帰り道。
「泉野さ~ん。まだ~?」
「もうちょっと!もうちょっと待って。」
朝を迎え、あたしたちは旅館のお土産コーナーにてお土産を買う。
他のみんなはもう買い終えて紙袋を手に持っている。
「泉野さんって意外と優柔不断なのね」
痛いところをつかれて反射的に吉川さんにかみつく。
「もういい!これにする。」
あたしは目の前にあったご当地クッキーを手にしてレジへと向かう。
「あら~。ごめんなさ~い。ご機嫌損なわせちゃったかしら?」
吉川さんが妙に突っかかってくるように感じるのは昨日のことがあったからなのか。
それとも昨晩の大富豪であたしをコテンパンに叩きのめしたのがそんなに彼女の気持ちを良くしてしまったのだろうか。
どちらにせよもうあたしには関係のない話だ。
傷心の松本をあんたが癒してやれば全てが丸く収まる。
この女にアメリカ行きの男を受け入れられるかはわからないけれど。
「まっ。頑張んなさい。」
あたしは満面の小馬鹿にした顔で吉川さんにエールを送った。
「なんかむかつくわね」
車につくと運転席で吉川兄がナビの設定をしている。
あっという間の旅行も終わり、あたしたちの日常へ帰って行くのだ。
助手席に乗りこもうとする今井を呼びとめる。
「今井!」
眠そうな顔の今井。
昨日は松本の心の相談でも乗っていたのだろうか。
ならば話は早い。
「悪いけど。あたしと席変わってもらえる?昨日かなり酔っちゃって。」
今井は二つ返事で了承した。
イエスマンは扱いが楽で助かる。
さすがに松本の横にはいられない。
これからもずっと……。
「よろしくおねがいしまーす。」
助手席に乗り込むと運転手のおっさんが小さくガッツポーズを決めていた。
2時間ほど車を走らせ、サービスエリアにて休憩をとることになった。
あたしは一人ソフトクリームを食べる。
フードコート内のテーブルつきの椅子はひんやりしていて気持ちがいい。
吉川さんと松本はお土産コーナーでお菓子を物色している。
どうやらドライバー用の激辛シリーズを買うようだ。
二人ともノリノリに見えるが吉川さんの目が少しうるんでいる。
辛いのが苦手なのだろうか。
「吉川さんの弱点みつけたり……」
あたしはソフトクリームをまた一口頬張った。
ひんやりとした風味が頭をすっきりさせる。
「姉ちゃん、ブルーは?」
「京平さんって呼びなさい。どこにいるかなんて知らないわ」
相変わらず感情のない姉弟ね。
昨日は少しテンションが上がっているようにも見えていたけれど、一晩寝たらリセットされるのかしら。
安原さんに関しては吉川兄に対して若干距離をおいているようにも見える。
吉川兄に嫌悪感を感じるのはわかる。
この2時間のドライブであたしは疲弊していた。
何をされたとかではない。
なにかを吸われている気がする。
若い何かを……。
あたしは若さを補充するためソフトクリームにかぶりつく。
口いっぱいに濃厚な甘さが広がる。
「ミツキ。このストラップ、今季アニメのサテライト将軍に似てない?」
「似てると思うけどそういう話題は普通に引く」
「……ごめん」
「良太はほんとにアニメの話しか雑談ができないね」
「アニメしか見てこなかったからね」
「下ネタとかじゃなかったらどんな話でもいいけどね、同じ話ばっかりだとこっちも疲れちゃうの。」
「そっかあ、じゃあアニメ以外で頑張ってみるね?」
「どんときなさい。」
「……。どこから下ネタになる?」
「……。サイテー」
あの二人は昨日にも増して距離が近くなっている。
今井が高岡さんを呼び捨てにしているし。
概ね、今回の旅行の目的は達成されたわけだ。
表向きも、本題も……?。
そう言えば吉川さんの告白はどうなったのだろうか。
もうしたの?
それともこれから?
なんにせよあたしの前では告白しないでほしい。
あたしが見たくないとかではない。
きっと、松本は困ってしまうから。
「今ちょっと遅かった。後だしよ後だし!」
「よっしー、おめーつまんねーこと言う奴だな。大人しく食べろ。もしかして辛いの苦手なのか」
「んなわけないでしょ?だだだ大好きよ。」
「じゃあほら口開けろ!あ~んしてやるよ」
「上等よ!あ~ん」
吉川さんの顔が紅潮している。
あ~んしてもらってうれしいけど辛いのが嫌なのだろう。
きっと自分でも何をしているのかわからなくなっているのかもしれない。
松本の指から激辛菓子が吉川さんの口に投げ込まれる。
「んひ?!あひゃろ!へへほ!」
「何いってんのかわかんないよ!」
吉川さんは今にも泣きそうな顔をしている。
辛いのか、嬉しいのか。
あたしは自分の手で甘いソフトクリームを口元へ運んだ。
それからさらに2時間ほど帰りのドライブが続く。
もう高速道路を下りたため、あと30分もすれば今回の長旅も終わりだ。
車内では松本が悪ふざけで購入した激辛菓子の押しつけ合いが始まっていた。
「良太もたしか辛いのすきだったよな?」
「俺、無茶ぶり、嫌い」
「じゃあこうしようぜ。俺と良太でじゃんけんするから、俺が負けたらよっしーが食う。良太が負けたらミツキが食うってことで。」
吉川さんが声にならない声で拒否している。
もう口の中が限界らしい。
「よろしい。受けて立とう。」
「ちょっと!なに引きうけてんのよ良太。」
「大丈夫。ミツキに辛い思いはさせないよ?」
「じゃんけんで言い切らないでくれる?」
二人が気づくと吉川さんと松本がニヤニヤしている。
「ミツキですって?吉川さん。」
「良太ですって?松本くん。」
「いやいやミツキはもともと良太よびだったし!」
「あらあら。珍しくミツキさんが必死になってますなー」
少し後ろで繰り広げられる楽しそうな会話。
あたしはそれをただ聞いているだけ。
それがもともとのポジション。
教室となんら変わらない。
助手席って、こんなに遠いんだ。
「これまだ持ってる?」
「たまたま持ってる」
「たまたまって……。ミツキも持ってるけど」
「俺も持ってるけどさすがにハラッチは……」
「あるわ。」
「お?最後に一回やっちゃう?」
「じゃあ王様もってるウチがー」
後ろでまたなにかが始まった。
あたしには関係ないけど。
「泉野さんはウチのことをよっしーて呼ぶこと。」
……え?
「じゃああたしはミツキで」
「私はハラッチで」
「じゃあ俺は良太で」
「あんたなかなか勇気あるわね。」
「俺は大地でいいぜ?」
なに勝手なこといってんのよ。
くじの引き直しもしないで。
しかも番号指定じゃないし。
王様以外も命令してくるし。
こんなのゲームになってないじゃない。
「別にいいけど。」
あたしは鞄のなかに『皇帝』のくじを眠らせておいた。




