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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第3章 安原の参観日。
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お見舞い。

夕暮れの教室、気だるいチャイムが放課後を知らせる。

ホームルームも終わり、クラスメイトが一斉に席を立つ。

部活へ行くもの、塾へ行くもの、バイトへ行くもの。

さて、ミツキはどうしよう。

カバンからスマホを取り出し、ラインの画面を開くも通知はない。

良太……熱大丈夫だろうか。

昨日から具合が悪かったのだろうか。

無理させてしまったのではないか。

心配なのだけれど、昨日のことがあるから気まずくてラインできない。

でもここはやっぱりフった方がラインするべきよね。

フったのはミツキじゃなくて美月なわけだけど。

ラインの画面を良太のページに切り替えた時、ミツキに話しかける人物がいた。

「ミツキ、行くわよ。」

「!さっ……早枝ちゃん?」

驚きのあまりスマホを隠してしまった。

「何よ。別に隠すことないじゃない。」

ホントだ。

隠す必要などどこにもないのに条件反射で隠してしまった。

くりかえすようだけれど、ミツキは良太のことは全くといってタイプじゃない。

なのにこの反応は周りからみたら、まるでミツキが良太に気があるみたいじゃないか。

まあ正直?

最近の良太の頑張りには好感を持っている。

こんな短時間に人って変われるものなんだなと感心すらするほどだ。

あとはミツキをどうやって口説き落としてくれるかだ。

面倒なことをしているのはわかる。

良太にも申し訳ないとは思うのだ。

でも、ミツキももうすぐ消えてしまう身だと思うと、誰かにロマンティックなことの一つでもされてみたいのである。

そして最初で最後の恋人はやっぱり好きな人がいいのである。

ミツキは人を好きになったことはない。

だから良太を好きになれるかどうかは良太にかかっているのだ。

「お~い。ミツキ~。どうすんの~?」

いけない。

自分の世界に浸ってしまって、早枝ちゃんの話を一切聞いていなかった。

「ごめん。なんだっけ?」

「もお。何回も言わせないでよ。良太の見舞い行くわよって言ってんの。」

「行く!」

ミツキはスマホをカバンの中に放り投げた。


住宅街に同じような家が立ち並ぶ。

その中のうちの一つに『今井』と表札の書かれた一軒家があった。

「ここね。」

早枝ちゃんの歩むままについてきたのだけど、表札の前で足が止まる。

「早枝ちゃん来たことあるの?」

「ないけど、一応あたしバイトリーダーというか責任者だから。従業員の住所を把握しているだけよ」

「それって職権乱用じゃ……」

「これで良太が倒れてたらどうするの?必要なことよ。」

一人暮らしでもないし、大丈夫でしょ。

そんなミツキの懸念をよそに早枝ちゃんは玄関のインターホンを鳴らした。

良かったのかな?

ミツキ来たらまた良太目を回しちゃうんじゃないかな?

興奮しすぎて具合悪くならない?

来るにしてもラインしてからの方がよかったんじゃ。

部屋とか散らかってたら、好きな女の子に見られたくないんじゃ。

そんなこんな考えていると、インターホンから男性の声が聞こえた。

「はい……。」

覇気のない、気だるそうな声。

「良太君のお見舞いにきたんですけどー」

「……。今開けます。」

早枝ちゃんの答えに少し間を置いて、玄関が開かれた。

玄関を開けてくれたのは、髪が顔が隠れるくらい長くて背が良太、いや松本くんよりも高い男だった。

「……大きいですね。」

「……普通、お邪魔しますが先だと思うんですけども。まあ上がってください。」

長髪大男は二人を招き入れた。

その男は学ランを着ていた為学生なのがうかがえる。

「……今日はようこそいらっしゃいました。」

学ランの男は軽く会釈をする。

「こちらこそ急に押しかけてしまいすみません。」

早枝ちゃんがも軽く会釈をした為、ミツキも慌てて合わせる。

男は二人の顔を見比べると一つの質問を投げかけた。

「どっちが兄の彼女ですか?」

早枝ちゃんが即答でミツキに指を指すとイラついた様子で言葉を返した。

「あんなネクラ野郎と一瞬でも付き合ってると思われたのが屈辱だわ。」

すると学ランの男もすぐさま口を返す。

「でしょうね。兄はあなたのような自分の思ったことをそのまま口に出す『自分に素直な自分』を履き違えた人を好きになるわけないですしね。失礼しました。」

早枝ちゃんは無言で男に殺気を送る。

……怖い。

でも男はまったく動じない。

「ていうかすごいね!良太の弟さんなんだ!大きいね。190㎝はあるんじゃない?」

とにかく話題を変えないと。

「188cmしかないです。」

もうそれほとんど190じゃない。

否定から入る所は良太そっくりね。

「ボクのことよりも兄です。上の部屋なので上がってください。」

靴を脱ぎ、案内されるままに階段を上ると、弟さんは一つの部屋の前で立ち止まった。

「兄ちゃん?彼女さんとお友達が来てくれたよ?」

一応否定しておこう。

「さっきは否定しそびれたけど、その、ミツキたちは別に付き合ってるわけじゃ……」

「え?まだなの?」

早枝ちゃんの期待外れといわんばかりの表情を決める。

「……。どっちでもいいです。」

そしてこの男の無愛想さもまた厳しい。

「……返事がないな。寝てるのかな?」

弟さんは一人で階段を下り始める。

「部屋に入っていてください。今お茶お持ちしますんで。」

「あっ、お構いなく!」

こちらのいうことに耳もくれず、階段を下りて行ってしまった。

あの人には初対面とか人見しりとかないのだろうか。

他人に興味がないといった感じだ。

「今井ー!入るわよー」

そんなことを考えていたら早枝ちゃんが部屋の扉を開けてしまっていた。

部屋に入ると、部屋はとても綺麗に片付いていた。

美少女フィギアとかロボットのプラモデルとかが綺麗に並べられている。

壁にはアニメのポスターが貼られていた。

「なんか、ここまで意外性がないのもびっくりてくらいテンプレのオタク部屋ね。」

早枝ちゃんが美少女フィギアを眺めながら呟く。

趣味だけで固められた、好きなものだけを集めたこの綺麗な部屋は、良太と似ているかもしれない。

この部屋には彼を傷つけるものも、彼を悲しませるものもなにもない。

完成された静かな部屋の中で、彼のつくった要塞の中で、良太は小さな寝息を立てていた。

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