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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第4章 吉川美帆はガラスの靴を脱ぐ。
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聞こえていますか?☆

「先輩?☆聞こえてますか?☆」

『よっしー』と似てる?。

『よっしー』は絶対こんなことしない。

ウチはこういう女は大っきらいだからだ。

でも、こうして松本を抱きしめて確信していることがある。

ウチはきっと、ずっとこうしたかった。

松本を抱き締めたかった。

本当は抱きしめてほしい。

ずっと一緒にいたいよ……。

このままウチを受け入れてくれたどんなに幸せか。

でも今はウチが最も嫌いな存在『美智子』。

……今のウチは……受け入れて欲しくない……。


松本は静かにウチの肩に手を掛けると身体をゆっくりと引きはがした。

乱暴に突き飛ばすわけではなく、無言で、優しく。

「先輩?☆」

「こういうことは良くないよ。美智子ちゃん。」

そこにいるのはウチの知る松本ではなかった。

松本は『先輩』になっていた。

「良くない。」

「ごめんなさい☆ちょっと先輩には刺激が強かったですか?☆それとも触れるよりも見る派でした?☆」

ウチの茶化しに松本は反応しない。

ただまっすぐウチの顔を見つめる。

「美智子ちゃん。右手出してもらえるかな?」

「右手ですか?」

いわれるがままに右手を手のひらを上にして松本に差し出す。

松本はその右手を左手で優しく握るとウチの右手をくるりと返した。

そしてそのまま松本の右手の手のひらの上に置いたのだ。

役目を終えた松本の左手はそっと彼のポケットへ帰っていく。

今、ウチの右手は松本の右手の上にいる。

「俺はこれだけで十分なんだ。」

松本はウチの目を真っすぐ見つめる。

「これだけですごくドキドキするし、すごく幸せだし、ずっとこのままでいたいと思うよ。」

ウチも……。

ウチもだよ松本。

ウチもずっとこうしていたいよ松本。

松本と付き合えなくたっていいの。

よかったの。

松本と一緒にバカをやって、一緒に先生に怒られてたあの毎日でいいの。

贅沢いってないよねウチ。

ありきたりな、ありふれた幸せを願っているだけなのに。

早枝ちゃんのものになったっていいのに。

ウチと付き合ってくれなくったって全然いいのに。

「どうして……アメリカ行っちゃうんですかぁ?……先輩。」

ウチはもうボロボロ涙が出ていた。

多分鼻水もでていたに違いない。

「え?」

松本はウチの言葉に戸惑う。

「なんで?君がそのことを?」

ウチは松本の胸に飛び込んだ。

涙を隠すように。

ウチの溜めこんだ想いを。

『よっしー』は伝えられなかった我が儘を。

松本の心に一番近いところから叫んだ。

「アメリカなんか行かないでよ!!ずっと一緒にいてよ!!」

「美智子ちゃん?」

まだだ。

まだ伝えたい言葉がある。

あなたから聞きたい思いがある。

「ついていっちゃだめ?……ですか?邪魔ですか?う……あっしーじゃダメですか?」

松本は何も答えない。

答えてくれなかった。

「泉野先輩じゃなきゃだめですか?」

松本はウチの肩を優しく掴んだ。

そしてまたもゆっくりと引きはがす。

彼からウチは引きはがされる。

ウチの想いは松本に届かない。

ウチはしゃくりあげて涙を流す。

「好きです!松本先輩!……大好きなんですぅ!……ずっとずっと!」

もう一度行きたい。

松本の胸の中へ。

力いっぱい胸の中へ飛び込もうとするも、松本の両手がそうはさせてくれない。

届かない。

ウチの想いが届かない。

「先輩!」

届かないのではない。

受け入れてもらえないだけなのだ。

「……ごめんな。」

松本は謝った。

「……ごめんな。よっしー。」

松本は確かにウチに謝った。

「……松本。」

「ごめん。」

松本はウチに謝った。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっぁっぁぁぁ!」

ウチは松本の胸に飛び込むことができた。

そして松本の胸の中でたくさん涙を流した。

2週間分?

3年分?

いや、これからの分もたくさん泣いた。

松本はなにも言わずに、ウチの肩を抱き、静かに頭を撫でるのみだった。

ひとしきり泣いたあと。

夕暮れの教室の中。

ウチは彼の胸の中で。

彼の胸に向かって、顔を見せぬまま告白した。

今度はウチの言葉で。

ちゃんと『よっしー』の言葉で。

「松本?ウチね?高一のころから好きだったんだよ?」

「ん。」

「松本のね。マジックもみんな覚えてるの。たぶんウチが松本の一番のファンだよ?これからもずっと……。」

「ん。」

「松本の笑顔が好きなの。知ってる?眉毛がね?ぐいーって下がるのね?眉毛が。」

「ん。」

「うちね。首フェチでね?顎のラインから鎖骨も好きなの。松本の。」

「ん。」

「ウチがいつも特等席だったの。職員室で一緒に怒られている時が一番いいアングルで見えるの。」

「ん。」

「松本。……だぁいすき。」

「ん。ありがとう。」

松本はウチを優しく抱きしめた。

多分、人生で一番幸せな瞬間だった。

「俺も、よっしーと一緒ですげー楽しかった。毎日が本当に楽しかった。俺の高校生活の思い出はよっしーばっかりだ。」

松本はまたウチの肩を掴み、ウチと距離をとった。

「俺は泉野が好きだ。」

「ん。」

ウチは松本に笑って見せた。

彼を好きになってよかった。

彼を好きになれてよかった。

こんなに素敵な恋はきっと一生ないだろう。

幸せな3年間だった。


この恋はもう終わってしまったけれど。

ウチはこれからも『よっしー』であり続けるよ。

これからもずっと。

君がくれた名前だから。


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