ラインがしたい。
俺の名前は今井良太。
今日意中の女子とID交換をしたリアル充実系男子である。
ミツキは人気者で俺なんかが付き合える可能性は10%くらいだと思っていたが、どうやら彼女にも俺と同じ暗い過去があったらしい。
はるか上だと思っていた人との意外な共通点によりいきなり至近距離級の親近感を覚える。
俺があいつの傍にいてやらないとな。
俺は自宅に着くなりすぐにミツキにラインをする。
さて最初の切り出しはなにがいいだろうか。
まずは先ほどの件についてのお礼だろう。
俺は居間のソファーに腰掛け、スマホをタップさせる。
『高岡美月殿
お疲れ様です。3年1組の今井です。
連絡交換の件につきまして感謝申し上げます。
個人情報につきましてはこちらで厳密に管理させて頂きますのでご安心ください。 』
硬い!高校生のラインじゃない。
もっとフランクに。
『ハァイミツキ!今日はとってもありがとう。
これから君のことをミツキって呼ぶよ?いいね?』
良くない!
全然良くない!
フランクって言うのはコミュ力と語彙力がないやつは手をだしちゃいけない領域なんだ。
語彙力のない俺にはフランクは無理。
もっと簡潔に。
『お疲れ様です。これからよろしく。』
テキトー!
ここからどうやって話題を広げろと!
返信すらだるくなる文面。
『こっちに話題考えさせる気?話したいのはそっちだろ?ミツキは別に話す気なんいんだけれど?』と思われかねん。
もっと高岡さんと話したい気持ちをアピールしなくては。
『今日はありがとう。これからよろしくね。ミツキとは話したいことがたくさんあるんだ。ちょっとずつミツキを知って、できれば俺のことも知っていってほしいな?ラインしやすい時間て何時ごろ?』
重い長いキモい!
いきなりこんなん引くって!
最後なんてむしろ怖いわ。
もっと軽めな感じで。
『おっすー。これからよろー。ところで今なにしてんの?』
誰?
俺こんなこと顔みて話せない。
あと今何してんの?って一番面倒なやつだ。
『なんであんたにそんなこと言わないといけないの?気持ち悪いんだけど』が必須。
そうだ!
俺は閃いた。
高岡さんからのラインはこの不機嫌そうなねこちゃんで止まっている。
これって俺もスタンプでいいんじゃね?
不自然な感じがない。
俺は前期の大人気深夜アニメの美少女が『よろしくっ』と音声つきのアニメスタンプを貼り付けた。
ダメ!
これが今まで一番最悪。
考えうる中でも最低。
これだけはない。
なんのつもりで貼った?
というか誰に使用するつもりで買った俺。
これも違うと思い消そうとしたがこれはスタンプである。
もう全て後の祭りであった。
俺はフラフラと立ち上がりスマホの電源を切った。
俺はちからいっぱい自分の頬をはたいた。
そしてソファー上のクッションに顔を埋めてひとしきり叫んだ。
お風呂に入り頭を洗っている最中にまた発作が起きる。
俺はひとしきり叫ぶ。
夕食を終えて弟と雑談しながら一緒に皿を片していた時である。
「それでさーそいつが変なスタンプ貼ってさー」
その刹那俺は発作が起き絶叫とともにお皿を床に叩きつける。
「なにしてんの!?」
「俺を殺せぇ」
「はぁ?」
そう黒歴史である。
死にたいと思いつつ俺は部屋に戻り、ベッドに倒れこむ。
右手に握られた真っ暗な画面のスマホを眺める。
スタンプを発信してからもう4時間以上が経ち、時刻は22時を大きく過ぎていた。
「なんて返ってくるかな?」
俺は恐る恐るスマホの電源が触れている親指に力を入れる。
スマホに電源が入るとラインの通知音が部屋に響いた。
通知の名前を見ると高岡さんからのものだった。
正直無視じゃなくて少しホッとした。
どんな内容だろうか。
俺のスタンプになんて返してくれたんだろうか。
同じ時間に2つメッセージが来ていた。
しかも俺のスタンプから3分後の即レスだった。
『今井くんもこのアニメ観てたんだ』
『10話から凄かったよね?』
観てたんだ。
またも共通点!松本も弟もアニメは全然観ないからアニメの話ができると思わなかった。
しかもあんなかわいい今どき女子とアニメの会話ができる。
しかも自分が今気になっている女子とだ。
俺のスイッチがオンした。
『すごい面白かったよね。最初ありきたりなハーレムものの量産型ラブコメかと思いきや幼なじみが実は親友が本命だったってわかったところに特殊エンディングがズルい。イントロの入りがかっこよすぎて鳥肌たったもん。あそこで一気に世界観に引き込まれて1週間が長かった待ち遠しくて待ち遠しくて。しかも作画がぬるぬるしてるだけじゃなく妥協しない絵コンテというかカットが細かくて構図がエグい。あの主題歌は今でも俺の脳内ステレオが鳴らし続けて止められないのぉ。』
俺はスッキリした顔でラインを送信した。
するとまたも即レスでラインが帰ってきた。
さて高岡さんはどんな感想を抱いていたのだろうか。
『素直にキモいわ』
俺は枕に顔を埋め眠りにつくまで叫び続けた。




