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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第3章 安原の参観日。
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何ができるんだろう。

もうすぐ22時を過ぎる。

私はリビングで宿題を終わらせる

最近は受験勉強に力を入れているため、宿題は少なめだ。

すぐに終わってしまう。

マグカップに入れた紅茶を少しだけ口に入れる。

そして小さくため息をつくのだった。

受験しないにしても就職先を探さないと。

早く進路を決めて、就職活動の準備をしなくてはいけない。

夏休みが終われば就職活動が始まる。

なにがしたいんだろう……私。

「何ができるんだろう……私。」

私は首を横に振る。

弱気になってはだめだ。

何でもやるつもりでいなくては。

テーブルの上に広げたノートをカバンの中に押し込めていく。

さて、明日もお弁当づくりがあるし早めに寝よう。

使っていたマグカップを洗い、リビングの電気を消した。


寝室に入ると大樹はもう眠っていた。

小学校1年生にとっては22時は未知の世界であろう。

無理もない。

寝付きもよく、夜更かしのしない子どもだったから、私は寝かしつけで苦労した覚えがほとんどない。

こんな小さい子どもにとって良い子であり続けることがどれだけすごいことか。

私も布団に入る。

そしてスマホの画面をつけた。

「アラーム……アラーム……」

スマホのアラームなんて使ったことがなかった。

どうやって設定するのだろうか。

スマホは本当に多機能だが、きっと3割も機能を使いこなせていない。

「……あった。」

この画面で時刻を設定するのか。

昨日は確か5時で丁度よかったはずだ。

私はスマホのアラーム設定画面の時刻を5時に設定する。

完了を押した途端、画面が前の画面に戻る。

え?

今ので終わり?

簡単すぎて怖い。

本当にアラームがセット出来たのだろうか。

もう一度試みてみるが結果は同じだった。

ホーム画面に戻ると、左上の時刻の下にベルマークと5時の表示が出ていた。

どうやら本当にセット出来ているようだ。

自分のスマホを信じるとしよう。

私はスマホを布団の上に置き、目を閉じた。

……大丈夫?

……本当にアラームなる?

……明日も寝坊しない?

私は目を開く。

やばい。

めちゃくちゃ不安で眠るのが怖い。

いっそのこと母に起こしてもらうように書き置きをするべきか。

私はスマホをもう一度開く。

アラームの音量を確認しよう。

私はアラーム設定画面のアラーム音量をテストしてみた。

とりあえず、22時でセットしてみよう。

少しだけ時間が経ち、スマホの時計が22時に切り替わる。

その途端、不安になるような警報のような音がかなりの音量で鳴り始める。

私は焦ってスマホの主電源をすぐに押す。

すると画面がOFFになったばかりで音は消えない。

やばいやばい。

早く音を消さないと、近所迷惑になる。

何より大樹が起きちゃう。

私はスマホのロック画面のパターンを入力する。

焦りのあまり間違えてしまう。

『30秒お待ちください。』

お待ちできません!

私はスマホを布団に押しつけて30秒を耐える。

やばい!

想像以上に不快な音だ。

永遠にも感じた30秒を乗り越え、私はロック画面でパターンを入力し直す。

やっとの思いでアラーム画面に到達するが、止め方がわからない。

停止のボタンがない。

何?

どうすればコイツは止まるの?

私は画面下にスワイプがあるのに今更気付いた。

まさか通話方式か、これ。

私は急いで停止と表示されたところをスワイプする。

するとアラーム音は即座に停止した。

……止まった。

私は両腕を広げて、布団の上で大の字になる。

右隣りで眠る大樹に視線を移す。

大丈夫、起きてはいないみたいだ。

この音量なら安心して眠れそうだ。

私はスマホの画面をもう一度見る。

人差し指が、自然とアルバムを開く。

そして、またあの写真に行きつくのだ。

それは京平さんが眠っている写真。

彼の寝顔を見ていると、明日の不安とか、今日の後悔が不思議と和らいでいく。

そして、安心して眠れるのだ。

……まるで。

私はスマホを開いたまま眠ってしまった。


遠くで物音が響く。

それは決して大きな音ではない。

だけれど、やけに響く音。

……お風呂?

母が帰ってきたのかもしれない。

母の帰宅はいつも0時過ぎだ。

眠りが深い私が目が覚めるのは珍しいことだ。

何時だろうか。

私はスマホを探す。

あれ?見つからない。

確か、写真を見ながら眠りについたはず。

スマホを探しているうちにあることに私は気づく。

「……大樹?」

そこには大樹の姿がなかった。


音のする方角はやはりお風呂場だった。

電気もついていない風呂場で小さな人影が動く。

私がお風呂場の電気をつけると、そこには焦りの顔を見せる大樹がたっていた。

私の登場を予想していなかったようだ。

「大樹?一体なにを……。」

湯船が開かれている。

そこには私のスマホが沈んでいたのである。

「……?!ちょっと!なにしてんのよ!」

私はパジャマを腕まくりもせずに湯船に腕を突っ込んだ。

スマホを取り出し、電源をつけると画面が付いた。

私は安堵のため息をつく。

画面には22時15分の表示が私に知らせると、静かに画面が消えた。

どこを触っても、二度と画面がつくことはなかった。

「うそっ。うそっ。」

どんな操作をしようともスマホが私に応えることはなかった。

スマホが壊れてしまった。

写真もみんな、もう見ることができない。

あの人の写真も……もう……。

涙が出そうになるのを必死に堪える。

「姉ちゃん……。ごめん……。」

大樹の謝罪が耳に届いた時、反射的に右手を振り上げてしまう。

……いけない。

これはしつけじゃない。

怒りをぶつけるだけだ。

まず……なんでこんなことをしたのか聞かなくては。

私は振り上げた右手を静かに下ろした。

「どうして?こんなことしたの?」

大樹はなにも答えない。

「……答えなさい!」

私の声が浴室に響く。

私は大樹の肩を両手で強く掴んだ。

「なんでこんなことしたのよ!なんでよ!なんで……。」

「姉ちゃんが……」

大樹が声を振り絞って答える。

「姉ちゃんに……朝……ゆっくり寝てほしくて……。」

私……?

「姉ちゃんが……ボクのお弁当の為に早起きするのが……嫌で……。もっと…。お弁当さえなければ……。もっとゆっくり……出来るのに。姉ちゃんも……お母さんも……みんなばっかり……辛くて」

大樹が告白するにつれて、ぼろぼろと泣き始めた。

「大樹……。」

大樹は私の為を思ってこんなことを……。

私は手元のもう壊れてしまったスマホを見つめる。

「だから、昨日時計も……僕が……。」

……え?

「なんて?」

よく聞こえなかった。

「大樹?今なんて言ったの?」

「昨日の時計も僕が……。」

「大樹が壊したの?」

大樹は少し沈黙し、小さく頷いた。

私は大樹の頬を思いっきりひっぱたいた。

大樹の涙が止まり、何が起こったのかわからない顔をしている。

私は大樹に掴みかかる。

「あんたが壊したの?!あの時計を?!なんで?!なんでよ!返してよ!お父さんの時計なのよ!返してよ!お父さんの時計返しなさいよ!」

私は怒りの感情をそのまま大樹にぶつけた。

「うわああああああああああああああ!」

私に掴まれた大樹は私の顔に湯船のお湯をかけ、そして私は突き飛ばした。

尻もちをつく私に、洗面器で掬ったお湯をまた私の顔にかける。

「姉ちゃんなんて!大っきらいだ!」

私はその言葉が素直にショックだった。

大樹が私の横を走り抜けていった。

……やってしまった。

……私は間違えた。

……私は子どもだった。

感情をぶつけるべきじゃないなんて知ってたのに。

わかってたのに。

玄関が閉まる音が聞こえる。

私はその音にひどい焦りを覚えた。

こんな遅くに大樹が外に出て行ってしまった。

私は叫んだ。

「大樹?!大樹!!」

私はびしょ濡れのパジャマのまま大樹を追いかけた。

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