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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第3章 安原の参観日。
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私じゃない。

「……ん。」

掛け布団が動く。

どうやら、彼が起きたようだ。

私もつい寝てしまったようだ。

外は今にも雨が降りだしそうだ。

いけない。

傘持ってきてない。

ベットにもたれかかっていた身体を起こし、慌てて容姿を確認する。

髪型は乱れていないか、顔に跡はついていないか、よだれなどついていようものならもう彼の前に姿を現わせない。

「……ん?ん~ん。」

今井くんがゆっくりと目を開ける。

そして、私と目があった。

「……お邪魔……してます。」

そのまま硬直する今井くん。

ピクリとも動かない。

「……具合はどう?」

私が首をかしげると、今井くんはベットの端まで身を引き毛布で体を隠す。

「どうしてミツキがここに?」

「どうしてって。今井くんが熱を出したって聞いたから……その……お見舞い……かな?」

たぶんお見舞いするつもりで来たのだろう。

半ば泉野さんに無理やり連れてこられたようにも見えたけど。

ミツキの考えることはいつもイマイチよくわからない。

特に最近は前にも増して理解ができない。

こんなタイミングで私と入れ替わるなんて。

ミツキとは身体も記憶も全て共有しているけれど、心だけは共有していない為よくわからない存在だ。

でも会うことも、話すこともできない、姉のような存在。

ミツキは私をイジメから守ってくれたし、私の苦手な人間関係をうまくこなしてくれる。

彼女には感謝しても感謝しきれない恩がある。

ミツキの最近の言動が不安定なのは、私が病院に通い出したからかもしれない。

ミツキはきっとよく思っていないに違いない。

ごめんなさい。

でも、このままじゃいけないっていうのはきっとあなたも感じていると思うの。

……本当は私が消えちゃえば、みんな幸せなのにね。

吉川さんも、安原さんも、今井くんだって、みんなミツキが好きなんだから。

私なんてだれも要らないのに……。

私はミツキと泉野さんが用意してくれたスポーツドリンクをさも自分が買ってきたかのように今井くんに差し出す。

「お見舞いをね?いろいろ買ってきたの。……スポーツドリンクは好き?」

今井くんは視線を泳がせた後、コクリコクリと二回頷いた。

「よかった。」

私はスポーツドリンクを弟さんが用意してくれたマグカップに注ぐと今井くんに手渡した。

「ありがとう。」

今井くんは一口飲むと、続けた二口目では一気にドリンクを飲み干した。

きっと汗をいっぱい掻いて喉が渇いていたのだろう。

私はスポーツドリンクの入ったペットボトルを今井くに勧める。

「もう一杯どうですか?社長さん」

すると今井くんは真顔でこちらを見る。

滅多にボケない私の渾身のギャグだったので何かリアクションが欲しい。

私は調子に乗った数秒前の自分を激しく後悔しつつ、赤面した顔で今井くんを見つめた。

そして、二人同時に噴き出して笑う。

昨日のカラオケを思い出す。

本当に楽しかった。

たったの一時間だったけれど、私にとっては人生で一番楽しい一時間だった。

カラオケなんて初めてだったから。

ミツキはたくさん行っているけれど、それを思い出しては羨んでいた。

「ありがとう。もう一杯もらおうかな?」

今井くんがマグカップを私に向ける。

私はそれにお酌をした。

「いっぱい汗掻いたんじゃない?体調は少しでも良くなった?」

今井くんは自分のおでこに手を当てる。

「だいぶ良くなったよ?だいぶ熱も下がったみたいだし。」

今井くんは手を下ろすと私に笑いかけた。

「たぶん明日からは学校行けそうだと思う。」

このシチュエーション!

漫画で見たことがある!

こういう時の男女はおでことおでこをくっつけてドキってやつよね。

私は鼻息を荒げると髪を掻きわけ、今井くんのおでこに狙いを定めた。

すると私のおでこに今井くんが手を押しつける。

「何する気?ミツキ」

「お熱を計ろうかと」

何か変なことをしただろうか。

「なんで?」

今井くんにドキドキしてほしいから。

私のことも好きになってほしいから。

そんなことを言えるはずもなく。

「不満でもありますか?。」

そういって笑うのが精いっぱいだった。

「いや。不満はないけれど。ほら、俺昨日からお風呂も入れてないから。……その臭いと思うし。」

今井くんが私に少しなりともたじろいでくれたのが嬉しくて。

「じゃあ身体拭くわ。」

思わずそういってしまった。


洗面器に張られたぬるま湯にタオルをくぐらせ、おもいっきり絞る。

目の前には同い年の男子の半裸が広がる。

その広い背中に濡れタオルを当てていく。

今!私は!男子の!素肌を!拭いている!

鼻息を荒げ、目を回す。

ふつうよふつう。

これくらいみんなやってるわ。

漫画でみたもの!

私はそう自分に言い聞かせながら、今井くんの背中を拭いていった。

すると私に顔を見せないまま、今井くんが呟いた。

「……どうしてこんなに良くしてくれるの?」

少しでも今井くんに振り向いてほしいから。

それが本音だけれど、ここはミツキの言葉を借りた方がきっといいわよね。

そう思った私はミツキが答えるであろう言葉を探した。

「これくらい普通のことでしょ。何?今井くんはドキドキしちゃうの?」

すると私の視界に彼の膝の上に乗ったこぶしが微かに震えているのが映った時、私は間違えたんだと理解した。

とうとう雨が降りだしてしまった。

雨音が窓を打ち付ける。

「するにきまっているでしょう。ドキドキする。好きになる。一緒にいたいと思う。でも俺じゃダメなんでしょ?告白は受け入れてもらえないんでしょう?」

彼は私の方を振り向いた。

彼の真剣な眼差しが私に注がれる。

「もういっそ!フッてくれよ!もう苦しいんだよ俺!いい加減……ミツキの気持ち……聞かせてくれよよ……。」

今井くんは私の答えを待ってる。

でも私じゃない。

待っているのはミツキの答えだ。

ミツキがどうしてこんなにも彼に執着するのかわからない。

だからミツキの答えを代弁することなんてできない。

でも、彼の揺れる瞳を見ていると、これ以上ごまかすことなんて私にはできない。

……いいのかな?

私の気持ち伝えても……。

私は今井くんから目をそむけ伏せ目がちで言葉を振り絞った。

「……今まで……今まで出会った男子とは……違うと思ってる。特別な人だと思ってる。」

伝えよう。

私の気持ち。

私は今井くんに向けて顔を上げた。

「大切にしたい関係だと思ってる。」

今井くんの顔が少しだけ赤くなった。

……やっと、見せてくれたね。

ずっと見たかったんだ。

ミツキにばかり見せるその顔を。


これはきっと私の初恋だ。

初めて好きなった、今井くん。

君は私にとって特別な人なんだから。

こんな気持ち初めてなんだから。

小学校の時、チョコをあげた飯島くんにだってこんな気持ちにはならなかった。

……こんな気持ち。


……こんな気持ち?


……どんな……気持ち?


無言で立ち上がる。

「ミツキ?」

部屋を飛び出す。


……どんな気持ちだった?

乱暴に家を飛び出す。

雨のなか、やみくもに走る。

雨が身体に貼り付く。


……飯島くんのこと……覚えてる!

覚えてる!

チョコを渡したことも、卒業式まで見つからなかったことも。

それだけじゃない!

遊んでるみんなを尻目に、勉強ばかりしていたあの頃を私は覚えてるのに!


どれだけ走ったろう。

ここはどこだろうか。

……わからない。


あの時の気持ちがわからない。

覚えていない。


……私じゃない。


勘違いしてた。

ミツキが解離した人格じゃなかった。

解離したのは……。


「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

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