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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第3章 安原の参観日。
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まっしろ。

けたたましく電子音を鳴らす古いガラケーを手探りで探す。

手に何かがぶつかり、アラーム音に若干の変化が見られた。

どうやら今、私の手に当たったのが目的のガラケーらしい。

私はそのガラケーらしきものを左手でしっかりと掴むと、アラーム停止ボタンを押した。

時間は5時半。

ぜんぜん寝足りない。

あくびが出る。

でも起きなくてはならない。

いや……もう10分だけ、目をつむろう。

私はもう一度目を瞑った。


ふと目を覚ます。

何があったわけではない。

なんとなく目を覚ましたのだ。

ガラケーで時間を確認すると時刻は6時半を回っていた。

このガラケーは母がかなり昔に使っていたものらしい。

物持ちがいいにも程がある。

布団から抜け出し大きく伸びをすると、隣で眠りこけている弟に視線を落とす。

「大樹、朝よ?起きなさい。」

大樹の身体を軽くゆすると迷惑そうに目を覚ます。

昨日はあんなことがあって、寝足りないのは私も同じである。

「おはよ。大樹」

「おはよ。」

私たちはリビングに向かった。


キッチンにてボールのなかに卵を割りいれる。

私と大樹の二人分で卵は3つだ。

砂糖をたっぷり、ダシをちょっぴり入れる。

黄身を少しだけ割り、白身と軽く混ざる程度にかき混ぜる。

フライパンに油をしみこませたキッチンペーパーで全体に広げていく。

手早く、二つのお弁当にお米を詰める。

「大樹。トースターでパン焼いて。」

「ハムとチーズ入れてもいい?」

「私のはからしマヨネーズでお願い。」

「太るよ。」

私は無言で大樹の横っ腹を軽く蹴った。

フライパンの上に手をかざし、温まったのを確認したら火を弱める。

十分に熱せられたフライパンに玉子を流し込む。

その途端、激しい雨が降っている時のような音がキッチンに響く。

フライパンを軽く回し、卵を広げたあと、冷蔵庫から冷凍食品のハンバーグとグラタンを取り出す。

手早く玉子を巻いていき、キッチンペーパーで油を塗ったところに再度玉子を少量流し込む。

さっき取り出した冷凍食品をお弁当箱に詰めたら、もう一度玉子を巻き、溶き卵を全て流し込む。

「お味噌汁お願い。」

「なに?」

「シジミのやつ。」

「ぼくもそれにしよっと」

大樹はケトルにお水を入れてスイッチを入れた。

玉子をもう一度巻き、小さな玉子焼きの完成である。

ふと、隣をみると大樹と目があう。

「なによ。」

「別に。」

そういう大樹の顔は少しご機嫌に見えた。


チャイムが4時間目の授業の終わりと昼休みの始まりを告げる。

そして私の本日の授業の終わりを告げたのだった。

今日は大樹の授業参観の為、私は午前で学校を切り上げるのだ。

「いいなー。ハラッチ。」

よっしーが私を恨めしそうに見つめる。

「よっしーはもう少し真面目に授業受けな。今日もずっとスマホいじってたし」

「そうだよ。よっしーは本当にそろそろ本気出さないと大学とか絶望的だよ。」

そういうミツキだって今日も授業中寝まくりだった。

病み上がりで本調子じゃないのか、昨日の件でまだ寝不足なのか。

「むしろハラッチはよく来たわよ。大樹くんの小学校だって遠いんだから今日は休んでもよかったのに。」

早枝ちゃんが私に信じられないとでも言いたげな視線を送る。

「たった2駅先だから電車乗ればそんな遠くないわ。」

「ホント真面目ねぇ」

「ハラッチは真面目よ?廊下だって走ったことないんだから。」

ミツキのその発言は褒めているのかしら。

私はカバンを肩に掛ける。

「じゃあそろそろ行かないと。」

「また来週ね。」

「ばいばい。気をつけてね。」

「ウチも連れてけー。」

本当に居心地の良い空間で、いつまでも長居してしまいそうになる。

友達に見送られて、私は教室を後にした。


私は駅に向かって歩みを進める。

駅まで歩いて10分程でつく。

そこから2駅分、15分も電車に揺られればもう大樹の小学校は目の前である。

……ちょっと早く着きすぎるかもしれない。

授業参観は13時30分から。

今の時刻は12時30分。

まだ一時間もある。

でも私の性格上、早く着いていない落ち着かないのだ。

あくびが出る。

やっぱり夜更かしはするものじゃない。

今日は眠くて眠くて仕方がなかった。

当然である。

いつも22時には寝ないと満足できない私が昨日は1時過ぎまで起きていたのだから。

でも、昨日はきっと私にとって大事な一日だったのだ。

たくさんの事に気づけたから。

必死に生きてきて。

必死にお父さんになろうとして。

必死にお母さんになろうとして。

見失ってたものがこんなにたくさんあったなんて。

私、大樹を見失ってた。

私も見失ってた。

子どもの私を受け入れられなかった。

大人でいなくちゃいけないと思ってたんだ。

大樹を育てることに夢中になりすぎて。

使命感と責任感を強く持ちすぎていた。

……大樹のライダーが好きで、エンディングソングは小さい頃からよく踊っていた。

重そうな頭を動かし、一生懸命に手を動かして踊る姿に私は釘づけだった。

大樹がアイドルならば私は間違いなくファン一号だろう。

運動会で転んでケガをしても、泣かない子だった。

でも消毒する時、傷口は絶対に見ない子だった。

好き嫌いが少なくて、私の作るご飯をいつもおいしいといって食べてくれていた。

でもピーマンにソースをたくさんかけて味をごまかしていたのを私は知っている。

子育てに必死になりすぎて、こんなにも忘れてしまっていた。

使命感だけじゃない。

責任感だけじゃない。

私は弟を、大樹を……。


大樹を心から愛している。

『……の為、現在、運転を見合わせております。皆様には誠にご迷惑をおかけして……』

私の頭は真っ白になり、アナウンスが何を言っているのかわからなかった。


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