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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第3章 安原の参観日。
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自分らしく。

「おはよう。」

私は自分の目と耳を疑った。

目の前の挨拶を交わそうと試みてきた人物よりも自分の長年付き添ってきた目と耳を疑った。

私に、私たちに朝の挨拶をしてきたのは『今井くん』だった。

マスクをつけた今井くんが私に挨拶をしてくれている。

コンタクトをつけていて、マスクもつけるともはや別人である。

今井くんを現す記号は何もない。

極度の垂れ目で辛うじて気付いた私はすごいはず。

「おはよ。」

一番最初に挨拶を返したのは、私の前の席の同じくマスクをつけたミツキだった。

「今井くん、まだ調子悪いの?」

「う~ん、熱が下がった分楽にはなったくらいだけれどね。体育はまだ無理かな?」

そういうわけではなく。

逆に熱でもないとこんな行動に出ないのでは?

「ミツキ、もしかして風邪うつしちゃった?昨日雨にも濡れただろうし。」

ミツキはわざとらしく咳き込む。

「ごほっごほっ。なんともないわ。」

「わざとらしーなおい。」

二人のやりとりを見ていた早枝ちゃんが私に話しかけてくる。

「あらあら、あの二人。いったい全体なにがどうなったのかしらねえ。安原さん?」

早枝ちゃんがニヤニヤしながら私に耳打ちする。

「早枝ちゃんはなにか知ってるの?」

「何も?ただ風邪で寝込んでいる今井の部屋にミツキを置いてきただけよ?」

あら。

「昨日?」

「そう。」

「放課後?」

「そう。」

「4時くらい?」

「そう。」

「私がこの写真を二人に送った時間ね。」

私はミツキと今井くんのキス画像を早枝ちゃんに見せた。


夕日すら射さない雨空から守られるような一つ屋根の下。

ベットに座り込む二人の男女。

二人は沈黙に間がもたない様子。

どちらからも話し出しづらく、二人の呼吸だけが静かに耳に届く。

この静けさはお互いの鼓動が聞こえてしまうんじゃないかというほど。

二人の変わりにお互いのスマートフォンが通知音を発する。

沈黙から逃げるようにすぐ通知を確認する二人。

そこには二人が頬と唇を重ねた一枚。

顔を見上げると、相手もこちらを見ている。

相手は今、何を考えている?

何を思っている?

……自分と同じだったらいいな。

『……旅行楽しかったね。』

『……うん。』

『皇帝ゲームは、大変だったけれど。』

『そうだね。』

『……でも、あれも今思うとすごく楽しかった。』

『……うん。』

『ねえ、あのゲーム、もう一回やってみない?』

『いいけど。私、皇帝になっちゃうよ?』

『俺が王様でもいいのなら……。』

『では王様、何なりとご命令を。』

『俺はこれから、皇帝の頬にキスをする。』

『……だめ。』

『……え?』

『……ほっぺじゃ……だめ。』

ミツキがうるんだ瞳で良太を見上げる。

心なしか、少し顎は上向いて……。

『ミツキ……。』

『良太……。』

ベッドが軋む音は、雨音にかき消されていく。


「ああ~なるほどなるほど~。」

「行くとこまでいったわね。」

私と早枝ちゃんの再現VTRはきっと同じものが流れているに違いない。

まあ妄想はこれくらいにして、実際ビビりへたれオタクの良太がベットの上で二人きりになったところでなにかできるはずもない。

良太は教室をキョロキョロと見回す。

ほら見なさい。

もうすでに間がもたなくなってその場を立ち去る口実を探しているわ。

そう思ったのもつかの間、良太は手を添えてミツキに何かを耳打ちした。

ミツキはこちらをちらりと視認して耳打ちをし返した。

ああこれは。

「ハラッチ!すごい鼻血よ!」

なるほど……。

……なるほど……。

私の意識は遠のいていった。


お昼休み、私と早枝ちゃん、よっしーとミツキで集まる。

集まると言ってももともとみんな席が隣同士だから席を移動するわけではない。

「今日は購買行かなくていいの?早枝ちゃん?」

よっしーが早枝ちゃんに促す。

「今日は買ってきたからいいの。」

そう言うと二人はカバンからレジ袋を取り出し、中からそれぞれパンを取り出す。

二人とも買ってきた『チョコパン』を取り出す。

お互いの買ってきたパンを確認した二人はそのまま硬直する。

「だから!なんで同じの買ってくんのよ!」

「こっちのセリフよ!真似しないでくれない!」

この二人はどこまでも同じなようだ。

同族嫌悪というもの?

まあ、でも二人には決定的な違いがあるけれど。

自分が嫌いな早枝ちゃんとよっしーは違う。

よっしーから何か感じてくれればいいんだけれど。

「俺たちも一緒にいいかな?」

今日の私は自分の目と耳を信用することがつくづくできない日だ。

そこには松本くんの手を引く今井くんの姿があった。

せめて逆なら少しくらい理解もできただろう。

「どーぞー!」

誰よりも早くこの事実を受け入れ、返事を返したのは他でもない、ミツキだった。

「じゃあお邪魔します。」

今井くんが私の横隣の席に座ろうとすると、よっしーが制止する。

「ちょっとちょっと。どうしちゃったの良太。あんたらしくないじゃん。」

今井くんは笑ってよっしーに答える。

「違うよ。自分らしくするって決めたんだ。」

そういうと今井くんは席についた。

「それでもいいかな?吉川さん?」

「そこまでできんなら吉川さんはやめてよ。」

「じゃあよろしくね?よっしー」

童貞を捨てた今井くんは……侮れないわね。

「私もハラッチでいいわ?」

「ハラッチ……はなんか緊張するね」

どういう意味よとよっしーがすごむ。

「泉野さんはー……」

「早枝ちゃんとか呼んだらぶっ飛ばすわよ?」

「じゃあ早枝で」

変わんなくない?と怒鳴る早枝ちゃんに笑い返す今井くん。

ホントに別人のようだけれど、前の今井くんより無理がないように見えるのは本当にこれが素の今井くんだからだろうか。

そんなやりとりをしていると、松本くんがよっしーの横、早枝ちゃんの前の席に腰かける。

一瞬、静まる二人。


……同じものを好きになる……か……。


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