もういい。もう疲れた。
やばい。
俺の計画が狂いだした。
そうだ!俺もボールを狙ってリセットしよう!
俺はなんにもない場所にアームを突っ込んだ。
しかしなにも獲ることはできなかった。
「どこ狙ってんのよ」
ちくしょう。
こんなん狙ってとれねえよ。
下手すりゃぬいぐるみより難易度たけーんじゃねえか?
「良太は確率機説を信じてるんだもんな。今は獲れないと高をくくっているんだろう」
松本はクレーンゲームにコインを投入する。
くそ!このままじゃ!
松本は正面からうさぎのぬいぐるみを3本の爪でがっつり掴んだ。
ぬいぐるみをがっちり掴んだまま上昇していき上に昇りきる前に落としてしまう。
やっぱりな……。
この悪夢を何度見てきたことか……ん?。
こいつ持ち上げれるタイプか!
俺は景品落とし口のシールドと呼ばれるしきりのアクリルボードに目を移す。
俺は口角を上げる。
こいつぁいい!
俺はゲーム機にコインを投入した。
ぬいぐるみと落とし口の間を縫うようにぬいぐるみに1本の爪を擦らせる。
「まーたボール狙いかよ」
松本の嘲笑がおかしくてたまらない。
せいぜい笑っているがいい。
アームがゆっくりと持ち上げる。
ぬいぐるみをつれて……。
「なにぃ!!」
松本が驚くのも無理はない。
アームはぬいぐるみを捕らえてはいないのだから。
アームが捕らえているものはそう、タグである。
タグへの引っ掛けは古来よりのクレーンゲーマーご用達の高度テクニックだが、確率機が流行している現環境でも十分通用するテクニックである。
「すごい!良太これねらったの?!」
俺の袖を控えめににひっぱり、ミツキが喜ぶこと喜ぶこと。
上昇しきったところでタグが滑り落ちてしまう。
安堵の息をつく松本。
爪の先にゴム、いやビニールでも巻きつけられていればタグがひっかかりそのままゲットもできた。
「おしかったな良太。どうやらタグ引っ掛けは通用しないみたいだぜ。」
松本は俺の肩に手を置く。
「良く見てみな」
「これ以上なにをみろ……て。なっ!!」
「落とし口に近付いているわ」
「そうか!そのまま上に上昇するアームにタグを引っ掛ければ。」
「アームの下まで景品を引きずり降ろせるというわけね」
Exactly……
松本は乱暴にコインを投入する。
「じゃあ俺も同じことをやるだけだ!」
松本は窓越しに景品を眺める。
「ない!ないぞ!」
当たり前だ。
タグ引っ掛けの短所は高確率で2回目はタグが隠れてしまうことにある。
せいぜいそのままのぬいぐるみを掴んでくれたまえ。
「くっ!」
松本はぬいぐるみを正面から掴む。
案の定そのまま上昇位置で景品を落としてしまう。
タグを出して……。
「ありがとう。これで狙いやすいよ。」
俺は同じ手法でウサギちゃんを引き寄せる。
タグはシールドと反対側に顔を出す。
反対にウサギちゃんの耳がすこしシールドに当たるところまで来ている。
次でゲットできそうだな。
コイン投入口に松本が硬貨を入れようとするがうまく入らない。
「手、震えているよ」
俺の言葉に驚き松本は自分の手元に視線を落とす。
投入口で硬貨がかちかちと震えている。
「くそっ!」
松本は左手で硬貨を持つ右手を強引に掴み、硬貨を投入した。
コインの投入を確認したゲーム機を小気味よいBGMを流し出す。
しばらくその音楽だけが4人の周りを包み込む。
松本の笑い出すまでは……。
「ははっ……ははは!はははっははははははははっはは!」
「どうしたのよいきなり笑いだして!」
松本はレバーを倒しアームを操りだす。
「ようは獲らせなきゃいいんだよなぁ!!」
……しまっ!!
松本はタグに爪を突き刺した。
タグは今落とし口と反対方向にある。
反対方向に引っ張られたタグは反対方向にぬいぐるみを引っ張る。
今回は引っかかりが強かったのかかなり遠くまで引っ張られてしまった。
ぬいぐるみが落とし口から遠のく。
くそっ!やられた!
「ちょっと!松本なにやってんのよ!落とし口から離れちゃったじゃない!」
タグが引っ張られた為にタグは俺に顔を見せてくれない。
最悪だ。
……終わったのか?
もうこれ以上なにもできないのか?
もういい。
もういいんだ。
つかれちゃったよ俺。
俺は力なくコインを投入しようとした時、俺の手を暖かく包む感触があった。
顔を上げると隣にはミツキがいた。
「良太!絶対獲って!」
二人の手でコインを投入口に放った。
俺は黙ってうなづいた。
信じてみてもいいのかもしれない。
自分も。他人も。
レバーを倒す。
アームを操る。
男子が好きな女子におねだりされたなら!
獲らなきゃウソだろ!!
俺はぬいぐるみの真上でアームを止め、降下ボタンを押した。
「勝ったな」
松本がほくそ笑む。
笑うのはまだ早い。
ぬいぐるみは上昇していく。
松本は財布を取り出し、次の小銭を探し始めた時その手を吉川さんに制止された。
「松本。あんたの負けよ」
松本がクレーンに目を移す。
そこにはウサギを掴んだまま横移動を始めるクレーンがあった。
「なぜだ!なぜ落とさない!まだ700円だぞ?!」
「この勝負本来なら君の勝ちだったんだ」
「なに?!」
「さっき松本の一手。一見引っかかりがよかっただけなのかと思ったが……」
「?!まさか!!」
「そう。あの時すでに設定金額に達していたのだよ。君は自分で勝負を捨てたんだ!」
「馬鹿な!まだ700円だぞ!!そんな優しい店があるわけ……はっ!」
松本の開かれた瞳孔には店員の愛情こもった手書きポップが映し出されていた。
『出血大サービス台!おひとり様一つまでとさせていただきます!』
「他人の善意を信じられなかった君の負けだ」
景品の落とし口に布が落ちる音がした。
そして俺を祝福するように店員が景品用の大きな袋を満面の笑みで持ってくる。
その場にヘたれこんだ松本の上にベルの音が鳴り響いた。




