探してください。
私は慌てて外に飛び出す。
そこにはもう大樹の姿はなかった。
「大樹!どこ?!大樹!」
どんなに叫んでも返事がない。
とにかく、母に連絡しないと!
スマホを取り出してみるが、今しがた壊れたばかりだった。
……自分で何とかするしかない。
私は大樹の名前を叫びながら走り始めた。
「次風邪ひいたら今度はパフェね」
「俺はラーメンね」
「もう休めねぇ……」
「当たり前でしょ?あんたの穴埋めのためにあたしと松本は二日連続22時までだったんだから。アイスなら安いもんよ」
コンビニから今井くんと松本くんと早枝ちゃんが出てくる。
「大樹ー!大樹ー!」
「あれハラッチじゃない?」
「え?ホントだ。」
「おーい。ハラッチー。」
私を呼ぶ声がする。
振り向くと三人が駆け寄ってきた。
息が切れてうまく話せない。
「どうしたの?ハラッチ。うわ!ずぶ濡れじゃん!」
松本くんが私の姿に驚く。
松本くんは自分の制服のブレザーを私にかけてくれた。
「ハラッチ?大丈夫?」
「なにがあったの?」
みんなが私を心配してくれる。
いつもなら、頼らない。
家族のことで巻き込んではいけない。
私がしっかりしないと。
そう思っていたところだった。
でも今は、よかったと思ってしまう。
助けてほしいと願ってしまう。
大樹が無事に見つかってくれさえすれば、どうだっていい。
「……大樹が家を飛びだしたの!どこにいるかわからなくて!」
私は堰を切ったように話し始めた。
「私が大樹をぶったの!そしたら!大樹飛び出して行っちゃって!どこにいったかわからないの!」
私はついさっきの最低な自分を思い返す。
「私が悪いの!私が大樹を!大樹を!」
早枝ちゃんに抱きしめられて、私はようやく止まった。
「大丈夫、もう大丈夫だよ。大変だったね。」
早枝ちゃんが抱きしめた私の頭を撫でる。
「もう大丈夫。私たちにも手伝わせて?必ず大樹くんを見つけるから。」
「俺たち手伝うよ。」
どこかに電話していた松本くんが戻ってくる。
「よっしーも手伝うって。京平さんもくるって言ってたから車もあるぜ。」
その時、今井くんのスマホも通知音が鳴る。
ちょっとごめん、と今井くんがスマホを確認すると私に笑いかける。
「ミツキも来てくれるって。」
よっしーから連絡をもらったらしい。
「みんなで探そう。そしたら絶対見つかるから。」
早枝ちゃんの胸の中で、次第に落ち着きを取り戻してきた。
すると、大樹が行きそうなところがいくつか頭をよぎる。
「……心あたりは他にないの?」
「いくつか……ある。」
そう口にしたのはいつも通りの私だった。
「お母さんの職場、みどり公園、大樹の通ってた幼稚園……」
あとは……。
そこまで聞くと松本くんはみんなに指示を出す。
「じゃあハラッチはお母さんの職場へ、どの道相談しないといけない人だしな、良太はみどり公園を頼む。俺は幼稚園に行ってみる。泉野は大樹くんが帰ってくるかもしれないからハラッチの家に待機してくれ。」
私以外の全員が頷く。
でも私は首を横に振った。
「ごめんなさい。ダメなの、私……スマホ壊れちゃって……連絡できない。」
すると間髪入れずに今井くんが提案し直す。
「じゃあ、俺もハラッチと一緒にお母さんのところへ行くよ。公園の方はよっしーとミツキにお願いしよう。」
みどり公園はとても広い。
3人で探してちょうどいいくらいなのだ。
「……ありがとう。」
私は深く頭を下げる。
「……どうか弟を探してください。お願いします。……お願いします。」
私は願うように言葉を呟いた。
そして捜索が始まった。
「大樹が?!」
母の働いているスーパーに来てみたが、この反応を見るに大樹はここには来ていなかった。
「ごめんなさい……。私……。」
「いいえ。智香は悪くないわ。ごめんなさい。大切な時にいなくて。警察には?」
「さっきもう連絡はしました。特徴が知りたいとのことで署まで来てほしいとのことなんですが写真もなにも智香さんのスマホが壊れてしまっていて。」
今井くんが簡潔な説明をしてくれる。
「わかったわ。このままお母さんは警察にいくわ。今井くんだっけ?ありがとう。でもあとは私たちと警察にまかせて家に帰りなさい。」
今井くんは首を振る。
「いいえ、探すを手伝わせてください。」
「すごくありがたいのだけれどね?私たちが大樹を心配しているように、君の親御さんもきっと心配しているの。だから、ね?」
黙りこむ今井くんを見て、母は私に告げる。
「いい友達じゃない。」
「……もっといっぱいいるのよ?」
「そうなの?じゃあみんなにいつかお礼しなきゃね」
母はスーパーのエプロンを外した。
「悪いけれど今井くん……だっけ?智香を家まで送ってもらえるかしら。」
今井くんは少し間をおいて母の依頼を承諾した。
時刻はもう23時30分を回っている。
大樹がいなくなってもうすぐ一時間になる。
次第に再び焦りがこみ上げ始める。
家への帰り道。
私は今井くんに声をかける。
「今井くん、ごめん。私もう一つ探したいところがあるの。だから、先に帰ってもらってもいい?」
「じゃあ俺も」
私は首を振る。
「大丈夫、ここから少し遠いし。もう遅いから、家に帰ってあげて?」
「でも!」
今井くんが何かを言いかけた時、私たちに車のヘッドライトが当たる。
それは見覚えのある、大きなミニバンだった。
「お?今井くん。もう浮気か?」
今井くんに声をかけたのは京平さんだった。
「良太、ミツキは別に気にしないけど、付き合ってるわけじゃないし。」
ミツキが助手席から顔をだす。
「ハラッチまじパジャマじゃん!」
よっしーが私の姿を見て驚いている。
「な?意外とヒラヒラで可愛いパジャマだろ?」
松本くんの指摘で自分の格好が今更恥ずかしくなる。
「聞いて。もう一つ行きたいところがあるんだ。大樹くんの行きそうなところで……。」
「だめだ。」
今井くんが最後まで言い終える前に京平さんが言葉を遮る。
「もう遅い。お前らは役割を十分全うしたよ。ここからは大人に任せな。」
「でも……。」
今井くんが食い下がる。
「お前らはな、まだ子どもなんだ!今のお前らは家を飛び出した大樹くんとなんら変わらないってことを忘れるな。」
京平さんは怒鳴るわけでもないのに言葉の重みがあり、だれも言い返せなかった。
「せめて……。」
それでも今井くんが口を開いた。
「せめて、待たせてください。大樹くんの帰りを。」
京平さんは困ったように頭をかく。
「……安原さんの家、今上がれる?」
私は静かに頷いた。
私の家の前で、私以外の全員が車から降りる。
「いいか?もう家に帰るのもダメだからな?僕が戻るか親御さんが迎えに来るか以外で家からでるんじゃないぞ?」
京平さんは再度念を押した。
みんなの返事を聞き遂げると私と京平さんだけを乗せた大きなミニバンがまた走りだした。
「それで?どこ?」
京平さんの質問に私は答える。
「……お父さんのところ。」




