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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第3章 安原の参観日。
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待つ。

ハラッチもよっしーと同じくアパート暮らしだった。

俺たちはハラッチの部屋のインターホンを押す。

誰かが玄関に駆け寄るような足音が聞こえた後、目の前の扉が開いた。

そこには期待の高まった表情で出迎える泉野の姿があった。

俺たちの顔を順に確認していき、ここに大樹くんがいないことを察すると一転して表情が曇った。

「ハラッチは?」

泉野の質問に松本が答える。

「京平さんと一緒にもう一か所探しに行った」

「どこ?」

今度は俺が答える。

「お父さんの……お墓。」

「そう……。」

泉野は伏せ目がちで頷いた。

「警察にも相談したし。あとは大樹くんが無事見つかることを祈ろうぜ」

暗く沈んでいく雰囲気を松本が励ます。

「ほらほらみんな、玄関で立ってないで上がって上がって!」

松本がみんなを促すとすかさずよっしーが突っ込む。

「あんたの家じゃないでしょうが。」

よっしーと松本が靴を脱ぎ、リビングへ入っていく。

「良太。」

俺も玄関に入ろうとした時だった。

俺はミツキに呼びとめられた。

「どうした?ミツキ。」

「……昨日の事なんだけど……その……ありがとう。」

俺の返答を聞かずに、ミツキが先に玄関へと入って行った。

正直、昨日の今日だから、俺もミツキと若干の気まずさはある。

聞きたいことだってたくさんある。

昨日のお母さんのこと、薬のこと……。

でもそれは今日じゃない。

今じゃない。

今は大樹くんのことで、みんな頭がいっぱいだった。

俺も玄関に入り、扉を閉めた。


水浸しの廊下、電気がつけっぱなしになっているお風呂場、その全てがたった一時間ちょっと前に起きた喧嘩の壮絶さを物語っている。

泉野が脱衣所をタオルで拭いている。

「これでも結構片付いたほうなのよ?ほらあんたらも手伝いなさい。」

泉野は俺と松本、そしてよっしーに雑巾を手渡した。

「自分はタオルで、俺たちには雑巾ですかー?泉野さーん」

松本が不満を漏らす。

「他人んちのタオルたくさん使うわけにもいかないでしょ。それ、店の今日は使ってないやつだから。」

松本はしぶしぶ雑巾で床を拭き始めた。

俺と松本は知っている。

泉野が床を拭いているあのタオルは、泉野の私物だということを。

泉野がそこまでしているのだから、俺も文句はいうまい。

俺も床を拭き始めた。

「ミツキも手伝う。」

そう言いながら駆け寄ってきたミツキをよっしーが制止する。

「あんたは病み上がりなんだから、ソファーで横になってなさい。」

ミツキは不服そうな顔つきでリビングに引っ込んでいった。


四人でやるとさすがにすぐに終わった。

よく絞った3人の雑巾は泉野が回収する。

「みんなお疲れ!じゃあリビングで大樹くんを待ちましょ。」

そう言ってリビングに入ると、ミツキがソファーに腰掛けながら何かを見つめていた。

その顔は少し寂しげに見える。

「ミツキ?それは?」

ミツキは俺達に気づくと何も言わずにそれを手渡した。

「……写真?」

それはこの間の旅行の写真だった。

「なに?ハラッチ現像してたの?マメねホント。」

「ちょっと見せてもらおうぜ。」

カメラを持ってきていたのは知っていたけれど、たった二日とは思えない量の写真だ。

いつの間にこんなに撮っていたのか。

これは見ごたえがありそうだ。

俺たちは座ることも忘れ、写真に夢中になった。

「さすがのミニバンも8人も乗ればギュウギュウだったわよね。」

「これ、サービスエリアで松本が自販機アイスの包装を剥いで、アイスをごみ箱に入れたとこよね」

「あんな一瞬の出来事どうやって撮ったんだよ。」

「プールの写真もあるわ。」

よっしーが赤面しだす。

「これはダメ、見ないでおきましょう。」

「えー。俺持って帰りたかったのに。」

「松本、持ってって何する気よ。」

「泉野は俺が何すると思ったんだ?教えてくれよ。なあ」

食いぎみに切り返す松本の顔に再び裏拳が決まる。

松本は静かに崩れた。

「ここのバイキング最高だったわよね。」

「ホント何食べてもおいしかったわ。」

「これ……松本がドリンクバーで混ぜまくったやつだ。」

「いるわよねー。こういうことする奴。」

そして俺達は一枚の写真で黙りこむ。

それはライダーのぬいぐるみを抱いて眠る大樹くんの写真だった。

「……ごめんなさい。」

泉野は堪らず、リビングから出ていく。

みんな口にはしないけれど大樹くんが心配で仕方がないのだ。

そして、ハラッチの気持ちを考えると泉野じゃなくてもこみ上げるものがある。

たくさんある写真はどれも風景を切り取ったような自然な写真ばかりで、素人目にみてもどれもいい写真だった。

俺達がカメラに気づいていなかったからこそ、自然体の俺達がそこにいた。

ここまでくるとこれはもはや思い出の写真ではない。

これはハラッチの見ている世界だ。

写真を持つよっしーの手が震える。

「……なによこれ。」

ミツキは依然として暗い顔をしていた。

「……ないじゃない。」

これはハラッチの為の写真じゃない。

「ハラッチが一枚も映ってないじゃない!」

これだけの枚数がありながら、ハラッチが見きれている写真すら一枚もなかった。

それをわざわざ現像までして。

アルバムまで用意して。


ハラッチは自分が幸せになるつもりはない。

みんなの幸せのお手伝いをできるだけで幸せで。

願わくばその楽しそうな姿を写真に収めさせて。

ハラッチのそんな思いが彼女の役割だった。


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