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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第3章 安原の参観日。
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授業参観。

『……誠にご迷惑おかけしています。現在、運転を見合わせております。お客様には……』

電車が止まっている。

駅に着いた現在の時刻は12時40分。

授業参観までもう1時間もない。

ここから10キロ近く離れた小学校まで歩いて行ったら2時間弱はかかってしまう。

……そうだ。

電車がダメなら車がある。

私はタクシー乗り場に急いだ。

でも電車の遅延で駅が人でごった返している。

なかなか前に進めない。

はやる気持ちと反して、私をここから速やかに出させてはくれない。

私は大きく息を吸い、肺いっぱいに決意を溜めこんだ。

「すみません。通してください。すみません。」

人ごみに自分の身体をねじ込んでいった。

車でも30分はかかる。

タクシーを拾えたとしても時間はギリギリなのだ。

一刻も早く、駅からでなければならない。

「すいません!通してください!すいません!」

みんなが迷惑そうに私の顔を見る。

危険な行為だ。

迷惑な行為だ。

急いでいるのは自分だけだと思っているのか。

みんなの不快な思いが聞こえるようだった。

私の今やっていることは迷惑かもしれません。

でもごめんなさい。

今日だけはワガママさせてください!

私は人ごみをかき分けて出口へと進んだ。


タクシー乗り場に辿りついた私は目の前の光景を疑った。

そこにはほとんどタクシーがいないのだ。

ちょうど一台のタクシーが乗り場に入ってくるものの、そこにはタクシーを待つ長蛇の列があった。

考えることはみな同じなのか。

あんなの待っていたら、授業参観が終わってしまう。

私はカバンを開き、スマホを探す。

タクシーを自分で呼ぼう。

きっと時間がかかるだろうけれど、あれを待つよりは早い。

歩いて行ったら絶対間に合わない。

1分でも早くタクシーを呼ばないと。

おかしい。

スマホが見当たらない。

それもそうだ。

昨日壊れてしまったではないか。

私は探す手を止め、カバンのチャックも閉めずにその場にへたれこんだ。

たまたまその場にベンチがあったため、力なく腰かける形となった。

……なんでこんなにうまくいかないの?

弟の授業参観を見たいだけなのに。

ただ、頑張る弟を応援したいだけなのに。

ただ、大樹を大切に思っているだけなのに。

なんでそんなこともまともにできないの、私は。

どうしてこんなこともさせてくれないの……。

「……お父さん。」

……あんまりだよ。

時刻は12時50分。

もう40分もない。

もう授業参観には間に合わない。

……ごめんね。

こんなお姉ちゃんで。

きっと、私のこと待ってるよね。

まだかな、まだかなって後ろを確認しているかもしれない。

私もそうだったからわかる。

確か国語って言ってたっけ。

なんにも関係ない京平さんにもいうくらいだから、楽しみにしていたに違いない。

私が来ないってわかったらどんな顔するかしら。

どんな思いをするかしら。

あの子の事だから、きっと顔にも態度に出さないかもしれない。

でも……本心はきっと……。

私はベンチから立ち上がる。

あの子にそんな思いはさせない。

そんなの関係ない。

どう考えたって間に合いっこない。

そんなに関係ない。

寂しい思いだとか、惨めな思いだとか。

大樹がどう思うとかそんな話じゃない。

私が行きたいから行くんだ!

私はおもいっきり両手で両頬をはたいた。

そして諦めていた私と決別した。

……長いつきあいだったけれど……ごめんね?

これからは私の為に生きる。

私は小学校へ向けて走り出した。

ベンチに置き忘れられたカバンはチャックの開いたままだった。


苦しい。

肺が痛い。

太ももとふくらはぎが悲鳴をあげている。

もう一時間はぶっ続けで走っている。

普段運動をまったくしない私には地獄のような時間だ。

もうとっくに授業参観は始まっている。

あと30分以内につかないと授業が終わってしまう。

でも今ようやく半分くらいだろうか。

息をするのが苦しい。

ああ!もう!スカートも靴も走りづらくて仕方がない。

ようやく、一つ目の駅が見えてきた。

駅前で立っているサラリーマンらしき人に私は声を掛けた。

でも息が切れて、声が出せない為、サラリーマンのスーツの裾を掴み息を整える。

「大丈夫?君。」

「はあ!はあ!はあ!あの!電車は!遅延は!」

サラリーマンはスマホを取り出し答える。

「ああ、まだだよ。たぶんもうすぐだとおもうんだけどね」

私の少ない希望が一つ潰えた。

でもまだ0じゃない。

私はタクシー乗り場を見渡した。

そこには一台だけタクシーが止まっていた。

もうすぐ電車が動き出しそうとのことでタクシーを待っている人もいない。

車ならギリギリ間に合う。

私はタクシーに駆け寄り、すぐに乗り込んだ。

「あの!すいません!小学校までお願いします!」

よかった!

これで間に合う!

「どこの小学校?」

タクシーの運転手が私に問う。

その質問に私は答えられなかった。

「お客さん?」

……カバンがない。

……財布が……。

「すいません……。やっぱり良いです。ごめんなさい……。」

私はタクシーを降りた。

私と入れ違いでタクシーに他のお客さんが乗り込むと、タクシーは走り去ってしまった。

「……はは。」

小さく笑ってしまう。

「……ホント馬鹿だなあ私。なにやってもだめ。なんでこんなにも普通のことができないんだろう。ダメだなあ……。……全然だめ……。ごめん……。……ごめん。何もできない……お姉ちゃんで……。ごめ」

その時。

私に向けられたであろうクラクションの音が聞こえた。

音がした方向に目を向けると一台のミニバンが止まっていた。

ミニバンがノロノロと前進を始めてゆっくりと私の前に止まった。

「やっぱり、安原さんだ。」

運転席に座っていたのはよっしーのお兄さんだった。

「なんで……どうして……。」

私は目の前の希望が信じられなくて首を横に振った。

動揺しすぎて、まともに京平さんの顔が見られない。

京平さんはスマホを私に向ける。

「持つべきものは友ってね。」

スマホの画面にはライン通知が表示されていた。

それはよっしーから京平さんへ当てたものだった。

『お願い!電車止まったみたいなの!ハラッチ迎えに行って!』

「お客さん、どこまで?」


小学校の静かな玄関に靴をテキトーに脱ぐ。

裸足のまま廊下を走る。

静かな廊下に私の足音と息遣いだけが鳴り響く。

私はやっと辿りついた1年1組の教室を乱暴に開いた。


そこに広がる教室の風景はとても静かな光景だった。

その光景は。

その情景は。

親御さんたちの立ち並ぶ、授業中の風景そのままであった。

授業終了5分前。

みんなが私に振り向く。

そして大樹も後ろを振り向いた。

いつもの無表情のその顔には不安と安堵の感情が入り混じっていた。

私は息を整える。

「大樹くんのお姉さん?大樹くんは廊下を走ったことはありませんよ。」

教室に静かな笑いが起きる。

「……すいません。」

「じゃあ。せっかく大樹くんのお姉さんが来てくれたことだし、最後は大樹くんの作文で終わりにしましょうか。大樹くん?」

教室はまた静寂につつまれる。

大樹は無言で椅子を引くとその場に立ちあがった。

そして原稿用紙を手に持ち、作文を読み始めた。


『ぼくのおねえちゃん』

ぼくが赤ちゃんだったころから、ぼくにはお父さんがいませんでした。

だからお母さんがお父さんのぶんまで、はたらいてくれます。

おねえちゃんはお父さんのようにぼくのあそび相手になってくれます。

おねえちゃんはお母さんのようにぼくのごはんをつくってくれます。

だからいつもいそがしいおねえちゃん。

おねえちゃんのつくるお弁当は冷凍食品だらけ。

でもぼくが最初に食べるのは玉子やきです。

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