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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第2章 混沌のゴールデンウィーク。
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私なんかじゃ。

二人で広いロビーのたくさんある椅子の中から俺達はたった二つの椅子に腰かける。

肩を並べた二人の距離は心臓の音が聞こえそうなほど近い。

少し肘を張れば届く隣で高岡さんはミルクティーをすすっている。

どちらが話すこともなく沈黙は10分以上にもなる。

ふと視線を落とした彼女を追うように艶のある髪がはらりと垂れる。

こんなに近いのに、俺達の距離は遠くなってしまった。

『今井くん、コーラでよかったかな?』

今までは良太って呼んでくれていたのに。

俺はなにか間違えたのか。

否、正解だった時がむしろないのだが。

減点がカンストしたのではあるまいか。

ありえる、高岡さんのような美人が俺なんか構ってくれる今までがボーナスみたいなものだったのだ。

高岡さんは缶を両手で持ち、前に伸ばした足を小さくぱたぱたさせている。

思えば告白してからの1カ月はとても楽しかった。

初めて美容院に行ったり。

初めてバイトしてみたり。

初めて自分で眉毛をいじってみたり。

高岡さんの過去がほんの少しだけ見えたり。

そういえば女子に下の名前を呼ばれるのなんて小学生以来だった。

「あはは、やっぱりこんな夜中に呼び出して迷惑だったよね。私なんか」

「あ、いや。別に」

下の名前で呼ばれたのが、嬉しかったんだ。

名前って、ルームキーみたいなものなんだ。

これ以上入ってきてほしくない人、もっと近くにいてほしい人。

「今日は楽しかったね。ありがとう。」

「あ。こちらこそ。」

高岡さんはミルクティーを飲み干すと立ち上がった。

「じゃあ。おやすみ。今井くん。」

高岡さんが俺に手のひらを振って見せた。

困ったような笑顔はこのまま彼女を行かせてはいけないと俺を奮い立たせた。

「あぁ、おやすみなさい」

でも俺は彼女にぎこちない笑顔で手を振り返すのがやっとだった。

高岡さんは俺のあいさつを聞き終えると、自分の部屋へと向かった。

彼女からルームキーを取り上げられた俺に話す話題なんてないんだ。

これでいいんだ。

もう一生分の青春を俺は彼女からもらったのだから。

「ミツキ!」

彼女が動きを止める。

俺のルームキーがまだある。

「俺はまだミツキと話がしたい。」

ミツキは髪をいじりながら俺の隣に無言で戻ってくると、椅子に小さく座った。

「どきどきしたよぉ」

ミツキは胸に手を当てるとほっとしたように息をついた。

空気の読めない俺がうじうじ悩んでいたって仕方ない。

話す話題が見つからなくたって構わない。

俺がミツキと話したいから、俺は今ここにいる。

好きな人の隣にいるんだ。

俺は興奮状態の頭を強引に回し、直感的に閃いた話題を口にした。

「ミツキはさ、今までで一番好きなア……」

『アニメの話ができる彼女がほしいだけ?』

昼間のミツキに釘を刺されたことを思い出す。

あっぶねぇぇぇぇ!ダメ押しするところだった。

「一番好きな?なにかな?」

ミツキは嬉しそうな顔で俺を覗きこむ。

「一番好きな男子ってだれ?なーんて」

「なにそれー?」

我ながら苦しいごまかし方だがこれでよかったのかもしれない。

好きなアニメの次に知りたいことではある。

「そうですねー。」

彼女は顎に手を当て答えを考えている。

ミツキの好きになる人はどんな人なのだろうか。

「小学校の時なんだけどね。飯島くんていう男の子がいてね?」

手元の缶を弄びながら彼女は思い出話を始めた。

「お勉強は全然できないほうだったんだけれど、走るのがすっごい早い男の子でね。カッコよかったんだぁ」

ミツキは恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「いっつも女子にいじわるしててね。帰りの会で怒られるのが恒例だったの。」

少しショックだった。

小学生の男の子に嫉妬しているわけではない。

ミツキは今まであった女子とは違うと思っていた。

そんな彼女の初恋があまりにも普通だったことに。

「告白とかしなかったの?」

「しないよー!小学生だよ?それにクラスの女子はほとんど飯島くん狙いだったから私なんて相手にされないよ」

『良太はミツキをなんにも知らないの』

ミツキの言葉が今更ながら突き刺さる。

話もしたこともない相手に好きだと告白するということ。

それは俺の脳内のミツキでしかなかった。

ミツキは意外と普通の女の子だった。

「でもね、6年生の時にチョコを作ったことはあるんだよ?」

俺と同い年の17歳の女の子なんだ。

「名前書かないで机にいれたらね?卒業式までチョコがあったことにすら気づいてもらえなかったの」

初恋の話を照れくさそうに話すミツキ。

「それってもしかして初恋?」

「初恋ではないかな?飯島くんのこと何も知らなかったし。」

ミツキは空になった缶に指をつき当てた。

「好きだったけど、恋はしてなかったみたいな?」

それが一番好きだった男子の話ということはきっと初恋はまだなのだろう。

俺も好きなった女子はたくさんいるけれど恋をしたことはないのかもしれない。

「じゃあさ、今まで付き合ったことは?」

「そんなのないよー」

ミツキは俺に手を振って否定する。

「でもミツキって結構モテてると思うんだ。告白されたりとか噂で聞くから。」

ミツキは人差し指で頬をかく。

「なのにどうして付き合ったことがないの?」

「う~ん。どうしてだと思う?」

「いやいやミツキじゃないとわかんないから」

俺がそうからかうと彼女も笑って答えた。


「そうだよね。ミツキじゃないとわかんないよね。」




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