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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第4章 吉川美帆はガラスの靴を脱ぐ。
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生徒指導。

はじめまして、僕の名前は練山正史と申します。

よく『マサシ』と間違えられるですが、『タダシ』が正解の読み方です。

僕は生徒指導室にいます。

無論、一人ではないのです。

ここには風紀を乱すお客様をご招待させていただいています。

風紀を乱す生徒は学校の名前を汚しているという自覚がなさすぎるのです。

現在、誰もが個人でネットを通じ、様々な情報を発信できる昨今。

我々、風紀委員の使命は急務といえよう。

在学中だけではないのです。

卒業後に後ろ指を指される事態は避けたいのです。

何年たっても胸を張って、この高校を卒業したことを堂々としていたいのです。

そんな僕の愛を今日のお客様に伝えなくてはなりません。

今日のゲストは念願のお相手。

学年も風紀委員も一つ上の先輩であります。

吉川美帆さんでございます。

僕を鼓舞するかのようにチャイムが鳴り響きます。

さあ、調教の始まりです。

僕と彼女の一時間目が始まりました。


「一時間目始まちゃったんですけど?」

吉川さんは足を組み、不満そうに椅子に腰を掛けています。

なんと汚らしい足を見せつけるのでしょうか。

隠しているところに魅力が詰まっていることをなぜ理解できないのでしょうか。

まあいいでしょう。

そういったところを一つ一つ正していく快感が僕を興奮させる。

素材は醜い方が磨き甲斐があるのですから。

「いいんです。担任の先生からの許可はとってありますので。」

ホワイトボードとマーカーを用意しました。

「ぜひよろしくとのことでしたよ?」

吉川さんは舌打ちをとともに貧乏ゆすりを始めました。

どうしてこうも自分の不満を隠しもせずに体現することが許されると思っているのでしょうかこのサルは。

おっと、失礼。

僕ともあろうものが不適切な表現でしたね。

低能な人間にいきなり高尚な思考を授けても一言も聞く耳を持たれないまま時間の流れを待つのが関の山。

こういう底辺には、まず分かりやすい課題と成果を与えてやれば目の色を変えて次の調教をおねだりすること請け合いなのです。

「まあまあそう拗ねないでください。きっと為になる一時間になりますから。」

僕はホワイトボードに本日の議題を掲示しました。

『松本大地と付き合うには』

そう書かれた文字を視認するや否や吉川さんは悪態をつく。

「はん。あんたもわかりやすい事をするわね。身だしなみ良くすれば松本と付き合えるとかいいたいわけ?」

人間とはいつもこうである。

欲望の一端を提示されると否定から入り、手に入れる努力を放棄するのです。

少しの努力で手に入るというのに。

努力ですらない、正しい手順を踏むだけで良いというのに。

手に届かない果実はまだ熟していない、おいしくないと諦めてしまうのです。

そういった方々に正しい手順を享受するだけ。

「いやいや。僕も男ですから。吉川さんの力になれると思うんです僕。」

「いやいや。そういうのなら結構ですから。ウチはこれで。」

吉川さんはカバンを持ち、生徒指導室を退出しようとしたので僕が声を掛けて差し上げました。

「どうして吉川さんは告白されないんですか?」

扉に手を掛けた吉川さんの手が動きを止めました。

「いや、どうしてできないんですか?」

吉川さんは無言のまま動きを止めてらっしゃる。

その後ろにトドメの一言を添えるだけ。

「早枝さんに先、越されました?」

吉川さんはカバンを床に落とすとともに、僕の頬めがけて平手打ちをしてきました。

当然予想していた僕は軽く受け止めます。

「……お前、マジ調子のんなよ?」

「ずるいですねえ。一人だけで熱くならないでくださいよ。」

「ウチのことよく知らないくせに知ったかぶんなっていってんの。松本のことも、早枝ちゃんのことも。」

彼女の腕は僕の手のひらの中で小さく震えていました。

「僕から言わせてもらえれば、あなたは自分の事を知らなさすぎます。」

「なに?」

「松本さんと早枝さんはお付き合いされているのですか?」

吉川さんは何も答えませんでした。

「……秒読みってとこですか?」

吉川さんは僕の手を振りほどきました。

「全然そんなんじゃない。あんたは的外れもいいとこよ。残念だったわね。」

「そうですか。二人は両想いであるけれど付き合えない理由があって?それを理由にあなたは遠慮しているというわけですか。」

吉川さんが驚きの表情で僕の顔を見上げました。

もっとも見上げる程の身長差でもないのですが。

畳みかけるなら……今ですかね。

「松本さんと早枝さんが両想いだから諦めるんですか?二人がくっつくべきだと思うから潔く諦めるんですか?もともと二人の眼中にも入っていなかったのに?土俵にも上がっていないのに?察しのいい女にでもなったつもりですか?」

吉川さんの耳元で最後の一言を僕は呟きました。

「何様ですか、あなた。」

彼女はまたも僕に平手打ちを繰り出してきたので、僕はそれをまた掴むことにしました。

何度も何度も芸のない人です、この人は。

「うるさい。あんたは本当に何も分かってない!なんにも!そういうんじゃないんだって!違うの!思い上がってるとかそんなんじゃなくて……。とにかく無理なの。もう告白とか、ウチの気持ちとかそういうレベルじゃないの。」


純愛ぶっている彼女に僕はこう続けました。

「はっ。たかだか子どもの恋愛じゃないですか。」

すると彼女は今日一番の怒りを込めた睨みを僕に向けました。

怒り、それは人間の喜怒哀楽の一つ。

もっとも本心に近い感情。

それをやっと見せてくれました、僕に。

「松本はもうすぐアメリカに行くの!アメリカに行っちゃうの!もう何もかも遅かったの!お前になにができんのよ!」

「……だから、子どもの恋愛だっていってんですよ。」

彼女のつかんだ腕を僕は強く握りました。


「何ビビってんですか。あんたもアメリカ行けよ。」



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