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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第2章 混沌のゴールデンウィーク。
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見てみたい。

手を握り合ってる二人。

いや、表向きそれが狙いでウチと松本で今回の旅行は計画したんだけど。

肝心のウチの方が計画通りに運ばない。

ウチの水着で松本をドキドキさせるはずが急に照れくさくなってしまった。

断じてウチが意識しているわけではない。

あの鍛え抜かれた肉体美に少なからず動揺したのは認めるが、意識したわけでは断じてない。

この吉川美帆が惚れたわけではないの。

松本がウチに気があるの。

さっきからイチャイチャを見せびらかしている二人はようやく目の前で水面から顔半分だけ出しているウチに気がついた。

「うわあ!」

男子の今井の方がのけぞって驚いた。

どこまでもみっともない男よ。

せっかく繋いだ手を離してしまっている。

ミツキは少しもびっくりした素振りも見せない。

「やほーヨッシー。どう?落ち着いた?」

「ウチはいつでも落ち着いているわ。」

この子は勘が良いくせにこういう的外れなことをたまに言うのだ。

ウチはいつだって冷静だというのに。

両手をプールサイドにつき、ウチはプールから上がった。

「で?みんなは?」

「ん~。自由行動かな?」

「そっ」

ウチはプールの水面をボーっと見つめる今井を横目でちらりと見る。

わかる。

わかるわ。

水着の女子をこんな近くで見ることなんてあなたの人生できっと無かったのでしょう。

どこに視線を置くかも決められず、ウチやミツキの水着を直視したいのにできないから水面を眺めるしかできないのよね。

それは松本も同じこと。

水着という最強の鎧をまとった女子の前では男は赤子同然なのよ。

「さっ。二人のお邪魔になっちゃうしウチはそろそろ行くわね。」

ミツキに軽く手をふり、今井には耳打ちした。

「旅行中にものにしなさいよ」

囁くように今井にエールを送る。

「無理……かな?」

はあ~~?

あそこまで良い雰囲気に持って行って何チキってんのよこの童貞は。

やだやだ。

松本もこうなのかしら。

だからいつまで待っても告白してこないのね。

今井の肩にポンと手をタッチし、その場を立ち去ろうとすると後ろからミツキの声が聞こえた。

「松本くんならウォータースライダーやりに行ったよー」

「まっったく興味のないアドバイスありがとう!ごゆっくり!」


大きな曲線を描くプールサイドをずっと歩いているとハラッチの背中が見えてきた。

「お~い。ハラッチ~。何してんの~?」

そこは子どもようプールだった。

「怪人デリート」

何いってんのこの子は。

その瞬間ウチの顔面に水鉄砲の噴射が無慈悲に襲いかかった。

「あれ?怪人デリートじゃない。」

ハラッチの弟の大樹君だ。

まずはごめんなさいしようか。

「ふはははは。デリートは貴様のスプラッシュブラックを無かったことにしたのだ」

ハラッチ、やるならせめて棒読みやめてあげなよ。

「くそう。今のが最後のフルパワーだったのに」

「あきらめるのは早いぞブラック!」

後ろからすっごい聞き覚えのあるおっさんの声がする。

振り返るとそこには足を開きケツを突き出し、腰に手を当てこちらを指さす兄の姿があった。

「無限の空と限りない闇があれば、飲み込めないものなどこの世にない。いくぞ。」

「おう!スーパードッキングブラスト」

「「ギャラクシーウェーブ!!」」

なにそれーーー!!

その二人の放った最後の攻撃はすべてウチの顔面を襲った。


ひどい目にあったわ。

顔をタオルで拭きながら歩みを進める。

あいつの特撮好きも困ったものだ。

まあ、おかげでハラッチが旅行を楽しめているのは事実だし今回は大目に見よう。

ハラッチは何でも抱えこんでしまうのだ。

ウチにもミツキにも、きっと弟くんにも弱みを見せない。

だからこそ見ていてこっちが怖くなる。

この旅行楽しんでくれてればよいのだけど。

「あっヨッシーじゃん。」

ふと右を見ると松本が立っていた。

落ち着けウチ。

教室と一緒、職員室と一緒、違うのはただ相手が服を着ていないというだけだ。

「ちょっと。今井とミツキくっつけよう作戦はどうなったのよ」

「だってあいつら、ほっといてもうまく行きそうだし」

ごもっともである。

泉野の姿がない。

てっきり松本の周りをうろついているものかと。

「一人?」

「ああ。泉野もいたんだけど連れまわしたら怒ちゃって。」

あのお邪魔虫がいないのは大チャンス。

松本を悩殺させてやるわ。

もっとも、松本はもう落ちてるといっても過言ではないのだから。

あとひと押し彼が踏み出すきっかけ、テンションをちょいと張ってやれば終いよ。

手を後ろで組み、胸をはり、松本に距離を詰める。

「さっき、二人見てきたけどね。ミツキはいいんだけど今井がね。チキンよチキン。」

「ははっ。水着の高岡さんと二人きりになって大丈夫なだけでも成長したよあいつ」

「ミツキはね、男子に人気あるんだから。今井みたいなやつは競争になったら勝ち目無いんだからもっとぐいぐい行かないとだめなの」

「今井はな。色々考えてると思うよ。考えて考えて。一歩進んでは一歩逃げて。その繰り返し」

ふと見上げると松本はやさしい笑顔でウチの顔をじっと見つめる。

「一歩進んで一歩戻っても同じじゃないんだ。一歩先を見てきたのは無駄じゃない。最近のあいつみてるとな」

松本はウチの頭に大きな手を置いた。

「人を好きになるって本当にすげえことだって思うんだ」

心臓がどきどきする。

手汗がすごい。

視界が鼓動に乗ってグワングワン動くのに松本から視線が離せない。

好き。

好き。

大好き。

本当はとっくに気づいてた。

好き。

好き。

めっちゃ好き。

伝えたい。

どんな顔するのかみてみたい。

その顔が。


ウチにまったく興味のないその顔がどうなるのかを。



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