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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第4章 吉川美帆はガラスの靴を脱ぐ。
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進路指導。

「ウチがアメリカに?」

吉川さんは僕の顔から目をそらさずに首を横に振りました。

「いや、無理無理無理無理。何言ってんの?」

彼女はまたも僕の腕を振りほどくと、少し痛めたのか掴んでいたところをさすっていました。

「ウチだよ?勉強だってろくにしたことないし。今更英語なんて。」

その言葉を聞くと僕は彼女を嘲笑った。

「安心しました。深刻そうに恋の相談をするものなのでてっきり真剣に松本さんのことを想っているものだと思っていましたもので。失礼。吉川さんは身近にいる男子で一番タイプの男子が松本さんだったというだけなのですよね?」

僕は彼女に笑顔で太鼓判を押しました。

「大丈夫です。吉川さんは顔は中の上。そして豊満なバストという武器を持っているのですから、多少言動が荒い部分を差し引いても、きっと彼氏はできますよ。」

「あんたって本当に煽り方が下手ね。そんなこと言われても松本と一緒にアメリカに行こうなんて気持ちにはならないんだけど。ただ不快。ただ練山の好感度が下がっただけよ?」

「もともと僕への好感度なんてないようなものじゃないですか。何を今更。」

僕は吉川さんに背を向けて少し、少し歩きました。

彼女に僕の背中をじっくりと見てもらったのです。

「僕も風紀委員の端くれ。全校生徒とまでは行かなくても、松本さんやあなたといった目立つ生徒はよく観察していたもので……。わかっちゃうんですよねーー。吉川さんが松本さんにだけ態度が違うこととか……。松本さんもまたしかり……。」

吉川さんが食いついてきました。

「松本が……?ウチを……?」

僕は小さく冷笑しちゃいました。

「え?ええ。松本さんは間違いなくあなたのことは、そうですね……。友達、ええそう友達ですねあれは。自分でもわかっているはずなのに期待しちゃいますか?吉川さん。」

「そんなふうに言われたら誰でも期待しちゃうでしょ?!普通!」

「期待?アメリカに行く男子に何を期待したんですか?」

「それは!」

吉川さんは口ごもります。

「もう認めましょうよ。まずは自分と向き合わないと何も進まないですよ?」

「むり!でも無理!アメリカは無理!」

僕はその言葉を聞き遂げるとホワイトボードの議題を消し始めました。

「ちょっと!何してんのよ!」

「なにって?ああ。後片付けですよ。今日の指導は終わりです。僕のリサーチ不足で準備が無駄になってしまいましたからね。失礼しました。今日は戻られて結構ですよ。」

「準備ってなによ。」

「吉川さんには関係のないものです。」

「あんた、アメリカ行きの話なんて知らなかったじゃない。」

「アメリカ行きのお手伝いじゃありません。」

「じゃあなんの……。」

僕は小さくため息をついて彼女を見つめました。

「松本さんが吉川さんを意識させるお手伝いです。」

「意識……?」

「ええ。僕から言わせてもらえればあなたへの態度は男友達と接するそれとなんら変わっていませんので、まず意識してもらうところから始めようかと思ったのですが……。松本さんがアメリカに行くのであれば仕方ありませんね。」

僕は全ての身支度を終えたため、カバンを背負い生徒指導室を出ようとしました。

「今日はお時間とらせてすいませんでした。傷つけるような発言もどうかご容赦ください。ですが、僕は間違ってるなんて思いませんから。」

「待って!」

扉に手を掛けた僕は彼女の掛け声で手を止めました。

「待って。話だけ聞かせてくれない?ほら、せっかく準備してくれたんだし。1時間目はほら、始まったばかりだし。」

「でも、今のあなたにはなんにも役に立たないかもしれませんよ?」

「ウチはまだ決められてないの。……決められてないだけなの。頭のなかごちゃごちゃで。でもこんな自分勝手な感情誰にも相談できなくて……。抑えようと思えば思うほど膨らむこの気持ちをどうしたらいいかわからないの。だからお願い。お願いします。」

「決心のない希望は、余計辛いだけですよ?それでもいいんですか?」

吉川さんは黙って頷きました。

「仕方ないですね。あまり気は乗りませんが、力にならせていただきます。」

僕はもう一度ホワイトボードに議題を書きだしました。

『松本大地と付き合うには』と。

「では始めましょうか。今日が最初の一日になるのです。」

吉川さんは意を決した表情で席に戻り、椅子に腰を掛けました。

そう、ここまでは。

……計画通り!

なんとか僕の話を聞いてくれる体制になりました。

正直アメリカ行きの話は予想外すぎて肝を冷やしましたが、なんとか土俵に乗せることができました。

今のとこアメリカの件はノープラン。

何も思いついてはいませんが、彼女が勝手に答えを出してくれるでしょうし、そこまでは僕はなんの興味もないのです。

僕の目的はいつでも至ってシンプル。

この学校の風紀を守ることだけなのですから。


「吉川さんは、いつから松本さんを?」

吉川さんは顔を赤らめながらためらいがちに答えました。

「い、一年の秋ぐらいには。もう意識をしてたと思う。」

「一年半も時間があったのになぜ告白されなかったのですか?アプローチもせず?」

「アプローチはした!いっぱいした!ラインを交換したり、よく教室で話すようになったり、二人きりで遊びにいったりもした。なのに……。」

「距離を詰められたのは友達としての『よっしー』だったと。」

吉川さんは静かに頷きました。

「なぜ告白されなかったんですか?」

吉川さんはもごもごと口ごもり何を言ったのか聞きとることができませんでした。

「なんですって?」

「……告白されると思ってたから……。その、一番仲のいい女子だと思ってたし。」

「そしたら?早枝さんがいらっしゃったと。」

一年半もあって、マヌケというかなんというか。

「ちなみに早枝さんと松本さんはどこまで?」

「松本が早枝ちゃんに告白してて、ウチ、それを見ちゃって……。たまたま。」

吉川さんから威勢が消えていくのがわかりました。

「早枝さんは?」

吉川さんは首を横に振りました。

「フってた。でも彼女は絶対に、絶対に松本が好きなの。それだけは間違いないの。早枝ちゃんは、早枝ちゃんは自分の欲しいものは絶対手に入れない子で……。」

「あーー。今は早枝さんの話は置いておきましょう。」

僕は吉川さんのことしか興味がないので、第三者の恋心とかどうでもいいわけで。

「今は二人の関係の登場人物にすらなれていないあなたの見解なんてあてになりませんので。吉川さんの気持ちが纏められないのはあなたが当事者になれてないからです。まずは松本さんに異性として認識してもらいましょう。」

吉川さんはすがるような目で僕を見つめました。

「どうすれば?」

僕は彼女の目の前にシャンプー、ボディーソープ、毛染めを置きました。


「とりあえず、先にシャワーを浴びてきなさい。」

吉川さんが幻滅した顔をこちら向けてきました。

「すべてはそれからです。」

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