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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第2章 混沌のゴールデンウィーク。
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覗く気だろ

チェックインの時間になったので俺たちはそれぞれの部屋に入る。

どうも、俺は今井良太です。

部屋は全3部屋で、部屋割はこうだ。

俺と松本と京平さん。

高岡さんと吉川さんと泉野さん。

そして安原さんと弟くんだ。

部屋はかなり大きめの和室になっていて、男三人でも問題ないくらいだ。

ベッドが見当たらない為恐らく敷布団になるだろう。

「ご飯まで寝てるから起こしてくれ。」

京平さんは部屋に着くなり、畳の上で雑魚寝を始めた。

さすがにこの長距離運転で疲れたのだろう。

そのあと安原さんの弟、大樹くんの相手もしてあげてたし。

恐らくくたくたなのだろう。

「寝かしといてやろうぜ。さっ、俺たちも飯までだいぶ時間あるし風呂いこーぜ風呂」

それもそうだな。

実は俺もかなり楽しみにしていた。

温泉旅館なんて初めてなのだ。

すると後ろですっと人影が起き上がった。

それは京平さんだった。

「許さんぞ。風呂なぞ許さん。」

「へっ?」

俺と松本は思わず間抜けな声をあげる。

「血気盛んな男子高生が二人風呂だと?隣に入るクラスメイトの女子だと?覗かないわけがないだろう」

「ふつーに逮捕されんじゃないですかね?」

「うるさい!美帆の裸は僕が守る!!」

怖い。大人の威圧感とかじゃなく単純に思想が怖い。

「絶対覗きませんから!本当ですから!」

「性欲サル野郎の言葉など信じられるか!僕もいくぅ。」

こうして俺たちは一回り近く年の離れたおじさんと裸の付き合いをすることとなった。


風呂につくとそこは以外と子どもであふれていた。

家族連れの多い温泉旅館らしいため無理もない。

こんな人ごみで覗きをしようものならまず間違いなく現行犯逮捕だろう。

しかもここは男湯と女湯が時間で入れ替わる仕様で、二つのお風呂はかなり離れているようだ。

どこかによじ登って覗くなどお約束はあり得ないのである。

第一、漫画やアニメご用達の演出で実際にやろうとする者はすべからく変態くらいである。

「な~んだ。時代の流れを感じるわ」

お前ん時代は普通だったんか。

タオルを腰に巻く京平さんの右手を大樹君の左手が繋いでいた。

京平さんが気を利かせて声をかけたらしい。

ところどころ大人の気遣いが見えるから侮れない。

「大樹はもう頭自分で洗えるのか」

「馬鹿にしないで。当たり前でしょ」

「な~んだ。せっかく僕が頭洗ってやろうと思ったのに。」

「むしろ背中流してあげようか?おじさん。」

京平さんの右眉毛がピクリと動いた。

「お兄さんはまだ20代なんだけどな~。まだ28歳なんだけどな~。」

かなり敏感なところだったらしい。

大樹くんは気にせず頭を洗い始めた。

俺たちは体を早々に洗い終え、本日の長旅の疲れを流す。

備え付けのシャンプーの香りが、胸の奥深くまで浸透する。

体を洗い終えた野郎4人衆は湯船めぐりへと繰り出すのであった。

もちろん狙いは露天風呂である。

露天風呂からは山肌が見える。

旅館自体高いところにあり、男湯がさらに高い階にある為景色は格別である。

きっと秋に来て紅葉を見ながらの露天風呂は最高だろう。

「景色やベー!たっけー!」

丸出しで松本がはしゃぐ。

気持ちはわからんでもない。

はしゃぐ男子高生をしり目に、大樹くんは静かに目を閉じお湯を楽しんでいる。

さっきはライダーごっこで大樹君もはしゃいでいたが、やっぱり基本静かで大人な雰囲気がある。

さすがは姉弟といったところか。

俺も静かにお湯を楽しむとしよう。

俺はお湯につかり一呼吸ついた。

柔らかく、少し熱めのお湯が心地よい。

すると俺の両サイドに松本と京平さんが詰め寄ってきた。

語り始めたのは京平さんからだった。

「時に今井くんだったかな?君はアレなのかい?あの子にホノ字なのかい?もう付き合っちゃったりしてるかい?」

言い回しが絶妙に古い。

「どうなんだよ。高岡さんとなんで急に仲良くなったんだよ。」

男の恋バナほど見苦しいものはないが、悪い気はしない。

傍からみて俺達がそういう関係に見えているのだろうか。

自分のことで精いっぱいだったから客観的に見えていなかったのだ。

「片思いだよ。片思い。」

「告白はしたらしいな。それからか?」

俺はコクリと頷く。

すごい恥ずかしい。

恋バナを恥じらってる自分がまた恥ずかしい。

「まじか?!君以外とガッツあるね。身の程知らずというかなんというか」

すごい失礼なことを言われた気がする。

「いつ告白したんだよ。」

言うべきなのだろうか。

あの告白はなかったことになっている。

俺はあの時告白自体を受け入れてもらえなかった理由がなんとなくわかってきてしまった。

二人の中でなかったことにしている告白他の人にペラペラ話して良いのだろうか。

もう吉川さんには言ってしまっているわけだが。

「髪きったときか?」

まだ頭がまとまらないうちに松本に図星をつかれる。

「やっぱりなー。あそこからお前すげえ変わったもんな。バイト始めるわ。眉毛いじるわ。旅行だって前のお前なら来てなかったろうしな」

「身の丈にあってないのは自覚してるからね。精いっぱいの背伸びだよ。」

すると京平さんが割って入る。

「身の丈にあってない恋愛なんてないだろ。精いっぱい背伸びした自分が等身大の自分だろ?」

あんたさっき身の程知らずっていってたろ。

でも俺は違ったのかもしれない。

背伸びすることに夢中になりすぎて。

結局自分のことしか見ていなかったのだ。

もっと彼女のことを知りたい。

彼女に自分を知ってもらいたい。

彼女に俺を好きになってもらいたい。

その時初めて、彼女を好きになれる気がする。

彼女に好きになったといえる気がする。

「京平さんもそういう恋したんですか?」

松本が質問した。

「お前らと同じくらいのときにな。今井くんよりも背伸びしたもんよ」

「クラスのマドンナってやつ?」

京平さんはいやいやと笑って答えた。


「先生に恋したんだ。僕は。」


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