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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第4章 吉川美帆はガラスの靴を脱ぐ。
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台無し。

「じゃあまた明日ね。松本。」

ウチは松本に小さく右手を振った。

夕暮れに染まる教室と松本が見送る。

松本は短く手をあげる。

「ん。また明日。」

そう告げると松本はすぐにポケットに右手をしまった。

彼に背を向け、出口の扉に手を掛ける。

「よっしー。」

松本の方を振り向くと、彼はいつもの人をからかうようなイタヅラフェイスでウチに指を指す。

「黒いのも似合ってるぞ。髪。」

「まじ~?趣味悪~。」

「すっぴんでも十分可愛いじゃん?それで学校こいよ。」

ウチはこれ見よがしに大きくため息をつく。

「はぁ~。ホントに男子って勘違い野郎ばっかよね。メイクは男子に良く見られたくてやってんじゃないの。」

「じゃあ、なんでやってのんさ。

「楽しいからに決まってんじゃん。」

「せめてもう少しメイク薄くしたらいいのに。」

ウチは松本にあっかんべーをした。

「あんたの好みになんてしてやんないよ。」

え~っと松本は不満の声を上げる。

「そういうのは早枝ちゃんに頼みなさい。」

「メイクしろなんて言えねえよ。」

ば~かと松本に放ち、ウチは教室の扉を閉めた。

目の前には静まりかえる廊下。

ここにはウチしかいない。

突然この世にたった一人だけ放り出されたかのような孤独。

でも不思議と寂しくはない。

ウチは無人の廊下を一人で歩きだす。

告白できて、むしろスッキリしている。

たくさん泣いて、泣ききって、今のウチにはもう何もない。

告白は受け入れてもらえなかったけれど、今まで通りの関係と変わらない。

ウチと松本はこれからも友達なのは変わらないのだ。

だから。

だから……。

もう泣く理由なんて一つもないんだ。

……涙なんか……もう出るわけがないのに……。

「なに勝手に告白してんですか。」

廊下の角を曲がるとそこには練山が立っていた。

「練山?!なんでここに!」

練山はウチの目をジッとみる。

いけない。

ウチは後ろを向いて両腕で目を拭った。

その後ろ姿を眺めながら、練山は深いため息をついた。

「泣くくらいなら告白しないでくださいよ。せっかくの作戦がパーじゃないですか。」

「仕方ないじゃない。テンション振りきっちゃったんだから。」

「吉川さんはテンションに任せすぎです。」

練山はウチにカバンをつきだす。

「え?」

「吉川さんのです。あとここの美容院予約しといたんで、髪、元に戻してきてください。会計はもう済ませてあるので。」

金持ちめ。

ウチはカバンと美容院の名刺を受け取る。

「いいの?髪染めても。」

「ダメに決まってるじゃないですか!でもそういう約束だし、元々そういう予定だったのに!吉川さんが勝手に告白しちゃうから僕のプランが台無しじゃないですか~!」

ぎゃーぎゃー喚く練山に対し、ウチは耳を塞ぐ。

「だからごめんて言ってんじゃん。」

「言ってないです。まだ一言も言われてないです。」

練山は腕を組みウチの姿を吟味する。

「僕はまだ諦めてませんからね。次の作戦をすぐに用意しますのでとりあえず元に戻っといてください。」

「松本のことなら、もういいから。大丈夫だから。」

ウチは練山に向かって軽く手を振る。

「まさかもう諦めたんですか?たった一回ダメだったくらいで?」

「うん。もう全部伝えたから。ウチの恋はこれでおしまい。」

「諦めるのが早いですねぇ。諦めの悪さ、それすなわち向上心ですよ?いいですから松本さんは僕に任せて茶色に戻っといてください。」

茶色って……。

「それに……。」

「それに?」

練山は嫌味に笑う。

「あんな痛ぁい女の子やっておきながら今更黒髪はやれないでしょう?」

言われなくてもわかる。

今に顔は赤面しているだろう。

思い出すだけでも寒気がする。

ウチはなんて恥ずかしいことをしていたんだ。

思い出すだけでも寒気がする。

「僕としては?とってもタイプでドストライク。ぜひお付き合いしていただきたいレベルなのですが。」

「絶対嫌。」

ウチははっきりと断った。

こんな姿も、あんな言動も二度とごめんだ。


いつもの帰りと違う電車に乗り、いつもと違う駅で降りる。

「どこよここ。」

聞いたことはある駅だけれど、降りたのは初めてなのだ。

練山も練山よ。

どうせ予約してくれるなら、ウチの行きつけの店を聞くとかあるじゃない。

なんて店なのかしら。

「せめてちゃんとしたとこなんでしょうね。」

なにせあいつは超が3つはつく金持ちだ。

こんな寂れた町でもきっと素敵な超1流の美容院に違いない。

ウチは期待を膨らませて名刺を確認する。

そこには『パーマの山田』と書かれていた。

……や……やばそー……。

もう不安しかない。

ウチはフラフラと狭い路地に足を進めた。

狭い路地、そびえ立つ塀、主張の激しい電信柱。

電信柱がまた通りの狭さを助長する。

近くに小学校でもあるのだろうか。

ウチの前には二人の小学生が歩いている。

楽しそうにはしゃぎ、ふざける男の子とそれに笑う女の子。

小学2年か3年くらいだろうか。

そんな小学生がうらやましく目に映る。

……いいなあ。

ウチもあのくらいから松本と知り合えていたらと思う。

付き合えないにしても、少なくとも12年は一緒にバカをやれたのに。

友達として隣にいれたのに。

後ろから車が近づく音が聞こえる。

ウチはそっと左に寄った。

「じゃあまた明日ね!」

「ばいば~い!」

二人はここでお別れなのだろうか。

男の子は女の子に手を振って右手側に走りだす。

ウチのすぐ後ろには車の音が近づいている。

車の音はなかなかの速度で近づいてくる。

運転手にはウチが陰になって、子どもが見えていないかもしれない。

この後なにが起こるのか、ウチは考えるよりも先に身体が動いていた。

ウチは3歩走り、男の子に手を伸ばした。

手を振る男の子の手を掴むと女の子の方へと思いっきり投げ飛ばした。

夕暮れの薄暗い路地裏。

ウチの視界はヘッドライトで真っ白になる。

けたたましくクラクションが鳴らされる。

ウチは完全に体制を崩して、道路に倒れ込む。

あっ、やば……。


気がつくとウチは見知らぬ男性の胸の中に収まっていた。

その人はとても大きな身体で。

ウチの高校ではない学ラン姿。

高校生とは思えぬその身体にウチは助けられていた。

長髪の高校生に。

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