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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第4章 吉川美帆はガラスの靴を脱ぐ。
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別人本心作戦。

チャイムが帰宅時間を告げる。

みなが思い思いの放課後を始める。

みなが教室から出てくる様をウチは遠い廊下の端から覗く。

クラスのみんなの認識では校内にウチ、『よっしー』はいない。

風紀委員か逃げ伸び、学校から飛び出してしまったという設定らしい。

今校内にいるのは廊下の端から教室を眺める変質者のウチである。

その姿に『よっしー』の面影はまるでない。

髪は染めたての真っ黒をツインテールにしばり、顔は完全なノーメイクである。

もちろんネイルなどしているわけもない。

制服はキチンと手入れされている改造のされていない規律正しい制服。

香水の匂いもない。

むしろ倉庫臭い。

……今のウチに『よっしー』を表す記号は何もない。

ウチは右腕にくくりつけられている『風紀』と書かれた腕章を握った。


「シャワー?黒髪?なんで?!」

ウチの動揺は大声になって生徒指導室に響いた。

「今日だけです。今日だけこの学校から『よっしー』はいなくなるのです。」

こいつは本当にウチの理解に及ばないことばかり口走る。

「手っ取り早く関係を進めるにはまず相手を知ること。変装をして松本さんに本心を聞いてきてください。」

「本心って……。」

「もっとも、あなたは化粧やネイルといったアクセサリーを外すだけで良いのでしょうが、より確実にするためにこれを着てください。」

練山は段ボールから倉庫臭い制服を出す。

「ちょっとまって。」

「知ってますか?人の記憶に一番結びつきやすいのは匂いらしいです。だからこの僕の持ってきたシャンプーで香水を落とし、この倉庫臭い制服を着ることであなたの匂いはなくなり、より気付かれにくく……。」

「ちょっとまってって!」

ウチの叫びに練山は小さく息を吐く。

「今日僕を何回待たせるんですか。」

「松本の本心は知ってるんだって!松本は……。」

「早枝さんが好きなんですよね?それはもう僕も分かってますって。」

「じゃあ何を聞くのよ?」

ホント子どもですねあなたと練山はウチを呆れた目を向ける。

「誰が誰を好きっていうのは恋愛においてそれほど重要じゃないんです。いいですか?重要なのは松本さんが吉川さんを好きになれるか。そして……」

ウチが練山の続きを呟く。

「……アメリカについていってもいいのか。」

練山は口角をあげて頷く。

「あなたは『吉川美帆』と『よっしー』を少しだけ脱ぎ棄ててください。すっぴんと匂いマジックが効くのはほんの一瞬です。付き合いが長い人ほどその効果は短いでしょう。」

練山は人指し指を一本立てる。

「一時間です。放課後の一時間で聞いてきてください。松本さんがどうしてほしいのか。」

「それって『よっしー』でも出来るんじゃ……。」

「できるんですか?今日?今すぐ?」

少し想像してみたが、それは簡単なことではないことは明白だった。

「赤の他人の身体を借りるのが一番簡単なんです。人間というのは立場、環境で言動が決められてしまう不憫な生き物なのですから。」

……確かにその通りだった。

立場、環境というのは当人の性格よりも強制力が高くウチらの言動を縛ってくる。

そういうのを気にしない。

空気なんて絶対読まない。

ウチが正しいと思うことだけで行動する。

それだけをモットーにウチは人と付き合ってきただけに、よりその壁を理解しているつもりだ。

だからこそ……。

「ウチの言動ってさ、ほら、飾らないというか、特徴あるじゃん?だから会話でばれるんじゃ?

「バレるでしょうね。」

練山はさらりと即答した。

「じゃあやっぱり無理なんじゃ。」

練山はいらだちを見せる。

「口を開けばむりむりむりむり。そうやってできない理由を探すのは一級品ですね吉川さんは。どうして出来る方向に考えないんですか。できない事由を見つけたら出来る方法を探す。当たり前じゃないですか。」

ウチは少し考え、思いついた方法を自信なさげに呟く。

「一言もしゃべらないとか。」

「どうやって本心聞くんですか。」

「英語で聞くとか。」

「さっき散々できないって騒いでたじゃないですか。」

「……演技するとか?」

「ふつうそれしかないですよね?」

ウチは勢いよく首と手を横に振る。

「むりむりむりむり。無理なものはやっぱり無理。演技なんてそれこそボロが出てソッコーバレるって!」

練山はまたもため息をつく。

「仕方がないですね。じゃあ別人になれる簡単な方法をお教えしましょう。」

ウチは練山にガッツポーズを見せる。

「そういうのだよ、そういうの。そういうのもっと頂戴?」

「理想の自分を演じればいいんです。」

練山はさも当然かのように答える。

「……理想?」

「そう。理想の自分です。人というのは得てして矛盾した生き物でして理想とは反対方向に成長してしまう生き者でして。であるからしてそれを実行するのは実はとても簡単なことで。」

「いややってるんですけど。」

練山はきょとんとした顔をこちらに覗かせる。

「え?」

「今のウチが理想のウチなんだけれど。」

「いやいや、完璧ではないでしょ?少しくらいもっとこうなりたいとか。」

「いや全く。完全無欠な人間だと思ってるんだけど。」

練山は言葉を失う。

新種の生き物を見るかのような目でこちらをうかがう。

「自分、大好き。」

「ひとつだけ自分につけたせるとしたら?」

ウチはちょっとだけ、本当にちょっとだけ考えて即答した。

「勉強できるようになりたい!」


そんなことがあったのがほんの半日前である。

たった一時間の別人タイムが始まったのである。

「うん。ちょっと心配だから様子みてくる。ラインも未読スルーだし。」

教室からミツキが出てきたのが見えた。

まずい!

まだ考えがまとまっていない。

なにより、なるべく人とのエンカウントは避けたい。

てか、ここにいたら確実にみんなここを通るし、もれなく全員エンカウントしてウチのレベル上がっちゃうじゃない。

とにかく場所を変えないと。

ウチは後ろを振り向いて走りだそうとしたところ、なにもないところに躓いて転んでしまった。

厳粛には何もないわけではない。

踵を踏んだ靴に躓いたのだ。

ああ、踵って踏むもんじゃないな。

今更、小学校から何度も言われた危険性に気づく。

ヒヤリハットというやつだ。

ウチは素早く靴を拾う。

こんなところに靴を落としていってはいけない。

ガラスの靴を落とすには早すぎる。

ウチが靴を拾い上げて顔を上げるとそこに立っていたミツキと目が合う。

目が合ってしまったのだ。

『別人本心作戦』の遂行は潰えた。

ただのコスプレ姿を親友に晒しただけだった。

早かったな~。

ミツキはウチの視点近くまでしゃがみこみ、ウチの身体を眺める。

「大丈夫?今転んでなかった?怪我してない?」

「ああ、大丈夫大丈夫。大丈夫だから。」

早く家に帰りたい。

帰って茶髪に戻したい。

「よかった~。見ない顔だね。一年生?」

!?

……バレ……てない?

「ん?」

ミツキが心配そうにこちらを覗く。

ウチは右手を軽く握って自分の東部を軽く小突いた。

「大丈夫でぇす☆あっし~よくなにもないとこでぇころんじゃうんだよねぇ☆変なのぉっ☆」

そして軽く舌を出して見せた。


『じゃあ~……。逆に自分の一番嫌いなタイプやればいいんじゃないですか?』

練山はやる気無さそうに確かにそう言っていたのだ。

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