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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第3章 安原の参観日。
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将来。

夜の一時すぎ、私はようやく帰路につく。

長い長い一日がようやく終わる。

けれどまた6時から次の仕事に行かなければならない。

早く帰って眠らなければ。

眠ることすら、私のスケジュールなのだ。

辛い毎日だけれど、挫けるわけにはいかない。

智香と大樹の生活と将来がかかっているのだ。

ここで安原家の母親たる私が挫けるわけにはいかないのだ。

あの子たちには私しかいないのだから。

智香にはきちんと大学に行かせてあげたい。

大樹の小学校の学費も最初の説明会以上に出費がかさんでいる。

今仕事を4つ掛けもちしてやっと成り立っている家計。

自分のがんばりがあの子たちの将来を支えていると思うとやりがいもある。

親として、やりたいことをやらせてあげられないこと程辛いことはない。

……でも私が支えていたのはあの子たちの将来だけだったのかもしれない。

あの子たち自身は支えられていなかった。

昨日の件は全て私の責任だ。

……大人だって完璧じゃない。

……母親は完全じゃないんだ。


玄関を開けるとリビングに電気が灯っている。

明日は土曜日だから起きているのかしら。

それとも昨日のことで何か話があるのかもしれない。

「……智香?」

リビングに入ると智香が私の顔に目を向ける。

それはとても自然な柔らかい表情だった。

「おかえり。」

いつもの無表情な彼女とは少しだけちがって、絶対的に違っていた。

智香はアルバムを見ていたようだ。

「それは?」

私はソファに腰かけて、アルバムを覗く。

「ゴールデンウィークにね、花巻温泉に行ってきたの。その時の写真。」

高校生くらいの子どもたちがたくさん映っている。

これがみんな智香の友達かと思うと、親としてはこそばゆい思いに駆られる。

子どもにお友達ができるということは親としてこれほど嬉しいことはない。

「どれも良い写真ね。」

「楽しかったから。全部残したくって。」

見て、といい智香はアルバムのページを進める。

そして一枚の写真に指を指した。

「これが一番好き。」

その写真は浴衣を着た大樹が初めてのバイキングに目を光らせているところだった。

「ほんと。お母さんもこれ好きかも。」

ちらりと智香の顔を横目で見る。

「ちょっとお父さんみたい。」

「お母さんもそう思った。」

二人で目を合わせる。

一瞬の間をおいて二人で噴き出して笑った。

「小1と似てるってどうなの?」

「お父さんバイキング好きだったものね。」

「目きらっきらさせて歩くの。そりゃもう子どもみたいに。」

「男ってホントいくつになっても子どもなのね。」

「それでいつも食べすぎて動けなくなるの」

「大樹は?大樹はどうだった?」

智香がページをめくると、苦しそうに横になる大樹の姿が映し出されていて、私たちはまた笑った。

「はあ~おかし~。」

「お腹いた~い。」

ひとしきり笑ったあと、智香が私に切りだし始めた。

「私ね、ずっとお母さんの代わりをしなきゃって思ってたの。あとお父さんの代わりも。」

私はニヤけていた顔を引き締め真剣に智香に向き合った。

「できるはずないのにね。自己満と現実逃避だったと思う。自分の役割を見つけられたら自分の進路なんて消去法で決められるから。」

智香が天井を仰ぎ見る。

「でもそれって。すっごい失礼なことだったんだってやっと気付いた。お父さんにも、お母さんにも。自分の選択から逃げる理由に二人を使ってたんだから。こんなに頑張ってくれているお母さんや、あんなに大切にしてくれたお父さんのせいにしてたんだから。」

「……智香。」

「私ね。やっぱり自分が嫌いなの。自分の事大好きな人間なんてあまりいないかもだけれど。私ね?一つだけ自分のことで好きなことがあるの。」

智香は大樹がぬいぐるみを抱いて眠っている写真を私に見せる。

「私、自分の写真が好き。撮るのも、見るのも好き。自分の見てきたものを、見てきた景色をみんな残したいの。だから……。」

智香が背筋を正し、私に正面を向けた。

「私、大学には行かない。カメラマンになりたい。これが私の本当にやりたいことなの。だから……。」

智香は私の手を握った。

「もう無理しないで?」

安心したのだろうか。

肩の荷が少しだけ下りたのだろうか。

智香の大学のお金を貯めなくてよくなったからなのか。

智香がやっと自分のやりたいことを見つけてくれたからなのか。

自分でもわからない。

ただ一つわかることは、今一言でも口にすればこの涙がこぼれてしまうということだけ。

智香は私をそっと抱き寄せた。

「今までありがとう。お母さん。」


「これありがとう。」

智香は私の古いガラケーをテーブルの上に置いた。

「もういいの?」

「うん。大樹と今日買いにいったから。目覚まし時計。」

「そう。」

「じゃあ。おやすみなさい。」

「おやすみなさい。」

私は智香に軽く右手を振った。

ずっと昔に私が使っていたガラケー。

もう15年くらい前だろうか。

私も久しぶりに引っ張りだした。

まだ動くものなのかと少し感心を覚える。

私はガラケーのムービーフォルダを開いた。

懐かしくて、懐かしくて、自然と笑みがこぼれる。

私は一つの動画を再生した。

すると懐かしいあの人の声が聞こえてきた。


『智香。まぁた撮ってるのかい?』

『ん!』

『パパばかりじゃなくてママも撮ってあげなよ。』

『いやああ』

『ママまたフられたね。』

『いいやああ』

『智香はホントにカメラが好きだなあ。』

『すき。』

『将来はカメラマンかな。』

『いいやああ』

『違うの?』

『ん!』

『じゃあ大きくなったら何になりたいんですか?』


『まま!』


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