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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第3章 安原の参観日。
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アメリカに行く。

「ミツキ大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。朝よりは平気なくらい。」

今井くんがミツキに心配の声をかける。

確かに今日のミツキ授業中眠る回数が尋常じゃなかった。

いつもは一時間目と5時間目だけちょこちょこ寝るくらいなのに。

今日は何回も寝ている。

本当は相当具合が悪いのだろう。

「体調悪いなら帰った方が……」

「本当に大丈夫だから。さっ。ご飯食べよ?」

そして昼食が始まった。

私とミツキと同様に男子もお弁当のようだ。

「お弁当やっぱり大きいね。」

ミツキの問いかけに松本くんが応じる。

「ああ、パンとかだと夕飯までもたなくてな。」

「バイト前にいっつもパン食ってんじゃん。どっちみちもってないし。」

早枝ちゃんがすかさず突っ込む。

「……バイト?」

よっしーが少しの反応を見せる。

「そういえば松本、早枝ちゃんのところでバイトしてるんだっけ。」

よっしーが松本くんに質問する。

「そっ、あたしんちのピザ屋でね。」

松本に答えてもらいたかったみたいなわかりやすい顔をするよっしー。

この二人の気持ちをあの日、温泉のお湯につかりながら聞いている私たち女子はたまったものではない。

今井くんは道連れにとんでもない爆弾を持ってきた。

「まあもうすぐ今月いっぱいで辞めるんだけどね。」

私とミツキは驚きを見せる。

「えっ?どうして?」

「ん~、ていうか学校もやめる的な?」

松本くんはお弁当を頬張りながら、ダイエットをやめるくらいのノリで答える。

これには私もミツキも衝撃を隠せない。

というかリアクションを見せるのは私たち二人だけで、他は知っていたかのような落ち着きぶりだ。

「な、なんで?」

「俺マジシャンになるのが夢ってのはクラスのみんなの知る所だと思うんだけど。俺、8月からマイクカーターの弟子になるんだ。」

ミツキ大声を上げる。

「マイクカーターってあのマイクカーター?!」

マイクカーターは世界で5本の指に入るほどのトップマジシャンだ。

知らないわけがない。

正直私も驚きが続きすぎてリアクションが追いつかない。

リアクションを見せない3人はやはり知っていたのだろう。

「……え?本当にそんな有名な人なの?」

間の抜けた素っ頓狂なコメントを口にしたのは早枝ちゃんだ。

「な?これが普通の感想だよ。」

松本くんがドヤ顔で早枝ちゃんを見下す。

「いやいや、逆に早枝ちゃんどうして知らないの?日本に来るたびにニュースになるじゃん。」

「あたし、芸能ニュースとかあんまり見ないのよね。」

もはや芸能とかいうレベルじゃないと思うんだけれど。

「まっそういうことでみんなとも一学期いっぱいでお別れだ。短いつきあいだったけどいろいろありがとな。」

「気が早い。」

早枝ちゃんは松本くんの頭をひっぱたく。

「よっしーも反応薄いよね。よっしーもマイクカーター知らない口?」

松本くんがそう質問するとよっしーは頭をぽりぽりと掻く。

「……恥ずかしながら。」

「なんだよもー。せっかく自慢して驚かせてやろうと思ってのにさ。」

松本くんは天井を見上げ悔しがる。

「まあ、国内の人じゃないからなー。無理もないか。」

ミツキが松本くんに目を輝かせて質問する。

もうすっかりスター扱いだ。

「なんで?どうして松本が選ばれたの?スカウト?オーディション?」

「オーディションかな。世界中から10人だけ弟子を集めるっていって国々をわたり歩いてたんだ。去年に書類と動画送って一次通ったのが今年の春前。そして先月、わざわざ俺に会いに来てくれたんだ、日本まで」

「え?日本に来てたの?知らなかった。」

「お忍びだったからな」

松本はいつものチャラい感じではなく余韻に浸るように熱く語った。

「俺、あの人の目の前でマジックを見せたんだ。たった10分ちょっとだけのマジックを。手も声も震えちゃってさ。マイクが俺の震えが止まるまで待ってくれたんだ。」

「どれくらい待たせたの?」

松本くんが沈黙の後に呟いた。

「……二時間。」

一同で驚愕の声を上げる。

「逆にすげえわ。」

「2時間待たせたの10分の為に?」

「その間マイクは?別室?」

「いや、俺の目の前で、パイプ椅子に座ってた。」

地獄だ。

「……でっでもその上で合格できるってすごいよね。ね?」

ミツキの意見はもっともだ。

そのうえで合格したのだから大したものだ。

「マイクはそのうえで松本くんを気にいったんだものね」

「マイクはなんて?」

松本は言葉をひねり出した。

「失望した。帰りの飛行機は彼に出してもらおう。って言われた。」

これにはさすがに誰も言葉が出なかった。

「俺ももちろんもう終わったと思ったね。そしたら先週エアメールで合格通知が届いたんだ。」

そこまで聞いても誰もコメントがない。

さっきまでのスター扱いがない。

大丈夫?

騙されてない?

高校辞めるリスクと見合ってる?

恐らくそんな思いがみんなの中に駆け巡っているだろう。

「俺は……」

「すごいよ。松本はすごいよ。」

今井くんを遮り、口を開いたはよっしーだった。

「がむしゃらに頑張って。全部捧げて、やっと掴んだチャンスだもん。手放せないよね、普通。」

……よっしー。

「ウチは松本のことずっと応援してるから。なんか大変なことがあったらいつでも頼ってよ。アメリカでもどこでも、助けにいくから。」

「俺も。」

「ミツキも。」

「私は……無理かな。自分のことで手一杯だから。売り上げは貢献してあげるけど。」

正直か!とミツキが突っ込む。

早枝ちゃんだけは何も言わなかった。


みんなすごいなあ。

一生懸命に生きてる。

私にはそんな冒険のある人生、考えたこともなかった。

私は今朝早起きして作った自分のお弁当を見た。

もうほとんど食べ進められているお弁当を。

今日、誰かにお弁当を褒めてもらえると思ってた自分が恥ずかしい。

私の頑張りなんてきっと、みんなが普通の顔して表情に出さない程度の頑張りなんだ。

みんなが普通にこなしてる毎日なんだ。

いつから私は自分が偉いなんて勘違いをしていたんだろう。

だから私は、何も我慢してないし、何も頑張ってなどいないんだ。

私は最後のスパゲティを頬張った。

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