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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第2章 混沌のゴールデンウィーク。
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日常生活に使わないもん。

「まさか……」

「ここまでとは……」

俺とミツキは頭を抱える。

「この公式使っても解けないんだけど。」

俺たちは吉川さんのアパートで宿題を見ていた。

「まずその公式じゃないし、しかも公式間違ってるし」

アパートは2DKの小さな部屋だった。

俺たちはダイニングにぽつんとある小さなちゃぶ台に吉川さんの一人分の課題を広げる。

日曜日とはいえ京平さんは仕事に行っているようで不在だった。

「さっきこれ使えって良太言ったじゃん」

「さっきのはさっき。これは違うの!」

この部屋に来て一時間ほど経つが吉川さんは予想以上の重傷だった。

高1……いや高校受験レベルも怪しいかもしれない。

「違うだけじゃわかんないから!どれ使うのこれ!」

「これ使うって!」

なぜかほとんど俺が教えている。

正直おまけ程度の気持ちでついてきたのだが俺より仲が良く、俺より成績のいいミツキはさっきからだんまりだ。

吉川さんと話し始めたのなんてゴールデンウウィーク前くらいからの数えるほどなのに、勉強教えろなんて無理ゲーすぎる。

答えだけ教えた方が万倍も楽なのに。

しかもよりにもよって、英語、物理、数学とかいう暗記モノじゃない。

答えを教えてどうなるものじゃないのが辛い。

「ちょっとこれ使っても解けないんだけど?!」

「うそっ!そんなはずは」

途中式が止まってしまっている。

これで解けるはずだったのに。

さらに違う公式使うのか?

いや、俺もこの課題は終わらせているしそんな複雑の問題はなかったはず。

すると途中式のとある一列に細い指が差し込む。

「ここ、間違ってる。」

「あり?そう?」

吉川さんは指摘されてもピンと来ないようだ。

ミツキはチラシの裏に計算式を書き始めた。

「あ……そっか。」

自分の式と見比べてようやく気付いたようだ。

「じゃあこのまま続けてみよっか」

「イエス、ボス」

再び問題に取り掛かる。

これからまだ物理と英語も控えているかと思うと頭が痛い。

一度やった問題だからまだ時間はかからないと思うがそれ以上に難しい問題が一つ残る。

……ミツキがよそよそしいのだ。

俺だけじゃなく吉川さんにまで。

俺ならともかく吉川さんは一番の親友といっても過言じゃない程の仲のはずなのに。

俺よりも距離を置いてるように見えるほどだ。

「できた!」

「じゃあ次これね」

「え~。やっと解いたんだからちょっと休憩しようよ~」

「時間ないんだからダメ!数学終わったら休憩にしよう」

「あ?てめー良太。はいはい聞いてたら調子こいてんじゃねえぞ」

「じゃあ俺は帰らせてもらおう」

「どうぞどうぞ」

空気が重かったから丁度いい。

こんなことで最後の休日を取られてたまるか。

俺は帰る準備をする。

「なんでミツキまで帰ろうとするの?」

ミツキはカバンに道具を詰めているところで肩をすくめる。

「え?あ~……。あっ!私に言ってるのかと思って。」

「ウチがミツキにそんなこというわけないじゃ~ん」

吉川さんがミツキに抱きつく。

「じゃあ俺はお先に」

「待って!」

呼びとめたのはミツキだった。

「今井くんも一緒に……ね?」

どうしてまた今井くん呼びなんだ。

「吉川さんもいいでしょ?二人の方が早いし。」

「どうして名字で呼ぶの?」

「へっ?」

ミツキの眼が泳ぐ。

汗の流れ方も尋常ではない。

小さなダイニングが沈黙する。

「いつもみたいにミホリンパスって呼んでよ~」

吉川さんがミツキの胸に顔を沈める。

「呼んだことない!呼んだことないから!」

俺は荷物を下ろしもう一度座布団に座る。

「あんたは帰っていいのに。」

「ほう。英語は俺の方が得意なのに?」

胸にうずめたままの吉川さんの耳が動く。

「暗記要素の強い英語をミツキの長くて丁寧な指導のもとやってたらどれだけ時間がかかるかな~。」

俺の前に新しいコーヒーが注がれた。

「先生、よろしくお願いします。」

「じゃあこの問題を……」

「はい先生!」

吉川さんは問題に向き合うとと頭から煙を出してフリーズした。

「申し訳ありません。意味がわかりません。」

アシストロボットのような単調な抑揚でコメントした。

「第一微分積分なんていつ使うのよ」

「受験で使うわ?」

「じゃなくて!こう。日常生活に置き換えないと問題がわからないのよ」

言わんとすることはわかる。

じゃあ吉川さんにこの問題も理解させるのには……。

「やめよう。俺までわからなくなってきた。」

微分積分ってなんなんだ?

三角関数ってなんなんだ?

俺は今まで何を勉強してきたんだ?

「この問題はね。……恋かな?。」

口を開いたのはミツキだった。

「恋?」

俺と吉川さんは同じ言葉を重ねた。

「微分積分が恋っていうの?」

ミツキは顔の手前で小さく手を振る。

「違うの。微分積分だけじゃなくてね?数学全部が。」

イマイチよくわからない。

でもミツキはクラスで一番の成績なのだ。

「私はね文系だから。数学は本当は全部わからないの。だから気持ちはわかるの。」

ミツキは問題に指を指す。

「彼が今日あなたの恋人が持ってきた話題。あなたはその教科書から公式を探して話題を合わせるの。合わなかったらまた違う話題。そうやって彼の答えに合わせるの。何度も間違えながら。」

「好きなひととの、会話。」

吉川さんは問題に目を落とす。

吉川さんは教科書を開いて公式を探す。

何度も何度も式を書いては消して、消しては書いて。

そしてひとつの数式を導き出した。

「……できた。」

今日初めて彼女は一人解答をすることができた。

消し跡だらけだけど、それはとても短く、とても綺麗な数式だった。

「……恋に比べたら、公式があるだけ簡単なものね。」


「不正解。」


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