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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第2章 混沌のゴールデンウィーク。
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よくがんばった。

私はあまり感情を表に出さない。

他人は他人だから、人間関係で悩んだり怒ったりするという感覚がよくわからない。

だから他人に対してこんなに不快感を覚えたのは初めてだ。

何でもわかったふりして、踏み込んでほしくないところまで踏み込んでくる。

「ヨッシーからきいたんですか?」

「いや、美帆からはなにも聞いてないよ」

ミツキはいうはずない。

「男子から聞いたのね?」

「ああ、君の弟くんからね。」

大樹が?

「大樹はまだ三つだったのよ?覚えてるわけないじゃない」

「でもこの子からしたらたった3年前の出来事だよ?もちろん君にとってもね」


『大樹!ライダーが始まるぞ!』

『とっちゃ!ライダー!』

大樹はお父さん子だった。

お父さんは子煩悩で仕事に熱心な方ではなかった。

休日出勤はもちろん、残業すら数えるほどしか覚えがない。

友達も少ない方で基本家にいては大樹と遊んでいた。

私は小さい子どもが苦手で弟との接し方が分からず、距離をとっていた。

大樹がお父さんにべったりだったから、自然とお父さんとも触れ合う機会は減っていた。

『今度みんなでランドにいこうか』

お父さんは年に一回必ず家族旅行を企画していた。

この年の行き先はランドになりそうであった。

私は高校受験が大詰めにはいっていたが、正直ランドはぐらっとくるほどおいしい提案だった。

『1泊2日くらいいいだろう。これから大詰めだから最後の息抜きだと思って』

そういわれると断る理由はない。

『別にいいけど』

『やだ!』

拒否したのは大樹だった。

『ボク、パンがいい。』

お父さんがなだめる。

『大樹?パンは去年行ったじゃないか』

『とっちゃ!パンがいい!』

弱ったなと頭をかくと父親に私は提案した。

『パンの方にいけばいいじゃない。』

『智香、いいのか』

『ええ、私は勉強してるから三人で行ってきてよ』

その時の悲しそうな父の顔は未だに脳裏に焼き付いて離れない。

『じゃあ行ってきます。』

それが父の最後の顔だったから。


意地悪をした。

大樹にじゃない。

大好きなお父さんに。

一緒にいったってよかった。

4人で行けばどこだって楽しかった。

自分が許せない。

お父さんのあの顔を見た時、胸がすっとした自分が許せない。

姉に成りきれていなかった自分が。

でもずっといい子にしてきたのに。

たった一回のワガママさえ許してもらえないの?

たった一回意地悪しただけじゃない。

私のほうが先だったんだ。

生まれてきたのも。

お父さんが好きだったのも。

全部私のほうが先だったのに。


「大樹はなんて?」

京平さんは私の顔をまっすぐ見つめる。

「お父さんのことはあまり覚えてないって」

やっぱり、あの子はまだ三つ……。

「でも姉ちゃんのことは覚えてる」

大樹の寝息が部屋に響く。

「私のこと?。」

「ああ」

横をみると大樹の寝顔が、幸せそうな寝顔が目に入った。

つやつやの髪、大きな頬。小さくとがる唇。

すべてが愛おしいほどかわいい私の弟。

「ここまで育てたのは君だ。」

小さく動く布団。小さな体で一生懸命呼吸している。

この子が生きているという証。

「君は本当によくがんばったんだ。」

あなたに何がわかるっていうの?

「私はがんばってない。全然」

あなたの境遇も知ってる。

あなたの方がずっと頑張ってきたっていうことも知ってる。

だからって私の気持ちがわかるっていうの?

それはなんというかまぁ…。

「がんばってるのは大樹なの。この子はもの心ついたころからずっと。」

私は小さいころからずっと両親に愛された。

大切にされた思い出がたくさんあるのに。

私は大樹になにもしてあげられてない。

でもわがままひとつ言わないこの子に、わがままなんて言えない。

「今度授業参観あるんだろ?必ずいってあげな。何があっても」

そう言い残すと京平さんは部屋から出ていった。


すやすや眠る大樹の頭をなでる。

髪、伸びたね。明日切ろうか。

手を軽く握る。

小さい爪は少し伸びただけでも危ない。

すこし笑ってしまう。

この間切ったばかりなのにもう伸びている。

今日のバイキングはせっかく肉祭りだったのにたこ焼きばかり食べてたね。

たこ焼きはおいしかった?

今度家でも作ろうか。

たこ焼きパーティーとかにしたらもっと楽しそう。

私の手を振りほどきライダーのぬいぐるみを抱き直す。

ぬいぐるみとってもらえてよかったね。

姉ちゃんはクレーンゲーム苦手だからとってあげたことないから。

今日楽しかった?

こんなに遠出したのは久しぶりだよね。

最後の遠出は2歳のころ。

パンの博物館以来だね。

大樹、せっかく広いのに最初のアトラクションでずっと遊んでたっけ。

もうとっくの昔に卒業しちゃったから今は行きたいなんて思わないよね。

行きたい。

もう一度だけでいい。パンの博物館に、四人で。

子どもの寝息を聞くと落ち着く。

『君は良くがんばった。』

私は頑張ったのかな?

これでよかったのかな?

できなかったこと方が断然多いのに。

私は精いっぱいやってきたけれど良い姉になれた?

ねえ大樹。

ねえ、お父さん……。


その時大樹が寝返りをうち、軽くうなる。

暑かったかしら。

大樹の布団を腰まで下ろす。

「んんっ」

「大丈夫だよ。おやすみ」

大樹のおなかに持ってきたタオルをかけてあげた。

「ん~ん」

まだうなされる弟。

いけない。今日は興奮しすぎてしまったかもしれない。


「……とっちゃ……」

私はあなたのようにはなれていない。

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