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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第3章 安原の参観日。
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役割。

沈黙が車内を包む。

京平さんは私を責めることも、慰めることもせず、ただ車をお父さんのお墓に向かって走らせる。

だれも私を責めない。

これだけのことをして、これだけの人を巻き込んで。

誰も私に罰を与えてくれない。

京平さんは小学生の時からよっしーを育て、高校からはたった一人でよっしーの面倒を見た。

家事も育児も仕事も全てこなしてきた彼からはさぞ私が愚かに映っているに違いない。

私を……怒ってほしい。

私を正してほしい。

お前は間違えたんだ。

まだまだ子どもだなって言ってほしい。

あなたから……。

「大樹を……初めて叩きました。」

私の告白が始まった。

「あの子は何も悪くないのに。あの子は本当に今までよく頑張ってきたんです。良い子で居続けていたんです。今回私のスマホを壊したのだって、私を気遣ってのことだってわかってた上で私は感情的になったんです。」

京平さんはまだ何も答えない。

「お父さんが亡くなったとき大樹はまだ3つでした。悪魔の3歳っていうじゃないですか。すごいわがままでそりゃもう両親独り占めって感じで。」

京平さん……。

「お父さんが突然逝っちゃったあの日から、生活は一変しました。母は仕事を始め、家事と育児を私が。もともと何もやってこなかったから本当に大変でした。」

京平さん……。

「大樹はいいなって思ってたんです。変わる生活がないんですから。3歳児に役割も何もないじゃないですか。毎日、遊んで、寝て、好き嫌いして。そうやって一日が終わっていくんですから。」

責めてよ……。

「でも大樹……。4歳になる前ですか。自分で絵本を読み始めたんです。ひらがなも何も教えてないのに。一生懸命、声に出して読んでたんです。だから読み書きを教えてみたらそれがまた真剣で。みるみるうちに覚えて行きました。そしてお勉強に夢中になるにつれて、わがままは減っていきました。」

怒ってよ……。

「5歳になる前にはもう算数も初めて、どこで覚えてきたのか……。お受験したいって私に言ったんです。そんな人生が、そんな選択肢があるなんて教えたことなかったのに。私と母は相談して、受験させてみることにしました。そしたら本当に大樹受かっちゃうし……。」

何かいってよ……。

「思えば、お父さんが亡くなったあの日から、大樹は子どもじゃなかった。子どものままでいさせてあげられなかった。それは私の役割だったのに。今日やっと見せてくれた大樹の本心を私はひっぱたいたんです。」

京平さんが何も言わないから……全部言い終えてしまった。

すると京平さんが口を開く。

「旅行の時、最初のサービスエリアで大樹くんが何に怒っていたかわかるか?」

……あの時?

「本当は旅行に来たくなかったんだと思います。みんな知らない人ばかりだし、私とどこかに遊びにいきたかったのかと。」

京平さんはその答えを言わずに続ける。

「僕も安原さんと考え方は似てると思う。人間誰しも自由には生きられないんだよね。みんな一見自由に見えるけれどみんな役割にそって生きている。」

お寺が近づいてくる。

お父さんのお墓がもうすぐ。

「安原さんの役割ってなんだと思う?」

「私はお母さんの代わりで、お父さんの代わりも……。」

「ちがう。」

お寺の中に車が入っていく。

周りは一面お墓だらけ。

車はかなり低速で進む。

「君の役割は大樹くんの世話をすることでも、養うことでもない。大樹くんの希望になることなんだ。」

「希望?」

「そう。楽しく過ごす。やりたいことをやる。なりたいものになる。そういう君の姿を見て大樹くんは将来の夢ができていくんだ。こんな大人になりたいって。」

お父さんのお墓が見えてきた。

「君が勝手に大人の役割をかぶって大人になってしまったら、大樹くんも子どものままじゃいられないだろ?しかもその姿が忍耐と辛抱だけの姿ならなおさらだ。」

車がお父さんのお墓の前で止まる。

「すごく頑張った君の失敗はたったひとつ。大樹くんをおいて勝手に大人になってしまったことだ。」

運転席の京平さん越しにお父さんのお墓が見える。

「君の役割は『お姉ちゃん』なんだよ。」

そこにはお墓の前に座り込む、パジャマ姿の大樹の姿があった。

「大樹ぃ!」

私は車を飛び出した。

私の声に反応して大樹は立ち上がる。

大樹の目を泳いで逃げ道を探しいている。

1歩、2歩と足を引く大樹。

逃がさない。

こんなに心配させて。

私は大樹に駆け寄り。

私は小さな小さな私の弟を抱きしめた。

「……お姉ちゃん。」

大樹が私の腕の中にいる。

大樹の心臓の音を感じる。

大樹の呼吸が伝わる。

大樹の柔らかい髪の毛を右手で確かめる。

よかったとか、安心したとか、そんなのじゃない。

鼻をすする。

「……お姉ちゃん?」

耳元で大樹の声が聞こえる。

嗚咽が漏れる。

もう堪え……きれない。

「……うああああああああああああああああああああああああああああ!!」

私は大声で泣いた。

それはもうおもいっきり。

鼻水を垂らしながら。

子どもみたいに泣いた。

最後に泣いたのはいつぶりだろうか。

……ああ、お父さんの時以来か。

大樹は無言で私を抱き返す。

そして私の胸に顔をうずめると、嗚咽が聞こえ始める。

「……う……うう……うああああああああああああああああああああああ!!」

大樹も大声で泣き始めた。

そりゃあもう、おもいっきり。

「……ごめん。ボク!ごめんなざい!お姉ちゃんごめん!」

大樹は私に謝罪を繰り返す。

「ううん!違うの!ごめん!ごめんなさい!今まで一人にして……ごめん!」

「寂しかった。でもお母さんもお姉ちゃんもボクのためで……!わかってるから!ボクに何ができるかなって……思っで……!お勉強頑張れば喜んでくれて……。嬉しくて……!でも!でも!お勉強すればするほどお母さんの仕事が増えて、お姉ちゃんの起きる時間が早くなって……!ボク……わからなくなって……!」

「……ごめん。……ごめん。」

私は、可愛い弟とずっと抱き合いながら声をあげて泣き続けた。

これが初めての姉弟喧嘩だったから。

仲直りの仕方なんてわからなかった。

仲直りなんてしなくてもいいかな。

私はこれでいいから。

これがいいから。

……ね?いいでしょ?お父さん?


「もしもし?はい。大樹くん、見つかりました。」

京平さんがどこかへ電話を掛けていた。



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