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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第2章 混沌のゴールデンウィーク。
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大樹がいない。

皇帝ゲームを終え、弟を探すために私はエレベータに乗る。

ゲームコーナーは確か1階にあったはずだ。

私はエレベータの1階のボタンを押した。

今日はほとんど大樹を放置してしまった。

大樹自身がとても楽しそうだったけれど、一抹の罪悪感が胸を締め付ける。

姉である私がしっかりしないといけないのに今日はたくさん流されてしまった。

学校の私と家庭の私は違う。

今日は両方の環境が入り混じっていた。

みんなはみんなだけでも楽しそうだったから、今日は家庭の私じゃないといけなかった。

大樹には私しかいないのに、私は。

ゲームコーナーにつくとそこには誰もいなかった。

大樹の姿も。


私は自分の部屋の扉を乱暴に開ける。

そこには布団で寝息を立てる大樹と、それを見守る京平さんの姿があった。

あぐらをかいて寝顔を眺める姿はお父さんに似ていた。

少しだけ、ほんの少しだけ。

息を切らせる私に気づいた京平さんは人差し指を立て、自分の唇にあてた。

「ちょうど今寝たところ」

私は息を整え、靴を脱ぎ部屋に上がった。

「早かったね。もしかして途中で抜けてきた?」

「いいえ。お開きになったわ」

それを聞くと京平さんは軽く伸びをした後、立ち上がった。

「そっか。じゃあ僕も部屋に戻ろっと」

京平さんが玄関を指さす。

「大樹くんの部屋鍵は玄関のスイッチに挿してるから。」

そういうと私の横を通り過ぎて行った。

「じゃ、おやすみなさい。安原さん」

出口に向かう彼に振り向くこともできない。

ホントは言いたいことがたくさんある。

大樹の寝るところを邪魔しないでほしかったとか、ゲームコーナーから戻るなら一言ほしかったとか。

でも違う。今言うべきことはそんなことじゃない。

クレーンゲームで獲ったのだろうか。

大樹はライダーのぬいぐるみを抱いて眠っていた。

「今日はありがとうございました。大樹とあそんでくれて。」

それを聞くと、京平さんは少しほほ笑んだ。

「どういたしまして」

そういうと玄関にそろえている靴を履き始めた。

自分でもよくわからない不快感がある。

今日大樹にこんなにもよくしてもらったのに。

この男に対する嫌悪感は一体なんなのだろうか。


3年前、大樹が3歳、私が中3の秋。

突然父が倒れそのまま帰らぬ人となった。

なんの前触れもなく、突然のことだった。

持病があったわけでもなく、無理が祟ったわけでもない。

会社で急性心不全を起こしたのだった。

私が4時間目の授業を終え、母からの電話にかけなおしたときには全てが終わった後だった。

それからは悲しんでいる時間はなかった。

母は私たち二人を養う為に仕事を始めた。

私は受験勉強の傍ら、大樹の面倒や家事を全てこなした。

子どもとあそんだことなどなかった私は年の離れた3歳児の相手をするのも一苦労だった。

自分の感情だってうまく相手に伝えられない私が天真爛漫に子どもの相手ができるわけがない。

私は姉として一生懸命、大樹を育てたがきっといい姉ではなかっただろう。

大樹は私にものをねだったことがない、遊ぼうと誘ったこともない。

何かを訴えるときは寡黙になるだけ。

その時はなにもしなくてもいい。

一緒にそばで黙っているだけで自分の中で消化できるようだ。

この子はわがままを言わない。

私や母にとってどうすれば楽な子になれるのかを知っている。

いい弟になろうとしているのだ。

ならば私もいい姉にならなければなるまい。

私は父が亡くなってからの3年間、放課後も休日もすべて大樹のために費やした。

朝ご飯も夜ごはんも全部私が作っている。

お弁当だってほとんど冷凍食品だけど毎日作っている。

だれかに褒められたいわけじゃない。

大樹に感謝されたいわけでも、母に感謝されたいわけでもない。

これが自分の配役だと自負しているだけのだ。


それをこの男はさせてくれない。

自分の視界から子どもが消える不安を理解していないんだ。

たしかに彼のおかげで、修学旅行だってキャンセルした私は初めて友達との旅行を楽しむことができた。

感謝はしている。

こんなの間違ってる。

だけど言わずにはいられない。

これが私の配役なの。

「明日はあまり大樹を連れまわさないでください。」

靴をはき終えた彼がゆっくりと振り向いた。

「……あの。やっぱり、小さい子が手の届くところにいないのは不安なので」

彼はなにも言わない。

「あなたは今日初めてあった人じゃないですか」

お願い。何か言ってください。

「そんな人、信用できませんから」

自分を嫌いになってしまう前に……。

「君も大樹くんと一緒だね。」

私は思わぬ言葉に驚く。

「なんの話ですか」

「だれかに頼られたい。でも頼りたくない。甘え方が下手なんだ」

「たった半日で知った風なこと言わないでください」

この男への不快感はこれだ。

自分が大人だと思って、全て見透かした風なことを言う。

なにも知らないくせに。

「大樹くんは君に頼られたがってる。無理してる姉は無力な自分を認知させるだけだよ」

「あなたに言われなくたってそんなこと!」

「わかってるんだよな。今まで本当によく頑張ったと思う。君はだれにでもできないことをしたんだ」

「あなたに褒められたくてやってるんじゃない!!」


「お父さんに褒められたら納得するのか?」

?!この男なにを?

「お父さんが褒めてくれたら自分を許せるのか?」


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