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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第3章 安原の参観日。
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お母さんと呼ばないで。

ありえない。

保健室が静寂に包まれる。

この女本当にありえない。

「昨日、この子がずぶ濡れで帰ってきたわ?あんな雨の中。かわいそうに。傘を持っていなかったのよ。」

良太は謝罪した。

「昨日、僕のお見舞いに来てくれた彼女を、雨の中返したのは僕です。」

ぶたれた頬をかばいもせずに、真っすぐに彼女の目をみて言い放った。

そして、深く頭を下げた。

「本当に申し訳ありませんでした。」

「謝って済む話じゃないわ。あなたの常識を疑うわ。お見舞いをしにきてくれた女の子を雨の中に放り出すなんて。」

良太は頭を上げない。

「親御さんは?その時ご在宅じゃなかったの?」

「はい。」

良太は頭を上げない。

「そ。じゃあこれ以上あなたと話すことは何もないわ。美月。帰るわよ。」

母の服の裾をミツキは掴んだ。

「……お母さん。お願い。良太に謝って。」

「なにを……。」

「……お願い……。」

これ以上カッコ悪い姿を美月に見せないで。

美月に残さないで。

母は短くため息をつく。

「いいから。行くわよ美月。」

「謝って!」

ミツキの叫び声に母は驚きの顔を見せる。

「あなた。またなの?また薬ちゃんと飲んでないの?」

母の言葉があまりにショックで情けなくて、涙が流れた。

「飲んでる。ちゃんと飲んでるから。」

「美月はそんな口きかないのよ!」

親の言葉には呪いのような重みがある。

きっと大多数にはなんの効果もない呪い。

でも美月を縛ってきたこの呪いは。

いじめもなんとも思わなかったミツキをも縛っている。

当たり前だ。

他人じゃないんだから。

「……あ……。」

母はミツキの顔を掴む。

「今朝は?今朝はちゃんと飲んだの?」

「今朝は、市販の風邪薬飲んじゃったから。」

「……だから?」

「……飲んでない。」

母はミツキの顔を強引に持ち上げ、目の前に母の顔を近付く。

「嘘よ。嘘。あなたは嘘ばっかり。美月から出て行きたくないだけでしょ?あんたの意見なんてきいてないんだから。さっさと飲みなさいよ。今ももってるんでしょ?今は風邪薬もなにも飲んでないわよね?ね?じゃあ飲まない理由はないわよね?」

「え?」

この後病院行きたかったのに、いけなくなるじゃん。

「今はちょっと……。」

「あんたの意見は聞いてないのよ!」

母は乱暴にミツキの鞄を漁ると中から未開封の錠剤を取り出す。

錠剤を手に持ち、口に無理やり押し込もうとする。

「飲みなさい!」

「あの、病院行きたい。」

「飲みなさい!」

「具合が悪いの。」

「美月を返しなさい!」

突然、母の圧力が止まった。

母の腕を掴んでいたのは、他でもない良太だった。

「……ミツキ、先に病院にいきたいんだってさ。」

「連れていくわよ!飲んだ後にね!」

「……でも、病院で先生に相談してからでもいいんじゃないですか?」

大人の母を、子どもを諭すように静かに言葉を選ぶ良太。

「こいつはね!ごまかしたいだけなのよ!」

「……薬。ちゃんと減ってます。」

「……え?」

どうして薬のこと、良太が知ってるの?

「お母さんに連絡するときに、カバンの中を見させてもらって……。」

ちらっとミツキの方を見る良太。

今のはミツキに言ったみたいだった。

「最近処方された薬ですよね?それ。ちゃんと日数分減ってますよ。」

良太は母の腕を離した。

「だから、今日は病院の先生と相談してから決めてもいいと思うんです。」

母の拳は堅く握られたまま震えていた。

「……じゃない。」

母の声も震えていた。

「あなたには関係ないじゃない!何も知らないくせに!美月をこんなにしたくせに!」

どれだけ煽られても、良太は眉毛一つ動かさなかった。

「そうですね。……何も知らない僕の方がきっとミツキを理解できていますね。」

嫌味ではない。

これはきっと本心だ。

「……さい。うるさ!」

「お母さん!」

「お前がお母さんと呼ぶな!」

母がミツキの方を、確かにそう叫んで振り向いた。

母には今のミツキがどんなふうに映っただろうか。

前歯で錠剤を咥えて笑うミツキが。

ミツキはそのまま錠剤を飲み込んだ。

「心配かけてごめんね!ワタシが悪かったわ。病院、早く行きたい。」

無言でミツキの腕をつかんでベットから引きずり出した。

そして強く抱きしめた。

「……ごめんね?ごめんね。」

まるで小さな子どもを叱った後に慰めるようにミツキをなだめる。

彼女にはミツキを受け入れられないのだ。

……きっとその娘の美月も受け入れられてないのかもしれない。

母越しに良太と目が合う。

ミツキは手で帰るように指示した。

これ以上、こいつを見せたくない。

良太は少しためらったが、自分がいてもミツキに迷惑がかかるのを理解したのだろう。

静かに保健室を出ていった。

出ていく直前、ミツキに口パクで何かを伝えた。

それは五文字の言葉。

母を止めた良太はちょっとだけカッコよかったのに、それがあまりに可愛くて少し頬が緩んだ。

ミツキも口パクで返す。

「あ・り・が・と・う」

それを見届けると軽く手を振り帰って行った。

母がミツキの髪を撫でる。

さっきの良太、本当にかっこよかったな。

前もこんなことあったっけ。

ああ、これはミツキじゃなかったんだ。

美月が良太と初めて話したのも、確かここだったっけ。

美月は良太のこと、その時からずっと好きだったのかな。

それとも旅行の時?


ミツキはいつ好きになれるんだろう。

『……何も知らない僕の方がきっとミツキを理解できていますね。』

鼓動が少しだけ、強くうった。

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