪?傷害罪?とにかく警察ですね。」

「あ、俺、そんなつもりじゃ……。」

「いいから救急車呼べよ!」

学ランが恫喝すると男は奇声をあげる。

「わざとじゃないんだよぉぉぉ!」

男はそう叫ぶと走って車に飛びのり逃げて行った。

「待てよ!おい!」

学ランの呼び声も聞きとめない。


痛い。

ホントにやばい。

拳ってこんなに攻撃力高いんだ。

心なしか意識が遠のいていく……。


「健太郎?どうしたの?」

その声を聞いた時、一瞬で意識が戻った。

「兄ちゃん。」

学ランの言葉を聞いた時、一瞬で痛みが引いた。

そこに立っていたのは今井良太だった。



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