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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第2章 混沌のゴールデンウィーク。
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腕相撲しなさい。

吉川さんの提案で始めた皇帝ゲームを始めてからもう一時間になる。

あたしの名前は泉野早枝。

今回の旅行についてきたわけだが、あまり話したことがない人ばかりだし、高岡さんとは未だ気まずさが残る。

そもそもあたしに友達と呼べる人間はいない。

作るつもりもない。

怖い。

そしてなにより、あたしみたいな人間は友達など作る価値もないのだ。

傲慢で、攻撃的で、嫌味で。いじめをしてきた自分が嫌い。

そしてあの日からなにひとつ変わっていない自分が嫌い。

そんな中、あたしに積極的にかかわってくるやつが一人だけいる。

松本だ。

松本とは1年の時からの付き合いだ。

ウチのピザ屋でバイトを募集したところ面接にきたのが出会いだった。

自信過剰で慣れ慣れしくて、ナルシストな同い年の男子。どんなに拒絶してもなにごともなかったのように距離を詰めてくる。

でもそれが居心地がよかった。

どんなに攻撃しても笑っている彼にあたしは自分の居場所を求めた。

彼と仕事するあのピザ屋があたしの青春だった。

自分が嫌いなのに変われないでいるあたしを、そのままのあたしを好きだと言ってくれる。

初めて告白されたのは高1の秋、店じまいをしているときだった。

あたしは受け入れられなかった。

そんな良い思いをしちゃいけない。

いじめしていたことを彼は知らない。

それを打ち明けることすらためらっているあたしが彼氏なんて作っていいわけがない。

拒否してからも彼は何度も告白してくる。

それでも彼と距離を置かない自分の卑しさに腹が立つ。


『この4人とハラッチの5人でゴールデンウィーク1泊旅行行きたいんだけど2人でバイト2日空けていい?』

あの日教室で告げられた提案にあたしは焦りを覚えた。

でもこれでいいんだ。

あたしに構っていること事態おかしいんだ。

松本は松本であたしに縛られずに……。

『あたしも連れて行きなさい。』

あたし自身自分の言葉に驚いた。

この旅行は吉川さんと松本が企てたものらしい。

表向き高岡さんと良太をくっつけるためらしいのだけれど。

『ウチはね松本が好きなの。』

吉川さんがこの旅行を企画したのは松本に告白するためだ。

この旅行に来るべきではなかった。

吉川さんは松本が好き。でも松本は……。


「さあ、ジャンジャン続きをやろうぜよ」

安原さんの命令で語尾に『ぜよ』をつけて話さなければならない松本は割り箸をかき集める。

「だぁめ。手品できる松本がそれやるのは信用できない」

吉川さんが松本から割り箸を奪い取ると松本は舌打ちをした。

皆、くじを手に取り、自らの配役を確認する。

「王様だーれだ」

王様はあたしだった。

「王様はこのあたしよ」

「げっ。さっきからえげつない命令ばかりする暴君じゃねーか」

「松本くん、『ぜよ』忘れないで」

安原さんにたしなめられる松本。

このゲーム、一見王様の命令が制限されると思いきや実は皇帝の存在が大きい。

黙認しても正体のバレナイ皇帝が止めないということは王様の命令に賛同してくれるということ。

むしろ独裁の王様ゲームよりも罪の意識が低いのである。

「じゃあ命令するわ。1番と2番は腕相撲をして、負けた方は勝った方の頬にキスなさい」

指名された二人は赤面しながら手をあげる。

高岡さんと今井である。

偶然ではない。

この一時間ずっと割り箸の癖を観察してきたのだ。

あたしはこの旅行のお邪魔虫。

せめてこの二人に貢献くらいはしてやろう。

ちなみに皇帝を引いているのは恐らく吉川さんだ。

「お願い皇帝止めてぇ」

高岡さんの願いは届かない。

「はいはい。観念しなさい。ウチがレフリーやってあげるから」

自らゲームを進行する皇帝。

どうやら良い仕事をしたようだ。

二人は夕飯のウチに敷き詰められた布団の上に横になる。

今井は目の前に広がる浴衣から見える高岡さんの胸元からあわてて目をそらしていた。

「じゃあ行くよー?レディー?ゴー!」

吉川さんの掛け声で腕相撲が始まる。

男子の今井の勝利で一瞬で勝負が決まると思いきや、なかなかに良い勝負である。

キスしたくないと高岡さんが頑張っているのか。

それともキスしたいと今井が手を抜いているのか。

この勝負は今井の匙加減で決まる。王様のあたしではない。

「お前ほんとげすいぜよ」

松本になじられるが知ったことではない。

それにしても本当に勝負がつかない。まさか……。

「今井、あんた手を握っていたいだけじゃ……」

その途端、今井の顔に動揺が見えた後、勝負は今井の勝ちに終わった。

キングオブむっつりをなめてはいけない。

息を荒げる今井に吉川が語りかける。

「今井……あんた……」

「ちがう!ちがうから!」

同じく息を荒げながら浴衣を整える高岡さん。

今日何度見た光景か。

「もお最悪。キスすればいいんでしょキスすれば。」

「そうそ。情熱的なの頼むわ」

「いつか罰が当たるわよ泉野さん」

いじめ時代でもみたことのない冷酷な視線があたしに注がれる。

「さあ隣に座って。良太」

浴衣を直し終えた高岡さんは正座して自分の横をポンポンと叩く。

「いや、でも」

「頬にキスぐらいなんともないわ。いいからおいで」

「あっはい」

高岡さんの横に座る今井。

みているこっちまでドキドキしてしまう。

「俺達がみてたらやりづらいぜよ。後ろみとこうぜよ」

松本の提案に吉川さんもあたしも乗る。

「それもそうね」

振り返るとスマホを構えた安原さんが立っていた。

「ハラッチ……」

「えっ?あ……いや冗談冗談」

「さすがに写真に残すのはひどいよ。ね?ミツキ?」


二人の方を振り返ると高岡さんは今井の頬にキスをしていた。

静まり返った男部屋にスマホのシャッター音が静かに鳴っただけであった。

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