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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第3章 安原の参観日。
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友達?

自室のベッドで横になる男子を女子二人が覗く。

これが男女逆転していたなら、きっと警察沙汰だろう。

「起こしちゃ悪いし帰ろっか」

早枝ちゃんにそう提案すると、彼女はカバンから一枚のプリントを取り出した。

「え~。良太に今週のシフト渡したかったんだけどな。」

プリントはどうやらバイトのシフト表のようだ。

「ミツキ渡しておいてよ。あたしはもうバイト行かなきゃだし。こいつの穴埋めしなきゃだし」

早枝ちゃんは病に伏している人に対して、ぞんざいに指を指す。

「え?ミツキも帰るよ。」

「だ~め。シフトに穴開けて良太も気にしてたんだから早く見せてやんないと。頼んだよ?」

早枝ちゃんはミツキの肩を強く掴み、強引に座らせる。

「ちょっと!早枝ちゃん?」

「良太弟にはあたしが帰るって声かけとくから気にしないで。あいつにはまだ言いたいこともあるし」

彼女の目が怖い。

「あのガキ、絶対泣かす」

「喧嘩しないでね?」

そう言い残すと早枝ちゃんは部屋を後にしていった。

8畳ほどの部屋に良太とあたしだけが残される。

このまま良太の寝顔を眺めるのも退屈なので、良太の部屋の探索でもしようか。

人の部屋を勝手に物色するのは少し気が引けるが、良太の頭の中を知るいい機会かもしれない。

ミツキは本棚に綺麗に収納してある漫画本やブルーレイをひとつひとつあさっていく。

どの作品も見たことのある作品だけれど、ミツキはまるで興味が湧かない。

こういうのは美月が好きで見ているから、知識だけはあるのだ。

美月だったら楽しめるのかな?

一通り物色してみたがこの部屋にミツキの興味を引きたてるものは何もなかった。

そもそも、なにかを好きになったことなどミツキには一度もないのだが。

玄関が閉まる音がする。

早枝ちゃん……まだいたの……。

部屋の窓から外をうかがうと早枝ちゃんが泣きながら走り去って行った。

……あの早枝ちゃんを泣かせるとは、弟さんもなかなかツワモノだ。

そう思っていた矢先、部屋の扉をノックする音がする。

「……失礼します。」

「は~い。」

ミツキの返事を聞いてから、扉が開く。

クッキーやチョコレートのお菓子が入った器と、マグカップが二つ乗ったお盆を持ってきてくれた。

「ありがとう。」

軽くお礼を伝えると、弟さんは『いえ』と一言呟くのみだった。

部屋にある小さめなテーブルにお盆を置くと、丁寧な手つきでコースターをマグカップを置いていく。

「ココアで大丈夫でした?」

「あっ大好き。」

「よかったです。……兄の分のカップも用意したので、その……使ってください。」

恐らくミツキたちがお見舞いとして買ってきたスポーツドリンクのことを言っているのだろう。

「ありがとう。君しっかりしてるね?いくつ?」

「いえ。その……15の高1です。」

そうは言われてもどうしても年下に見えないくらいの落ち着きと体格である。

「名前……聞いてもいいかな?」

「健太郎、今井健太郎って言います。」

「ははっ、名が体を表してるね。」

健太郎くんの大きな身体を軽くはたく。

「でかいだけですよ。」

良太と同じく陰な部分があるものの、やはり決定的に違う。

良太は人を疑い、健太郎くんは人を信じていないといったところか。

健太郎くんの方が賢い生き方なのかもしれない。

疑うというのは相手に期待する行為だからだ。

「あの……ボクはそろそろ。」

「あっ……ごめんね?引きとめちゃって。」

「いえ。あの、お友達に謝っておいてもらえませんか?その……泣かせちゃったんで。」

「お友達?ああ、早枝ちゃんね?大丈夫よ。たまにはへこましとかないと」

そう笑って答えると、健太郎くんは一つの質問をしてきた。

「……お友達じゃないんですか?彼女」

ミツキは今、何か失言した?

「どうして?どうしてそう思うの?」

「お友達って言葉がイマイチしっくりきていなかったようなので。」

ミツキはちらりと良太を見る。

以前、寝息を立てている彼を確認したあと健太郎くんに視線を戻す。

「君、人嫌いの割りには観察眼がなかなかのものね」

ミツキは腕を組んで答える。

「……別に人を嫌ってるわけじゃないですけど。」

「そう?誰も信用してないって顔してるけど?」

「まあ、あなたがたは信用してないですからね。」

健太郎くんの目は真っすぐミツキを見つめている。

その目は瞳の奥を覗きこまれているかのような鋭い眼光を放っている。

「どうして?お兄さんをお見舞いに来たクラスメイトよ?」

「……友達って言葉……使わないんですね。」

この男苦手だ。

ミツキは誰とでも仲良くなれる。

ミツキは誰にでも好かれられる。

そんな上辺だけのミツキを見抜かれていそうで。

美月よりも臆病で弱いミツキを……。

「……あの、どっちでもいいんで。ボクはそろそろ。」

健太郎くんはドアノブをひねる。

「友達って言葉が嫌いなの。」

健太郎くんの動きが止まる。

「友達っていうくくりが嫌いなの。自分のお気に入りをキープするような口約束みたいな関係に虫酸が走るの」

誰にも打ち明けたことなんてなかった。

こんなひどい言葉。

誰にも打ち明けるつもりもなかった。

みんなが好きなミツキはこんな言葉は使わない。

なのに、なぜかこいつにムキになってしまう自分がいる。

「だれが友達でだれが友達じゃないなんて駆け引き、気持ち悪いのよ。みんな自分のことしか考えてないくせに。友達を大事にしないやつは最低とか。あいつは今日から友達じゃないとか。そういう子どものころからずっと繰り返してるごっこ遊びに吐き気がするほどよ」

……最低だ、私。

「友達なんてくくりを捨てて、みんなと当たり障りない関係を築くのが一番なのよ。大人で友達とか友人とかいう奴いないでしょ?親が友達の話しないでしょ?それが大人なの。それが人間関係なの。」

……最低だ、ミツキ。

すべてを聞き終えた健太郎は一言だけミツキに呟いた。


「あなた、人を信じられないんですね。」

そう言い残すと、彼は部屋から退出した。

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